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-170-:もう、お嫁に行けないよねぇ

 しゃがみ込んでいる女子生徒の長い髪がグイッと掴み上げられた。


「イオリぃ、もう一回、悲鳴を上げろよ。なぁ、お前を襲ったのは、この男子なんだろ?」

 イオリと呼ばれる少女が首を横に振ると、さらに髪を高く掴み上げられて、無残に焼かれたヤケドの跡が姿を見せた。


「可哀想に。この男に、散々ヒドい目に遭わされて。もう、お嫁に行けないよねぇ」

 リーダー格の生徒がイオリに顔を寄せる。


 イオリは痛みと恐怖に声を発する事が出来ずに、ただ涙が流れ落ちる目で皆に訴えかける。


「もう、彼女をイジめるな!」

 タツローが制するも。


「先生読んで来いよ。痴漢を捕まえたって」

 リーダー格と思しき女子生徒が、他の生徒に指示を出した。


 タツローたちの横をすり抜けて、女子生徒が女子トイレを後にした。


 リーダー格の生徒が不敵な笑いを浮かべながらタツローへと寄る。


「イオリが証言してくれるなんて希望も持つなよ」

 思いも寄らぬ言葉が耳元で囁かれた。


「コイツはね、私たちにイジメられたくない一心で、すでに万引きや器物破損の罪を犯しているのさ。それをネタに脅してやれば、痴漢のねつ造くらい、あっさり引き受けてくれるさ。くくく」

 あざ笑うリーダー格からイオリへと目線を移す。


 我が身可愛さに、犯罪に手を染めてしまうなんて…。憐みの目を向けてしまう。だけど。


 イオリはただ俯いて。

「ご、ごめんなさ…い」


「な、何を謝っているんだ?君は!」

 意味を察したタツローは茫然と彼女を見つめる。


(ぼ、僕ばかりか…。このままじゃあ、姉ちゃんまで、この学校から追いやれてしまう)

 状況を把握しても、もう、どうする事もできない。


 だけど、何かできないか、考えを巡らせる。


 ここで諦めたら、全部コイツらの思うままじゃないか!


 タツローは立ち塞がる女子生徒と押しのけて、女子トイレから脱出を図る。


 今はどうする事もできないけど、この生徒たちのイジメを知る誰かが、誰かがきっと、これが冤罪だと気付いてくれるはず。だから、とにかく。


 脱出だ!


「逃がすものか!」

 イオリを投げ出して、全員でタツローを追う。


 出口まであと一歩。


 と、いうところで、さっき先生を呼びに出て行った生徒と、出口で鉢合わせになった。


 ぶつかる一歩手前。


「危ない!」

 誰かが咄嗟に声を掛けてくれた。


 思わず避けた先に壁!ブチ当たる!


 と。


 グイッ!と力強く誰かがタツローの腕を掴んだ。



 しまった!


 不覚にも捕まってしまった。



 何としても、この手を振り解かなくては!




 (はや)るも、腕を掴んだその手は、何故かしら、ゆっくりと優しく自らの方へとタツローを引き入れてくれた。



 この感覚、まさに地獄に仏。


 危うく壁にぶつかりそうなところを助けてくれた張本人へと向く。


 ……へ?


 事態は急転直下!


 何と!タツローの腕を掴んでいるのは。



 御陵・御伽(みささぎ・おとぎ)ではないか!




 クレハから粗方理由は聞いていたけど、やはり何を言われるか分からない恐怖は未だに抱いている。


 なので。


「うわぁぁぁ!」

 思わず悲鳴を上げて、後退りするも、オトギにしっかりと腕を掴まれているため、思うように後ろへと下れない。


「お、落ち着いて。タツロー君」

 困惑するも、その手はしっかりと離さない。


「ど、ど、どうして!どうして?御陵さんが!?」

 もはやタツローは混乱状態に陥っていた。


 すると、オトギは捻り上げていた女子生徒の手を解放して、前へと突き飛ばした。


 解放された女子生徒は痛む手首を抑えながら、仲間の影へと隠れる。


 オトギはタツローの腕も解放すると、一歩前へと歩み出て。


「貴女たちを、喫煙と他の生徒への暴力及び恐喝行為の現行犯で告発します」


 毅然とした態度で宣告するオトギの姿に、タツローは助かったのだと安堵すると、急に膝に力が入らなくなり、その場にへたり込んでしまった。


 見上げるオトギの背中は、やけにたくましく…!?その影でタツローは目撃した。




 イオリという生徒が、オトギが登場した瞬間、意図的に目を逸らした事を。


(あれ?今何で彼女、御陵さんから目を逸らしたんだ?)



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