-165-:もう、黒玉教会には慣れた?
あれから二日が経ち…。
あれほどの被害を被ったにも関わらず、天馬学府高等部は明くる日から修繕工事に取り掛かり、一日とて休校もせずに平常通り授業を再開していた。
生徒全員(帰宅した生徒は除く)シェルターに避難していたおかげで、怪我人すらいない、不幸中の幸いとは、この事を言う。
平常通りとはいえ、やはり自然災害(盤上戦騎の暴れ回った後)により、少数の生徒たちが軽度とはいえ、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症しているために、部活動を自粛している部も多い。
弓道部も自粛している部のひとつだ。
クレハはヒューゴと仲良く校門を出たところで。
ベルタと出会った。
「お待ちしておりました」
偶然ではなく、明らかにベルタは二人を待っていた様子。
ふたりは顔を見合わせて、これにはウラがあると見ると。
「もう、黒玉教会には慣れた?」
全力で話を逸らしにかかる。
「申し訳なく思うほどに、手厚いもてなしを受けています」
話を聞いて安心したと言うよりも、ココミとライクの関係が、敵対していながら、非常にヌルい関係にある事に脱力感を覚える。
敵陣の真っ只で生活しているというのに。
「それよりも今日は、貴方達にお願いがあって参りました」
途中で会話を切ったばかりか、いきなり用件に入りやがった。
うまくやり過ごせると思ったのだが、残念。
「草間・涼馬様のところへ御挨拶にうかがうところで、ご一緒にどうかと、参った次第です」
彼女はケーキの箱を手に下げている。
「俺の時は、そんなの無かったな」
告げるヒューゴは、少し不服そうな態度を見せている。
「ダナを預かってもらっているお礼も兼ねての訪問です」
それを言われると納得せざるを得ない。
ヒューゴは、その日のうちにココミたちの元へ、ベルタを送り返していた。
二人は気が乗らないものの、ダナがどんな人物なのか興味があったので、ベルタに同行する事にした。
「助かります。一人だと何かと心細くて」
不安気な彼女は、一見して可愛らしく見えるものの、やはりオッサン成分が抜けないヒューゴは「あ、うん」気の無い返事。
草間・涼馬宅へ―。
大きく立派な一軒家だった。
確か、彼の父は、全国に系列病院を置く草間会病院の総裁だったと聞く。行く行くは政治に進出するとも噂されているほどの人物だ。
いざ訪問となると緊張して止まない。
ヒューゴが、恐る恐るインターホンを鳴らそうとすると。
「ご家族の誰かが出たらどうするの?」
クレハは及び腰。
「その心配は要りませんよ。彼は独り暮らしです」
ベルタの情報。
「そ、そうなの?ってか、何でベルタがそんな情報を得ているのよ?」
「ダナが教えてくれました。彼女、リョーマの口添えで、父君から正式に家政婦として雇われたのですよ」
息子の口添えで雇い入れるなんて、何て親バカなんだろうと、二人揃って思った。
インターホンを押したのに、返事が無い…お留守なのかな?思った矢先、玄関ドアが開いた。
「どちら様ですか?」
現れたのはメイド姿の眼鏡美女。
すると、奥から。
「だめじゃないか、ダナ。防犯を兼ねてドアホンが付いているのに」
しょうがないなと言わんばかりに、注意をしながらリョーマが現れた。
ヒューゴたちを目にするなり。
「何だ?君たちか」
いきなりのご挨拶。
やはり、ダナは気になるが、コイツには用事は無ぇ。
表向きニコニコ笑顔で彼に挨拶をする。
リョーマも胡散臭そうな眼差しでベルタたちを見やる。
迎えられ、リビングに上がった。
「お茶を入れてきます」とダナ。
彼女の後ろ姿に、クレハがふと。
「あれ?スカートの丈が長くなってる」
初めて出逢った時との違いに気付いた。
「ああ。彼女が現れた時と比べたんだね」
違いに気づいてくれたのが嬉しいのか、彼の表情が幾分か柔らかくなった。
「スカートの丈が膝上だなんて、フレンチメイドじゃあるまいし」
随分と、こだわりがある模様。
「フ、フレンチメイドって?」
二人は、そんな言葉を聞いた事すら無い。




