-163-:お迎えに上がりました
黒側のライクたちも帰った事だし。
とはいえ、この学園の破壊され様…。
「結構派手にやられたな」
両手を腰に当てて、困ったとばかりに学園を眺めるヒューゴ。
校舎それ自体は、1年生たちの1号棟が階段部分をえぐられた程度。
2年生の2号棟は爆風でガラス窓がすべて粉々に散っている。だけど、壁面にヒビも入っていないので、さほど大した事は無さそう。
で、3年生の3号棟は…全くの無傷。
学園のシンボルである時計塔は、もはや取り壊した方が安全と判断するレベル。もう、周囲は立ち入り禁止にせざるを得ないだろう。
「そうかな?思ったよりもダメージは少なそうだよ」
少し嬉しげに否定しつつ、クレハはヒューゴの隣に並び立つ。
もう用事は済んだので、二人は学園へと向かう事に。だけど。
「よぉ、草間。お前が来てくれてホント助かったぜ。有難うな」
ヒューゴは振り向いて礼を述べる。
「勘違いするな、高砂・飛遊午。僕は君を助けた訳じゃない」
フッと小さく笑うと、リョーマは乗ってきたマウンテンバイクに跨った。
―!?
ふと、ダナを見やる。
「そうか。君はどうする?」
訊ねた。
「私はマスターの御意思に従います」
本来なら護衛として同行すべきなのだが、突然の出現に、リョーマを困らせはしないか?ココミの方をチラリと見やり困惑している。
彼女なりの配慮なのだと。
そんな困り果てているダナとココミを交互に見てリョーマは。
「君が来てくれると助かるよ。丁度父が家政婦さんを派遣しようとしていたところだったんだ。見知らぬ人の世話になるよりも、君なら幾分か気が楽になる」
眼鏡を人差し指でクィッと上げると、リョーマはダナに手を差し伸べた。
「護衛として、そして、メイドさんとして僕に仕えてくれないか?」
「結局メイドなのかよ?」
クレハのツッコミなどサラッと聞き流して、ダナは「喜んで」暖かい笑みを向けて、リョーマの手を取り握手をした。
「じゃあ、帰ろうか」
仲良く帰ろうとする二人に。
「自転車の二人乗りは交通ルール違反だぞ」
ヒューゴが冗談気に二人に告げる。
「分かっているさ。二人で話をしながら、ゆっくり歩いて帰るよ」
言って、彼らは帰路に着いた。
「羨ましいんかい?」
からかうように、ヒューゴの前に躍り出てクレハが訊ねる。
「いきなり眼鏡美人だもんなぁ」
そこは全く否定しない。
が。
急にココミへと向いて。
「ココミ。まさかベルタの時みたいに、夜中にクィックフォワードが俺の枕元に現れたりしないだろうな?」
念を押した。
「今回は霊力に余裕がありますので、あと30分くらいでヒューゴさんの元に現れるはずです」
30分…それでも突然現れてもらっても困るな。
だったら、もうしばらくココミと一緒にいた方が良さそうだ(コイツもココミに押し付けよう)。
「ココミィーッ!」
遠くからココミを呼ぶ声。声の主はルーティだ。
何だか、とても慌てた様子。
「あら、ルーティ。そんなに慌てて―」
「慌てるわ!アホ!ウチらの家が瓦礫になってるやんけ!」
天馬教会は、オフィエルによって、ものの見事に木端微塵に吹き飛ばされていたのだった。
「そうでしたね…」
ココミは困り顔。そして彼女に付き添うベルタも困った顔をヒューゴに向ける。
「お、俺の家はダメだぞ。今回みたいに難癖つけられて破壊されたら、堪ったものじゃない」
意図を察するなり即座に拒否。断固拒否。
そんな彼らのやり取りを、クレハはひとり冷静に眺めていた。
何度も言うけど、天馬教会の神父は、今回の戦いに巻き込まれて命を失っているのだ。
そこはスルーしてしまうのかい?
彼らのモラルに問いたい。
「どないするねん…?」
宿無しの女の子が3人。しかし、クレハもこの問題の打開策が見つけられない。
本当に困った。
「そんな事だろうと、我が主も危惧されていました」
ココミの傍に、彼女に向いて片膝を着く男性がひとり。
「誰?」
訊ねるココミに。
「お前、何をしている!?って、どこから現れた!?」
本格的に夏を迎えようとするこの季節に、フェイクファーの袖のベストを裸の上にまとった、寒いのか?暑いのか?分からない恰好をした男性。
人狼のロボの突然の登場に、クレハは思わず声を上げた。
「我が主の申し付けに従い、お迎えに上がりました。ドラコットの姫君」
「お迎え?」
彼女たちの動向が気になり、学園へと戻るに戻れなくなったクレハであった。




