-162-:意外と鋭いのね、お嬢さん
「身体のキレが全然違う??」
ヒューゴは倒れた状態で、耳にしたクレハの言葉を繰り返した。
そして、思い起こす。先程の戦いを。
盤上戦騎のアルルカンと戦った当事者だったからこそ、マサムネの身体能力を見誤り、不覚にも彼の放つ蹴りを受けてしまったのだ。
言われてみれば確かに…。
あんなに急激にと言うか、いきなりトップギヤに入れたような動きは見せなかった。
奥の手として隠していたとしても、その片鱗はどこかに垣間見せていたはず。
では、盤上戦騎のアルルカンは誰が操作していたのか?
クレハの右手がゆっくりと上がってゆく。そしてビシッと指差した先は。
「アンタね。ディザスターを操っていたのは」
まるで、犯人を言い当てるかのごとく、アルルカンを指差した。
「えぇッ!?」「馬鹿な!?」
倒れていたヒューゴ、リョーマが驚き持って上体を起こした。
「そ、そんなハズは無いだろ…。だったら、マスターとなった人間の役目は?」
ヒューゴが訊ねた。
「乾電池の役割」
短く、過ぎるくらいに要約して答えてくれた。
「あの…乾電池で盤上戦騎は―」
指摘を入れるココミは睨みを利かせて黙らせる。
「それと、包帯の操作ね。あんなメチャクチャ複雑な動き、身体を動かしながら同時操作なんて、聖徳太子でも無理だわ」
「二人の話を同時に聞くのと、あの包帯の操作を一緒にするのは…」
指摘するリョーマは目で殺す。
すると、アルルカンが突然拍手をして。
「意外と鋭いのね、お嬢さん。全く持ってその通りよ」
隠すことも否定さえもしない。素直に正解を認めた。
「あの攻撃、とんでもない複雑な演算が必要なの。私じゃあ、とてもじゃないけどムリ!だから、マスターのマサムネにお任せしたの」
よくよく考えてみれば、手こずっていたのは本体のアルルカンではなく、縦横無尽に襲い来る、そして瞬時にして防御に移れる包帯の方だったと、ヒューゴは思い返していた。
あまりにも素直過ぎるネタばらし。
それは、逆に。
もしも操者が逆だったのならば、本体相手に苦戦を、いや、窮地に立たされていたと戦慄する。
ヒューゴは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
「それと」
クレハの指先は、今度はマサムネへと向く。
「あなた、真島・導火でしょ?」
マサムネが舌打ちを鳴らす傍ら、リョーマは驚いた様子で。
「ば、馬鹿な!彼が、あの真島・導火であるはずが無い!」
即否定した。
「驚くのは無理も無いわ。でも、見る影も無く様変わりしていても、さっきの動き、真島・導火!ダイナマイト導火のキレッキレの動きに間違いないわ!」
散々な言い様に誰も指摘はしないが、聞いた事も無い二つ名に、ヒューゴは思わず「何やってた人なの?」クレハに訊ねた。
しかし、彼女は見事にスルー。
仕方がないので。
「お前、真島ってヤツの事を知っているのか?」
リョーマに訊ねた。
「知らないのか?あの真島・導火だぞ?」
この驚き様。常識を知らないのかと言わんばかり。
「あ、ああ。お手数でなければ、お教え願いたい」
無知を恥じるヒューゴに求められて、仕方なく人物紹介に入る。
「真島・導火は僕たちと同学年の学生で、中学時代に注目を集めたスーパーサッカープレイヤーだったんだ。一度火が着いたら誰も止められないドリブルテクニックに突破力。そんな彼を人々は、“ダイナマイト導火”と呼ぶようになったんだ」
何て安直な…。名前に導火線の導火が入っているから、ダイナマイトを付けたのか。
ヒューゴは彼の輝かしい経歴よりも、二つ名のダサさに強い印象を受けた。
「確か、冬の高校サッカーの予選で、前半にハットトリックを決めて、後半にベンチに下がったところで6点取られて負けたと聞くが」
貴重な情報のオマケ付き。
さらに。
「残り10分で6点取られたんだっけ」
クレハから得た情報は、それは衝撃的なものだった。
思わず「あちゃー」マサムネこと導火に同情してしまう。
そして、この弛み具合、きっとヤケ食いの後遺症なのだろうと、同情の眼差しで見つめてしまう。
「スゴーい。マサムネ、超有名人じゃなぁい」
嬉しそうに両手を合わせてアルルカンが告げるも、当の導火は笑みすら見せる事無く、「二度とその名で呼ぶな」告げると彼らに背を向けた。
去り行く導火の背中にココミは。
「ダイナマイト導火…」
言われた尻から、ポツリと呟いた。




