-156-:しぶといな。だが、それが何時まで続くかな?
それぞれの戦いが繰り広げられている中、ライク側2騎の盤上戦騎はそれぞれ外へと追いやられていた。
ウッズェはリョーマの必殺剣“冬の一発雷”を受けて破壊こそされなかったものの、衝撃でキャタピラーは破損。擱座状態に陥っていた。
そして、一方の木乃伊のアルルカンは。
大きく魔力を消費してしまった今、あえなく充填モードに入っていた。
消費する魔力を抑えられる代わりに、全ステータスが大きく低下してしまうリスクを伴う。
いくら騎士の駒といえども、ベルタを得た高砂・飛遊午と渡り合うのは困難。
全身を包帯でグルグル巻きに繭状の防御壁を築いて、魔力充填完了の期をうかがう。
そんな状態なので。
外の様子は、ライクか僚騎のウッズェから情報を得るしかない。
「有難いコトに、高砂・飛遊午のヤツ、完全にアタシたちの事を無視してくれちゃっているわ」
ウッズェからの映像が再びダナとオフィエルの方向へと向けられると。
「あぁッ!」
即座にアルルカンが残念そうな声を上げる。
「あとどのくらいで魔力の充填が完了する?」
マスターのマサムネが訊ねた。
「うーん…。それなら、あと5分てトコロかしらね」
「瞬間的に最大出力が出せれば充分だ。それなら、どのくらいで完了する?」
新たな時間算出を求めた。
「あと1分くらい…。ベルタが丁度ペリカン野郎に戻るのと同じくらいの時間」
アルルカンから回答を得たマサムネは「あと1分か…」呟いた。
4本腕の魔竜へと変身したエプシロンは。
ベルタを圧倒。ヒューゴは防戦一方へと追い込まれていた。
刺突という、ある程度距離を必要とする攻撃なので、幾分か余裕はあるが、それが先程までの倍の数となると、大きく勝手が違ってくる。
「ホラホラホラどうした?」
余裕を見せて、エプシロンは雨あられのごとく次々とサイによる刺突攻撃を連続で繰り出してくる。
時折、サイによる刺突攻撃が兜を掠める度に。
「うっ!」「くぁっ!」
クィックフォワードはヒューゴに身体を預けていながらも、驚きの声を上げていた。時々痛みも電撃のように走り、その都度声を上げていた。
気にはしないように心掛けてはいるものの、やはりヒューゴは気になる。
「あの、もうちょっと大人しく静かにしてくれないかな?」
堪らず口に出してしまう。
「分かっている。だが、もう少し余裕を持って避けてくれないか。こうもギリギリだと―うわっ!」
兜を掠めるほどの距離で避けて、カウンター攻撃にエプシロンの胸に脇差で斬り込みを入れる。
浅い!しかし。
それにしても、肝が据わっているというか、エプシロンは先程から浅いとはいえ、何箇所か傷を負っている。
なのに、呻き声ひとつ上げない。痛みを感じないのか?
エプシロンの元の腕のサイが下段から突き上げてきた。
ベルタの脇腹、フィン状の装甲が裂かれた。「ぐぁッ!」
堪らずクィックフォワードが痛みに声を上げる。
「おい、高砂・飛遊午!一度間合いを開けろ」
苦情が出た。さらに、その場しのぎの助言まで。
「退けるかよ!退いたら掌から熱弾を撃ちまくってきやがるぞ!」
退くに退けない状況。近接戦に持ち込んでいる状態が一番ベストだというのに。
「ビビる気持ちも、痛いのも解る。だけど、とにかく俺に任せてくれ。ベルタなんか、頭を吹き飛ばされても文句の一つも言わなかったぞ」
言い争っている場合ではないのは、お互い重々承知している。
しかし、そんな余裕は徐々に失われようとしていた。
エプシロンの繰り出す、サイによる刺突攻撃をことごとく脇差で打ち払ってはいるものの。
「しぶといな。だが、それが何時まで続くかな?」
耐え凌ぐヒューゴに感嘆しつつも、一切攻撃の手は休めない。
先程エプシロンが変身した時、彼の猛烈なパワーによって押し上げられた後、ずっと降下を余儀なくされている。
推力以上に剣圧で押されまくって、未だ一歩として押し返す事が叶わない状態が続いてる。
このままでは、再び地上へと着地せざるを得ないくなってしまう。
それだけは何としても回避しなければならない。空中で決着をつけないと地上すなわち天馬学園に被害が出てしまう。
エプシロンが一斉に手を退くと、瞬時に4本同時のサイによる刺突攻撃を仕掛けてきた!
元の腕のサイは両手の脇差で打ち払い。
新たな腕のサイによる刺突攻撃は、両肩の隠し腕でガッシリと掴んで食い止めた。
が。
エプシロンの単眼が赤く光ると、クチバシをベルタに向けて開いた。
クチバシの中には真っ赤に燃え光る火の玉が!
大きく見開かれるヒューゴ両眼。
「炎熱弾の発射口は掌以外にもあるんだぜ」
勝利を確信したエプシロンがほくそ笑む。
エプシロンの首を刎ねてやろうとするも、それぞれの脇差はすでにサイによって絡め取られているではないか。
ならば。
膝から突き出ている直刀で攻撃するか。しかし、エプシロンの首は上方へと伸びていて、とても届きそうにない。
そうこう考えている内に、ロックオンされた事を報せるアラートが、赤色照明の点滅と共にけたたましく鳴り響く。
「チェックメイトォ」
“詰み”に入るエプシロン。
―ブチッ!―
突然エプシロンの視界が失われてしまった。
「何か小細工でもしやがったか!?」
もはやエプシロンに身も心も同化してしまったタニヤが辺りを見回し叫ぶ。
そして、すぐさま破損回復のカードを取り出して効果魔法を発動させた。
すると。
「何をやっている!?エプシロン!」
僚騎のオフィエルから、呻くような声で通信が入った。
エプシロンはリペアのカードが未だ発動されていない現状を「ど、どうして視界が取り戻せていない!?修理は完了したはずだぞ!」理解できずにいた。
焦るあまり、タニヤの額から止どめも無く汗が滴り落ちる。
再びオフィエルから通信が入った。
「異物が突き刺さったままではリペアは不可能だぞ」
まだ苦しそうな声。だけど、視界を失ったエプシロンに他人を心配している余裕など無い。
「異物?何を言っている?教えてくれ!」
彼ら“天使”と呼ばれる、元々体を持たない霊体は気付かなかった。
人間の体を得た時に不必要と取り払った感覚が仇となって。
自らが伸ばした首に、ベルタが召喚した「お前の首にヤツの打刀が突き刺さっているのだ」事に気付けずにいたのだ。
「バカなッ!ヤツの手は全て塞がっているはず!手も足も出ないヤツが、どうやって私の首に剣を突き刺す事ができるのだッ!?」
取り乱す一方のエプシロンではあったが、理解し難い不可解な状況は何としても把握したい。
「ベルタは、ヤツは召喚した刀を足で掴んでお前の首に突き刺したのだ」
それは、頭を過ることさえなかった驚愕の手段。
「足でだと?」
もう一度訊ねる。




