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盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ  作者: ひるま
[15]アルマンダルの天使たち
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-152-:逃げろ!!

「3分って、どういう事なの?ココミちゃん!」


 檻の中でいきなりベルタと入れ替わっていると思えば、目の前のアルルカンを放っておいて、突如現れたエプシロンに斬り掛かっている。


 それにも驚いたが、さらに驚いたのは、ベルタでいられる時間がたった3分だけとは一体どういう事なのだろうか?


「魔力が尽きるとか、そういった理由があるのね!?」

 理由を推理して見せるも、ココミは苦笑い。


「いやー、実はデスね…こちらの世界のヒーローさんのほとんどに、制限時間が設けられているではありませんか」


(いま、何て言った?)

 冷めた眼差しでココミを見やる。


「意図は図りかねますが、偉大なる支配者グレイトフル・ルーラーさんは、そのような理由で制限時間を設けられたと魔導書に記されています」

 理由を知らされたクレハは、相手が全宇宙を統べる神の中の神であっても、全力を込めてぶん殴りたい衝動に駆られた。


「馬鹿馬鹿しい!!そんなつまらない理由で制限時間を設けたっての!?」

 空想の産物まで設定に持ち出す輩など、断じて神とは認めない!


 馬鹿馬鹿しく思いながら、ヒューゴが駆るベルタへと視線を移す。


 いくら時間が限られているからとはいえ。


 相手が見得を切っている最中に先制攻撃を仕掛けるなんて。


 武士道もへったくれもない、清々しいまでの卑怯な戦いぶり。


 それほどまでに汚い手で打って出ても、エプシロンはヒューゴの剣撃に対応している。



 二刀流の真骨頂は、その“手数の多さ”にある。


 しかし、条件を同じとする二刀流相手だと、真価は発揮されない。


 状況を見る限り、ややヒューゴが圧しているように見える。


 エプシロンが得物としているサイは、ギリシャ文字の『Ψ』(プシー)のカタチをした“刺突武器で、両端から伸びている枝のようなもので、相手の剣を絡め取り動きを封じるか折る事を目的としている。


 さらにエプシロンはサイを両手に携えているので、相手の武器を封じている隙に、もう片方のサイで敵を突き刺せる。はずなのだが。


 対する得物が一つなら、圧倒的優位。


 だけど、ヒューゴ駆るベルタは二刀流。しかも取り回しの利く刀身の短い脇差。


 刀身が短ければ、例えサイよって絡め取られても引き抜く“距離”が短いため、簡単に逃れられる。


 事実、エプシロンは何度もベルタの脇差を取り逃している。


 両者の技量の差は、さほど大差なさそうだ。


 今のこの状況を逆転される心配は無さそうだけど、早く決定打を叩き込まないと、またペリカン野郎(クィックフォワード)に逆戻りしてしまう。


 そうなれば、今以上に苦戦を強いられることは必至。


「まぁ…嵐か怒涛か、相変わらず凄まじいまでの戦いぶりですね」

 ココミはただ感嘆するのみ。


 息つく暇さえも与えぬヒューゴの連続攻撃。しかし、それでもエプシロンを圧倒し切れていない。


 エプシロンが背中の大きな羽をはばたかせて、一気に後方へと距離を開いてしまった。


「驚いたな…。この私が圧されるとは」

 またもや女性の声。


 その声に、シンシアが反応した。


「タニヤ?タニヤなのか!?」

 エプシロンの顔が、擱座気味のウッズェへと向けられ―。


「うぉりゃぁぁーッ!」

 間髪入れずに、ベルタの2振りの脇差の同時打ち下し!!


 エプシロンは×の字にサイを交差させて、卑怯極まりない剣撃を受け止めた。


「取り込み中に割り込んでくるとは、失礼極まりないヤツだな!貴様は!」

 話すらロクにさせてくれないヒューゴに、エプシロンは怒りを露わにする。



「後が立て込んでいるんだ。時間的余裕が無いんだよ!」

 他人の都合なんて、知った事ではない。


 ついにベルタがエプシロンを圧し斬る体勢に入った。このまま地面に叩きつけて、さらに圧し斬ってやる!


 一気に推力を吹かして、さらにエプシロンを強制降下させてゆく。


「小僧…、それで押しているつもりか?」

 ギリシャ彫刻の女性像のようなエプシロンが余裕を見せて言い放つ。


「つもりなんかじゃねぇ。事実、押して圧しまくっている!」

 地表へと、あともう少し。



 すると、突然!エプシロンの顔が縦に真っ二つに割れて中から一眼レフカメラのレンズのような単眼が姿を現した。


 顎の部分がせり出してクチバシのようなものが起き上がり。


 女性用甲冑の肩装甲だった部分が跳ね上がって、中からそれぞれもう一本の腕が現れた。

 それぞれの腕にも本来の腕と同じくサイが握られている。


 尾がさらに伸びて、脚も伸びきると逆間接に曲がり鳥脚状に。


「コイツ…変態しやがった…」

 ヒューゴの目線は単眼となったエプシロンの顔を追って上方へと向けられてゆく。


 エプシロンは今―。


 天使から4本腕の魔竜へと変貌を遂げた。



 翼を広げて推力全開!!


 ベルタの体が、徐々に上空へと押し戻されてゆく。


「お前の体はもうどちらも(・・・・)要らないだろう?」

 新たに生えた左腕が向く先は、天馬教会。


「どちらも?だと?」


 ―!?


 エプシロンの言葉の意味を察すると、ヒューゴは。


 急いでスマホを取り出してベルタを召喚しようと電話を開く。が、思うようにベルタまで辿り着けない。




「ベルタがどうかしたの?」

 状況を察していないクレハが、通信を耳にするなりココミに訊ねた。


「ベルタさんなら今、教会の裏庭で神父様のお手伝いに畑仕事に勤しんでいますよ」


「このドンパチやっている最中に畑仕事ぉ!?」

 いやいや、呑気にも程があるだろ!?


「驚くことはありませんよ。盤上戦騎(ディザスター)の存在は、一般の方々には認識されませんから」

 微笑みを添えて答えてくれるけど、これだけ派手に爆発とかしていれば、誰でも異常事態だと気付くはず。



「まずはライフから消し去ってやる。フフフ」

 言いつつ、新たに生えた腕のサイがベルタの頭部目がけて振り下ろされる。


 サイの先端部が、ベルタの頭部ギリギリのところで止まった。


 ヒューゴは隠し腕を展開させて相手の腕を掴み、止める事に成功していた。


 だが。



 エプシロンの掌から、無情にも炎熱弾(カルバリン)が発射。



「ベルタァーッ!!逃げろ!!」


 ヒューゴの叫びは届く事無く、天馬教会は木端微塵に爆散した。



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