-142-:もう遅い!
「そんな…」
クレハは、愕然とするココミに顔の前で手を振って見せるも、彼女の表情は変わらなかった。
見えているのに反応しない…。
「どしたの?」
訊ねてみるも、やはり何も答えてくれない。
両手でココミの肩を掴んで前後に揺さぶる。
「ココミちゃん!しっかりして!」
ようやく、ハッと我を取り戻したココミは、「な、何ですか?クレハさん」訊ねてきた。
「いや、訊いているのは、私の方だよ。何でクィックフォワードが両膝から煙を上げているのよ?」
「彼はベルタさんと違うから…です…」
ココミの答えにクレハは「さっぱり意味が分からん」即答した。
「関節強度が低いせいで、無茶な機動に耐えられなかったのです。つまり自滅してしまったのです」
非常に理解に苦しむ理由を述べられた。
つまり、どういうコト?
クレハなりに考えを巡らせる。
航空機でも、急降下から急上昇を行うと空中分解してしまう。アレかな…。
それとも、自転車そ全速力で走らせて、カーブを曲がり損ねえる…イヤ、それは単なる操作ミスでしょう…。
頭の中で独りノリツッコミ。
「あ~ら、一人で勝手にダメージを負っているおバカさん」
アルルカンがホホホと笑って見せた。
「黙れ!」「黙れ!」
ヒューゴ、クィックフォワード揃って声をハモらせて全力否定。
「に、しても。もう、これ以上無茶な回避はできないぞ。高砂・飛遊午」
声を潜ませヒューゴに伝える。
すると、アルルカンが再び高らかに笑って。
「ぜーんぶ丸聞こえなんだよッ!ちょこまかと動けなくなったら、こっちのモンよ」
アルルカンの全身に装備されている全てのドラムリール上に茶色の魔方陣が現れてグルグルと回転を始めた。
この展開は!
「マズいぞ。高砂・飛遊午!ヤツは攻撃魔法を使ってくるつもりだ」
盾防御しつつ全速後退!しかし。
「もう遅い!お前らはすでに!囚われの小鳥ちゃんなのよッ!!」
全身の包帯(アクティブバンテージを一気に放出!しかも全てが地面に突き刺さり、なおも放出中。
さらに。
アルルカンの背中から何本かの包帯が飛び出して、クィックフォワードの頭上を通過!上空への退避路を塞がれてしまった。
「コイツ!まさか」
ヒューゴは攻撃魔法の正体にいち早く気付くと、パタで地面を斬りつけた。だが。
「攻撃魔法!!剣の檻!!」
アルルカンの叫びと共に、地中から幾本もの包帯が一気に突き出て来て“檻”を形成した。
ヒューゴが斬りつけた包帯は、今までと違い、「キンッ!」斬りつけても一切萎える事はなく、剣のように頑丈なままだ。
間を置かずして、アームライフルの弾を叩き込む。
だが、ビクともしない。
すると突然、クィックフォワードに“面”を見せていた包帯たちは、一斉に側面、すなわち鋭利な刃部を向けた。
「何を…一体彼は何をするつもりなの!?」
魔導書を通してではなく、リアルに眼前に広がる光景を、ココミは目を見開いて見つめている。
「今から、小うるさい小鳥ちゃんを細切れにして差し上げるのよ~」
今まさに、凄惨な光景が繰り広げられようとしていた。




