-138-:最初に言った通りにお前らの友人を皆殺しにしてやる!
騒暴死霊のウッズェ(元の名はウォレス)の現在地を割り出した。
道なりに進んでくると、あと5分くらいの位置にいる。
その姿は、上空に位置するクィックフォワードからも確認できた。
中華鍋を兜におかっぱ頭の、上半身は人型なれど寸胴で、下半身はキャタピラ。
その姿を目にするなり、ヒューゴは唖然とした。
憐れ過ぎて何も言えねぇ…。
さらに、右腕はカナヅチ、左腕はキッチンで使われる電動式のツインミキサー。
一目見て。
何がしたいのか?サッパリ解らない騎体構成。
「アレに戦争屋が乗っているのか…」
どこをどうやっても、傭兵のシンシアとは結びつかない。
ヒューゴが送ってくれた画像を見て、ココミもクレハも開いた口が塞がらない。
「ラ、ライクくん。アレって戦う気あるの?」
魔導書を指差して訊ねる。
「ウッズェの元のマスターだった“ゲンナイ”が戦えない男でね。見た目からして“戦う意思”が感じられないだろう」
まったくもって、おっしゃる通り。
盤上戦騎の騎体構成は、基本的デザインはライクが行っているものの、契約したマスターの身体能力を読み取って、マスターとなった人物が最も扱いやすい武器をチョイスする仕組みになっている。
今回、ヒューゴが搭乗する事となったクィックフォワードは、肝心の武器枠が、すでに埋まっていたために、代用品として籠手剣とランタンシールドを装備する事となった。
あくまでも“止む追えず”なってしまった結果である。
しかし。
ウッズェの場合は、そもそもキャタピラを備えている時点で、アドバンテージを敵であるココミに譲る結果となっているにも関わらずに、まともな武器さえも備えていない有様。
カナヅチで相手は殴れるが、ミキサーで一体何をしようと言うのか…。
ヒューゴの口元が緩んだ。
「戦争屋か何だか知らないが、アイツは放っておいても問題無さそうだ」
目の前のアルルカンに集中する。
「で、私たちの方の、もう片方はどうなっているの?」
クレハはココミの元へと戻るなり小声で訊ねた。
「ダナさんなら、市街地のどこかの駐車場に待機していますよ」
同じく小声で答えてくれた。
この際、“待機”というよりも、マスターを得ていない時点で“潜伏”じゃないの?
それにしても駐車場とは、また傍迷惑な。
そうこうしているうちに、シンシアが学園前の桜並木へと進入した。
「待たせたな。高砂・飛遊午!」
滞空するクィックフォワードに声を発する。
「いや、こっちはお取込み中なんだが」
律儀に答えると、アルルカンが割って入ってきた。
「あ~ら戦争屋さん。今頃ノコノコ現れて、獲物の横取りは許さないわよ~」
お喋りしている最中、“ガンッ!!”アルルカンの側頭部にアームライフルの弾丸がHIT!「何すんのよ!このペリカン野郎!」
容赦の無い攻撃に大変ご立腹。
「ヒューゴ…さすがに今のは頂けないぞ」
「許さない!」アルルカンが金切り声を上げる傍ら、あまりの卑怯極まりない攻撃にクィックフォワードですら絶句。
「卑怯は承知の上よ。ただでさえ上位の盤上戦騎と戦っているのに、また1騎増えたんだぞ。これくらいやっておかないと帳尻が合わねぇ」
「増えたところで“アレ”だぞ。あんなヤツ、数にも入らないぞ」
散々な言い様。「オレ、帰っていいか?」思わずウッズェが訊ねてきた。
あまりの扱いに、シンシアはぐぬぬと歯ぎしりをすると、学園へと方向転換。
「だったら、最初に言った通りにお前らの友人を皆殺しにしてやる!」
巨大なキャタピラが学園の塀を踏み壊してゆく。
アルルカンの横をかすめて、クィックフォワードはウッズェへと向かいながらアームライフルで攻撃。
寸胴の胴体に直撃するも、何と!ウッズェの体には焦げ跡こそ残しているものの、傷ひとつ付けられていない!
ウッズェは、戦えない騎体ではあったが、非常に頑丈で”倒せない”騎体でもあった。




