-131-:ご武運を祈ってます
「命の恩人に向かって、ペリカンとは何だ!失敬な!!」
「ご、ごめんなさい!つい」
慌てて謝って見せるも。
「つい?つい口が滑ってペリカンと言ってしまったと言うのか!」
声の主は随分とご立腹な様子。
カザリは死んだ魚のような目で頭上のロボットを眺めた。
(面倒くさいのに助けられたものね…)
正直、やさぐれたくもなる。
「立ってくれ。スズキの先輩。早くシェルターに」
ヒューゴに促されて立ち上がった。
「その声、高砂くんだよね?どうして貴方が」
訊ねている最中も彼は右腕と一体化した剣で、次々と襲い来る包帯を切り払っていた。
「理由は戦いが終わってから。今は早くこの場から離れて下さい」
ヒューゴの声に頷くと、カザリは再び走り出し。「女!」ぶっきらぼうな男性の声に呼び止められた。
「私はペリカンなどではない。突風翼竜のクィックフォワードだ」
カザリは再び頷き「ありがとう。クィックフォワード。それと高砂くん。ご武運を祈ってます」告げて、カザリは走り去って行った。
ご武運か…。日常生活では、まず掛けられない言葉が、やけに照れ臭い。
「あ~ら、逃がさないわよ~」
テンガロンハットの盤上戦騎、木乃伊のアルルカンが今度は包帯を束にしてカザリに向けて発射した。
即座に気持ちをスイッチ!
すかさずクィックフォワードを間に割り込ませる!そして。
左手の盾で防ぐと、束だった包帯たちは四方八方へと弾かれた。
円盾による防御。
それは、ベルタには無かった防御力。
しかし。
「この盾、もうちょっと、何とかならなかったのか?」
思わずヒューゴは不満を漏らした。
クィックフォワードの左腕に装着された、と、言うよりも、手の甲そのものが盾と一体化した“ランタンシールド”。
見た目からして奇天烈な盾で、円盤状の盾には直剣が突き抜けており、拳からはらせん状の針が2本突き出ている。しかも手の甲そのものが盾な為に、可動範囲は著しく狭くなっている。
名前の『ランタン』とは、盾を突き抜けている剣にランタンをぶら下げたのが由来だそうだが、これは盾なのか?それとも武器なのか?何でもかんでも取っ付ければ良いものではないのを体現したような武器だ。
さらに。
クィックフォワードの右手は、右手そのものが剣。
すなわち、ガントレット(籠手)と剣が一体化した“パタ”と呼ばれるインド発祥の武器。
歴史を辿れば、先が剣になった籠手を腕にはめているものだから、手首による衝撃緩和が行えずに腕を痛めた戦士が多かったそうな…。
「こっちも、どうにかならなかったのか…?」
不満は絶えない。
「仕方ないですよ。ヒューゴさん。盤上戦騎を構築する際に、2つとして同じ武器を選べないルールがあるのです」
ただし、大きさの違いは許されている模様。
すでに刀の括りではベルタが一通りの刀身の“尺”を使い切っているため、他の騎体では刀は選べなくなっていた。
ヒューゴにとって、どちらの武器も使った事が無いのはもちろん、お初にお目に掛かる以前に、存在すら知らなかった。
ヒューゴはこの状況において、一つの不安を抱える。
果たして、このヘンテコ武器で“二天撃”が繰り出せるのか?
あまりにも使い勝手が違いすぎる。
それは例えるならば、今までペン描写をしていた人が、練習する間も与えられずに、いきなりペンタブレットで描くのに等しい。
それほどまでに似て非なるモノなのである。
敵騎の位置はかなり遠く。
実際に使う訳ではないけれど、取り敢えず“二天撃”の構えに入ってみせる。
腕の延長線上にある剣と剣…。
交差できても、上手く振れそうにない。
またしても。
この期に及んで、味方のココミに足を引っ張られようとは。




