-130-:ペリカン!??
―天馬学府―
30年前に水切り落下した隕石により、人的被害は比較的少なかったものの、滋賀県琵琶湖東部の地形は激変。
復興に名乗りを上げた御陵・獅堂・鷲尾の三大財閥は、三上山に婦女子専門の[幼稚園・小等部][中等部][高等部][短期大学]が一括された学府を創設。
各等部に区分けされた学府は、真上から見れば、四つ葉のクローバーを思わせる外観をしており、地域の再生と幸福を願うシンボルにもなっている。
各学部の外堀とも言える塀には外観こそレンガ造りではあるが、それは見た目だけであって、実はトラックが衝突しても突き破ることができないよう、中はしっかりと鉄筋コンクリート製だったりする。
そんな頑丈な外壁を、幾本もの包帯のようなものが突き破っては破壊の限りを尽くしていた。
弓道部の部長、鳳凰院・風理は飛び散る細かな破片を、頭部を抱えた手で防ぎながら校内へと戻るべく駆け抜けていた。
本来ならば、きめ細かな彼女の手は、無残にも飛び散ったコンクリート片で無数に傷つき、それでも痛みをこらえながら、校内に敷設されているシェルターへ向かう。
すでに他の部員たちには電話でシェルターに避難するよう報せていた。
最近、部活動に遅刻しがちだった“鈴木・くれは”にオトコのニオイを感じ取ったカザリは、こっそりとクレハの後を尾けてみたものの、彼女が合っていたのは本を抱えた見知らぬ外国人女性。
てっきり男性と落ち合っているものと思ったのに、大きく期待を裏切られた。
しかも、何かしら言い争っている模様。
おまけに尾行がバレてしまい、バツが悪くなったところで、あの変なテンガロンハットをかぶったような全身包帯のような迷彩柄のロボットが高等部校舎の上空に姿を現した。
いきなり全身から包帯を放出する謎ロボット。
それは、カザリの理解を超えていた。
何でこんな国の要所でもない所でテロ行為に至っているのか?
そもそも、アレは何処の国の兵器??なの?
カザリはふと湧いた疑問を振り払うかのように頭を振った。
そんなコトよりも、皆の安全を優先すべきだと。
「クレハさんも早く!シェルターに避難しますよ」
呼びかけるも。
「私なら大丈夫です。先輩こそ、早くみんなの所へ」
何が大丈夫といういのか?だけど、クレハの見せた清々しいまでの笑顔を見ていると、本当に彼女の言う通りなのだなと納得できる。
映画とかだと、完全に『死亡フラグ』に他ならないが。
時間が惜しいこの状況、皆まで聞かぬが、彼女の言う事を信じて、部員たちの元へと駆け出してゆく。
―しかし―
頑丈なコンクリート壁をも突き破ってくる“包帯”たちは、急にカザリに狙いを定めたかのように、彼女めがけて襲い来る。遮るものはことごとく蹴散らして。
破壊音が背後にまで迫りくる!
カザリは振り返り、包帯へと目を移す。
もう風圧を感じるまでの距離にまで包帯はサンダーウェイブを描いて迫ってきている!
「きゃあ」
小さく悲鳴を上げて、カザリはつまずいてしまった。
うつ伏せに倒れるカザリを串刺しにせんと、包帯は彼女の真上から一直線に降下!!
(もう、だめ…)
声も涙も出ない。恐怖のあまり両手を強く握りしめてしまう。
強く目を閉じて、何も思い出せないまま最後を迎えようと―。
フォォン!!
突如、髪が舞うほどに強い風を感じた。
未だ痛みを感じない。大ケガを負っているから脳が痛みを遮断しているのか?
うっすらと目を開いてゆく。
「何をしている!?さっさと逃げるなり避難なりしてくれ!!」
ぶっきらぼうに逃げるよう促された後に。
「言葉に気をつけろよ!スズキの先輩に何て口の利き方をするんだ!?」
この声にカザリは聞き覚えがあった。
直接話した事は無いけれど。
こっそりクレハの後を尾けていて聞いた事がある。
ハッとカザリは顔を上げて。
「高砂くん!?」
そこには、くちばしのようなものが付いたヘルメットを被った巨大な水色の騎士の姿が。
アレ?
「ペリカン!??」
思わず口走ってしまい。
「命の恩人に向かって、ペリカンとは何だ!失礼な!!」
先ほどのぶっきらぼうな口調の男性に叱られてしまった。




