-125-:君たちは何か勘違いをしているようだね
草間・涼馬は、ココミ・コロネ・ドラコットからおおまかな説明を受けた。
「おおまかにこんなところです。何かご質問はありますか?」
粗方予想した内容だった上に、今は、いや、金輪際、彼女たちと関わる気などサラサラ無い。
「ふっ。質問など、理解の足りない者のする事さ」
「解らん事を解らんままにしとったら、後々困るのは-『呑み込みの早い方で助かります』
説教を始めるルーティを押しのけて、ココミはリョーマに、雲間から陽が差すような晴れやかな笑みを向けた。
「率直に言おう。お断りだ!」
「面倒くせぇー」
即答に、ルーティはそっぽを向いた。
「でもでもですよ。果たして、それで良いのですか?貴方様は、ご自身の住まわれる街を守ろうとする気概を持ち合わせていらっしゃらないのですか?」
ココミは、なおも食らいつく。
「僕は学生だよ。学生に街を守れって、可笑しな事を言わないでくれ。それは国防に携わる人たちの仕事じゃないか」
割り切った考えをココミに示す。
「いいかい?そもそも君たちは、頼む相手を間違っている。余所の土地で戦争をしたいのなら、まずは国主か国家主席に同意を求めるのが筋というものじゃないかな?考えを改めて出直してくる事だね」
正論をぶつけてきた。
考えナシに突っ走ってきたココミには、まさに猛烈な向かい風。
思わず怯んでしまう。
「しかし、現状は、もう戦争状態に突入しています。ヒューゴさんの協力が無かったら、私たちは今頃…」
思わず涙が滲み出す。
「泣き脅しに屈すると思わない事だな。僕を見くびってもらっては困る!僕が思うに、高砂・飛遊午の場合、いつも一緒にいる寝癖の女の子が情に流されて君たちに協力を申し出たのを阻止するために、自ら協力を名乗り出たのだろう?」
(図星じゃないですか…)
まるで見ていたかのように推理して見せたリョーマに、二人はぐうの音も出ない。
「なぁココミ。もう、コイツでなくてもエエんちゃう?コイツ鬱陶しいし」
聞き捨てならない誹謗中傷に、いちいち反応しない。
「でも、これほどまでの逸材を、みすみす手放すワケには…」
大物を逃す手は無いと、ルーティとは異なり、ココミは諦め切れない。
「もう、いいかな。そろそろ失礼させて貰うよ」
コソコソ話で相談する二人に告げると、後輪の浮いたマウンテンバイクに跨った。
「お友達のヒューゴさんが必死に戦っているのに、貴方という方は彼に助力さえもして差し上げないのですか?」
つい感情的になり、ココミは声を張り上げてしまった。
「友達?」
マウンテンバイクからは降りる事はしなかったが、顔だけはココミへと向けた。
リョーマはフッと笑うと。
「君たちは何か勘違いをしているようだね」「勘違い?」
「僕と高砂・飛遊午は友達でも何でもない。僕にとって彼は“倒すべき相手”でしかない。それ以上でもそれ以下でもない」
ルーティはやれやれと肩をすくめて見せ。
「倒すべき相手ねぇ。まぁ、それやったら分かるわ。放っておいてもヒューゴはいずれ誰かに殺される。高みの見物を決め込んで漁夫の利を得ようって魂胆なんやね」
「違う!!」激昂するかの如く即否定された。
「僕のこの手で彼を倒さない限り、僕は彼から“勝利”を得た事にはならないんだ」
我が右手を見つめて、リョーマは高砂・飛遊午と初めて剣を交えた、あの時の事を思い出していた。
それは去年のインターハイ剣道予選滋賀大会の2回戦―。




