-122-:基本的に、人と争う事を好まない人なんです
盗撮とな!?
それは、あらぬ嫌疑というもの。
「オイ、そこの暑いのをガマンしているオッサン。アンタから彼女に濡れ衣だと言ってくれないか」
気が立っての物言い。
「それが人にモノを頼む態度か?」
額から一筋、二筋汗を垂れ流しながら穏やかな口調でヒューゴを嗜める。
「スマン。つい気が動転してしまって。いきなり痴漢扱いされてしまえば、動揺せずにはいられないって」
「解るぞ。その気持ち」
腕を組んでウンウンと頷くロボ。
彼もきっと、シンジュから大概な扱いを受けているのだろう。想像ではあるが、同情してしまう。
「ここは大人しく、剣を収めては頂けないでしょうか?」
遠くからベルタの声が聞こえてくる。
彼女は、ロボのマスターであるシンジュに剣を突き付けている真っ最中。
あらぬ嫌疑を掛けられてしまって、ベルタがいてくれた事をすっかりと忘れていた。
「俺はマスターに従うだけだ」
ロボがベルタに向かって告げ、「どうする?」シンジュに判断を仰ぐ。
「彼らが私を殺さないつもりでいるとはいえ、どこかで気が変わってグサリなんてのもイヤよね…」
シンジュはしばし考え込み。
「早く決めてくれないかなぁ」
クレハも答えを急かし出す。
「こっちは命が掛かっているのよ。もう少し考えさせてよ」
「謹慎が解けて初日に遅刻なんてマズいんだけどなぁ」
困ったと言わんばかりに、後頭部を描いて。
「だったら、私たちの事なんか放っておいて、さっさと学校へ行きなさいな」
素っ気なく突っぱねられてしまった。
不機嫌なシンジュの眼差しがクレハからヒューゴへと移される。
え!?
シンジュは我が目を疑った。思わず二度見。
ヒューゴはクレハを置いて、数メートル先へ歩いて行っているではないか。
「アイツ…正気なの?」
悔しさを露わに呟くと。
「ふふっ、ヒューゴは、そういう人なんですよ。貴女のロボが『貴女に従うだけだ』と言った瞬間に、あなた方に戦う意思が無いものと判断して、この場を立ち去ったのです」
まるで家族の事を語るような、穏やかな口ぶりでベルタは答えた。
「基本的に、人と争う事を好まない人なんです」
付け加えた。
「鈴木くれはを置いて?単に、薄情なヤツだと思うけど?」
「クレハは…あの子は人の話に首を突っ込んで、容易に抜けなくなる、面倒な気質な子なので、放っておくのが得策なんですよ」
つまりは“野放し”という事。
まるで、エサの時間だけに家に寄り付く飼い猫のような娘だ。
「私たちに戦う意思が無いのが解っているのなら、さっさとこの刀を下げてくれないかしら?」
シンジュの問いに、ベルタはゆっくりと彼女の首筋から脇差の切っ先を離した。
「一種の保険ですので、気を悪くなさらないで下さいね」
ささやかな謝罪の意を添えて。
「一種の保険?よくもまあ、いけしゃあしゃあと。ロボの能力を見抜いていたからこそ、私に剣を突き付けていたくせに」
この一手は高砂・飛遊午によるものだろうか?それともベルタの独断によるものか?
いずれにせよ、今の一手で、ロボの動きが封じられていた事に変わりはない。
「さて、何の事でしょう?では、私も退散させて頂きますね」
とぼけているのか?それだけを言い残して、ベルタはシュタッ!と常人離れした跳躍を見せてシンジュたちの元から立ち去って行った。
「ロボ!」
ロボの方へと向き直り。
「今後は不用意にアイツらには近づかないで。アナタの能力は、長所よりも短所が目立つわ。迂闊に能力を使わないよう心積もりで」
注意を促す。
ひょっとして、高砂・飛遊午は、わざと隙を作って見せたのではないかしら?
それに私たちが気を取られている間に、ベルタに情報収集をさせていたのでは?
いずれにせよ、次に彼と対戦するであろうアルルカンとウッズェ(元ウォレス)は、きっと苦戦すると予感した。
「それにしても、二人の魔者と契約を結ぶなんて、いくら何でも、そんな命知らずなマネをする訳…ないよね」
ふと湧いた発想に苦笑した。




