-115-:戦争とは、皆で楽しく殺し合うものではなくて?
シルベによる沙汰が下った。
「で、鈴木・くれは!お主に3日間の自宅謹慎を申し付ける。まぁ、名目上は3日間の停学処分だ。何か不服があるなら申してみよ」
落としどころとしては妥当か。
クレハは、滅相もございませんと立ち上がるなり頭を下げて「ありがとうございました!」一礼した。
「普通は見捨てられて誰も助けちゃくれないものだけどな。お主、良い友達を持ったな。大事にしろよ」
ソファーの背もたれに背を預けると目を閉じて、またもや鼻で笑って見せた。
そんなシルベにもう一度礼をすると、隣に座っていたキョウコとオトギにも頭を下げた。
理事長室を後にしようと外へ出ると、中から「風邪なんてひくなよ。3日間風邪で寝込んだりしたら反省にならねぇからな」有難いお言葉を頂戴した。
教室へと戻ると。
高砂・飛遊午とフラウ・ベルゲンが待ってくれていた。さすがに事情を知らない御手洗・虎美の姿はここには無い。
「お疲れ」
小さく手を挙げて迎えてくれたヒューゴの。
「どらぁ!」
クレハは彼の顔面を拳で殴り付けた。
倒れ行くヒューゴを、唖然とした表情でキョウコとフラウは目で追った。
「どうしてアンデスィデがあるって一声掛けてくれなかったのよ!おかげで私は3日間の停学処分よ。へっ、笑ってしまうわ。私だけ罰則を受けるなんてさ。ハハハハ」
憐れな自分に高笑い。
そんな笑いながら話すクレハの両目から涙が流れ出た。
理不尽過ぎるよぉ。
心配した私だけが罰を受けるなんて。
今更悔しさをぶつけても仕方ないと分かっていても…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
東欧に位置する、とある国にて―。
不毛の大地に佇み、その景色を見やっている女性がひとり。
そんな彼女に、砂粒と埃を乗せた風が容赦なく吹き付ける。
女性の背後に立つ男性が、マントを広げて意地悪な風を遮った。
「ありがとう」
女性は風を遮ってくれた大柄な男性に静かに礼を述べた。
「ラーナ様、向こうは大変面白い局面になっているそうですね」
女性の名前はラーナ・ファント・ドラコット。
彼女は、ドラコット王家の第一王女にして王位継承権所有者、ココミ・コロネ・ドラコットの実の姉。
そして彼女もまた魔導書チェスのプレイヤーのひとり。
ラーナが顔にまとわりつく長い金髪を手で撫で下した。
「とても愚かなゲーム展開です」クスリと笑って答えると、「たった一人の兵士に殺し合いをさせるなんて、なんて“勿体ない”」笑みを含んだ眼差しを男性へと向けた。
男性は思わず息を呑んだ。
「勿体ないと?」
「戦争とは、皆で楽しく殺し合うものではなくて?」
訊ねつつラーナは、再び荒野へと目を移した。
彼女たちが立つこの場所は―。
数時間前までは都市として人の往来が盛んだった場所。人の営みが当たり前として行われていた場所―。
だが、今は廃墟と化した、あちこちから炎や煙が立ち上る、もはや人の気配すら全く感じられない荒れ果てた大地。
廃墟をさらに焦がさんとする炎を映すラーナの目に、遠くから飛来するヘリの一団が映った。
「依頼主に雇われている兵たちが到着したようです。さぁ姫様。後は彼らに任せて我々は城へと戻りましょう」
男性がラーナに帰還を促した。
すると、ラーナは再び怪しい笑みを浮かべながらヘリの一団を指差すと。
「あの中の一機くらい撃ち落としても、彼らから文句を言われる謂れは無いでしょう?」
「ひ、姫様!お戯れを」
男性は慌てふためき嗜めるも。その一方でラーナはクスクスと笑いながら。
「冗談ですよ。では参りましょうか。火星さん」
「あ、あの…、“さん”付けで呼ぶのは止めて頂けないでしょうか?」
ラーナはファレグを従えて戦場跡を後にした。




