-111-:まだ負けちゃいない!
先手はカムロ。しかし、間合いはまだ遠い。
前へと突き出した右のキバでトライデントの又部分を突き弾く。そして構えを左右チェンジ!!
一方のカムロは、その最中に一度トライデントを引きつつ右腕に内蔵されている超電磁砲をベルタに向けて発射。
やはり、この局面で撃ってきた。
レールガンの弾は腕から伸びる2本のレールの間を通って飛んで来る、つまり砲身でありレールの向きが射線そのものなので、弾道を見極めるのは容易い。
ベルタがこれを横へと躱すも、ホーミング移動しながら間髪入れずに頭部へと刺突攻撃が繰り出され、左のキバを前へと突き出す前に槍先がベルタの顔面を突き破った。
ベルタの頭部は爆散、首から上は跡形も無く破壊されてしまった。
だが。
「たかがメインカメラがやられたぐらいで!」
ヒューゴはめげない。
彼の中ではベルタの頭など、もはや頭突きをするための道具としてしか認識していない。
目の前の戦いに集中するあまり、本来ならば即死している程のダメージと痛みを体験しているベルタへの配慮はまるでナシ。
カムロが再びトライデントを引いたその時点でクロックアップは終了。
バイザーがせり上がった。
「―!?」「え?」「何ぃッ!?」
カムロ側3人揃って驚きの声を上げた。
ベルタの姿が見当たらない。どこへ消えた?
右を向いて!いや、左か!?それとも下に潜り込んだのか?
すると、眼下の雲に2つの影が映っていた。
「まさか!?」
頭上へと顔を向ける。
そこには。
上下逆さになった頭部を失ったベルタの姿が。
逆さに浮遊しているのではない!
正確には浮遊素で構築した足場に、展開させた足の爪を突き立ててぶら下がっているのだ!
やはりカムロは最後に上方を確認した。
最初にベルタに対して下段からの攻撃を仕掛けてきた時点で、この敵は“下段からの攻撃を常に警戒している”とヒューゴは睨んだ。
人は不思議と、自身が最も苦手とする手段を相手に対して最初に使うものだったりする。
「この男ッ!」
ベルタが繰り出すであろう次の手に、ウォーフィールドは初めて焦りと悔しさを露わにした。
「ヒューゴ!どういう訳か、私の魔力がみるみる内に回復しているのですが」
魔力ゲージがぐんぐんと上昇。
今、まさにMAX値へと到達しようとしていた。
ベルタが突然起こった不思議現象に驚く傍ら。
「だったら、ここは有難く使わせてもらおうぜッ!いっけぇーッ!」
「ブチかましてやれ!タカサゴッ!二天一流奥義!二天撃ッ!!」
空中で掲げ上げられた体勢のまま、クレハは下のココミが眺めている魔導書の画面にむかって叫んだ!
「クレハさん…」
ココミは、天井近く掲げ上げられているクレハを眺めながら呟いた。
彼女が手にする魔道書には、クレハからベルタへと供給される大量の霊力が示されていた。
カムロの頭上から、天地逆さの二天撃が振り下ろされる。
狙うはセカムロの背負いモノすなわちバイザーそのもの。
総計幾千、幾万もの戦歴を誇る戦士たちの集合体とはいえ、平地での戦いにおいて天地逆さからの攻撃を受けた者は皆無なはずである。
そして、バイザーそのものに付いているカメラ映像とカムロの頭部に付いているカメラ映像同士が干渉しないように双方の映像が引き継がれる“バイザーを開く”瞬間に透明人間になれるのでは?という推理も大当たりした。
先程から何度もクロックアップを仕掛けておきながら、クロックアップが終了した瞬間に攻撃の手を休めていたカムロが、もしかして相手を見失っているからこそ攻撃出来ないのでは?との推測は見事に的中したのだった。
二天撃が、突如供給された魔力により本来の力を発揮して炸裂した。
一撃目に霊力で作成された爆弾を設置、そして数百分の1秒の間を置いて二撃目がHIT。
その時、二天撃は真価を発揮し大爆発を起こした。
その衝撃はバイザーの軸となるカムロの両肩関節へと伝わり、両腕は肩からほぼ同時に損壊、胴体部分にもダメージを被った。当然、手にしていた三又槍も手放す形となる。
「お見事!」
ウォーフィールドは敗北を喫したにも関わらずに、敵であるヒューゴを称賛、清々しく負けを認めた。
ところが。
カムロの全身に魔法陣が展開されて、損傷を受けた箇所が瞬く間に治されてゆく。
効果魔法カード、“損傷回復”を発動させたのだ。
「まだ負けちゃいない!」
敗北を認めず、経戦を挑んできたのは、何と!カムロのマスターであるマサノリであった。
カムロがベルタの両方の二の腕を掴んだ!
彼の豊富な魔力が全開される。
ベルタの腕が圧倒的な力によって、握り潰されようとしていた。




