-107-:俺は効果魔法!攻撃魔法のカードの効果を発動するぜ!!
何も打つ手が思いつかない…。
将棋でもチェスでも野球でも、勝負事において全く同じ手を続けて用いる事は自殺行為と言える。
確実に相手は、何らかの対抗手段を講じてくるはずだから。
スポーツではフェイントとして成立するものの、命のやり取りをしている最中で行うのは何ともリスクが高すぎる。
なので。
これまでに使った事の無い手法を用いらねばならない。
ただ無意識に反射的に剣を繰り出していてはダメだ。
常に考えて剣を振るわないと。
人間、考えを止めた時が死ぬ時だ。その言葉を、これほどまでに実感した時は無い。
雨で視界が遮られている中、遠くでぼんやりと青白い光が勢いよく前進した!
来る!
残り少ない回避運動推力を無駄に消費する訳にはいかない。
通常推力を全開して急速後退!!
すると、ベルタの胸先2メートルの距離から、青白く光る槍先が、飛び出すように勢いよく突き出てきた。
構図的には、まるでベルタが胸元から槍先を発射したように見える。
敵は真後ろから槍で突き刺す座標指定攻撃を仕掛けてきたのだ。
刺突攻撃を終えた槍先の動きが止まる。
!!?
「な、何だ?あの槍先は!?」
今更槍先が青白く光っている事には何ら驚かない。
ヒューゴが不思議に感じたのは。
どうして、槍先全体がハリネズミのように先端部ばかりで覆われているのか?あのような表面積で果たして武器として成立しているのだろうか?
よくもあんな武器で、ハンドチェーンガンを突き刺していたものだと感心すらする。
「ああ、そっか。解ったわ」閃いた。
「一体、何が分かったのです?ヒューゴ」
ベルタがヒューゴに答えを催促した。
「あの槍、雨で濡れた部分だけが実体化している。だから、あんなにいびつな形をしているんだ」
「何を言っているのです?それでは武器としての強度も低いものですし、命中したとしても大したダメージは期待できませんよ」
ベルタは、ヒューゴの見解を、素直に聞き入れることができない。
ヒューゴは呆れたと言わんばかりに両手で頭をグシャグシャと掻いて。
「あの盤上戦騎、よくよく考えたら、海中専用の騎体じゃないのか。そもそも、最初に撃ってきたのは魚雷だったし、あの座標指定攻撃も海中なら完全に実体化できる。それに三又槍なんて『自分は海の戦士ですよ』と言っているようなもので、それらを全部ひっくるめたら、アイツの正体は“海ボウズ”じゃないかと俺は思う」
「仮にそうだとしても……それもそうですね」
渋々ではあるが、ようやくベルタも納得してくれた。
「よーし!じゃあ、俺たちのやる事は決まりだな。ベルタ、あの雲を突き抜けるぞーッ!」
左手の拳を天に突き上げる。
「指針はハッキリしましたが、まずはこの状況を何とかしましょう。このまま上昇したのでは、あの座標指定攻撃の良い的のままです」
勢いに相乗りする事はせずに、あくまでも彼女は冷静沈着。
「方法はあるのか?」との問いに、ベルタは自信満々に「ありますよ」少し声を上ずらせて。
「ヒューゴ、カードホルダーの中から青色にフチ取られた攻撃魔法のカードを引いて下さい」
言われるままに引いたカードは、同じ攻撃魔法カードでも赤色にフチ取られたものだった。
「よく似ていますが、それは違うカードです。そちらはただの攻撃魔法カードで、今現在私たちが使えるのは青くフチ取られたカードの方です」
ベルタの指示に従い青縁のカードを手にした。
「使える魔法そのものは同じなのですが、赤は本来のカードで、“魔力を消費して”効果を発動させるもの。ですが青は、効果魔法カードと言って、私たち兵士の場合、たった一枚だけ魔力を消費せずに攻撃魔法を発動させることが出来るカードなのです。ただし、魔力の効果を得られないので、あくまでも基本的な攻撃力に留まりますが」
キャサリンが使っていた損傷回復のカードの攻撃版という訳だ。
「さあ、ヒューゴ。カードをカードリーダーに読み取らせて下さい」
言われるまま、左のアームレストのカードリーダーにカードを置いて宣言する。
「俺は効果魔法!攻撃魔法のカードの効果を発動するぜ!!」
*注意!!
この物語は、カードゲームを主軸とした物語ではありません。




