-105-:黙ってないで何か言ってよ!
「ダメージだと!?ベルタ、一体何をされた!?」
敵騎は正面。しかし、背後からダメージを被った。
コクピット内に設けられたサイドミラーや、後方モニターに目をやるも、何も映ってはいない。
一体、何をされたのだ?
「今日はツイていると思ったのにねぇ」
アラートが鳴る中、聞こえてきたのは残念がるカムロの声。
カムロへと目を戻す。
どういう事だ!?
カムロが手にする三又槍の先には、ベルタのハンドチェーンガンが突き刺さっていた。
背中のウェポンラックに掛けていたはずのハンドチェーンガンがどうして?
突き刺さっていたハンドチェーンガンを振り飛ばすと、またもや三又槍の先端部が青白く光り出した。
カムロが再び突きの構えに入り―。
ガンッ!!
またもや衝撃!
今度は左脚の脛部分に真横から刺突攻撃を受けた。
幸い、ベルタの脛部分は足首から延びた装甲なので、脚本体にはダメージは届いていない。
何ィィ、今度は違う方向からの攻撃だと!?
考えられる事は。
「アイツ、もしかして座標指定攻撃を仕掛けて来たのか?」
遠く離れた相手にも任意の座標に攻撃を仕掛ける、まさに空想上の攻撃手段。
マンガなどでは使い古された手段ではあるけれど。
急に音楽がコクピット内に鳴り響いた。
ヒューゴのスマホの着信音楽が鳴ったのだ。
相手は“鈴木くれは”。
状況は片時も気を抜くことは許されないが、とにかく電話に出よう。
「どうした?スズキ」
「どうしたも、こうしたも無いでしょ!!」
電話に出るなり、いきなりの怒鳴り声。
「男子に聞いたんだから!タカサゴが屋上に向かいながら電話をしていたって。タカサゴの事だから、アンデスィデの要請が来たから参戦しているんでしょ!?」
それはそうなのだが。一切反論は致しません。
「黙ってないで何か言ってよ!」
つかの間の沈黙も許さない。
「ゴメンな。スズキ。今、手が離せないから、これで切るわ『いい加減にしてッ!!』」
電話の向こうの相手は切る事さえも許してくれない。
その声は次第に涙声へと変わりつつ。
「タカサゴのバカ!私にだって解るんだからねッ!3対1の無茶な戦いをしている事くらい。今、天馬教会に向かっているから、それまで無茶しないでいてよね!」
告げて、クレハの方からの電話は切られた。
雨が降り出した中、クレハは傘も差さずに、外履きのブーツに履き替えることさえもせずに校内履きのスニーカーのまま学園を飛び出し、天馬教会へと向かって走った。
校門なんざ、直接通らなければ何の問題も無い。
垂直に立つ塀を一歩踏み台にして駆け上がり、よじ登る。
飛び降りた拍子に両手を地面に着こうが気にも留めない。
再び天馬教会めざして走り出す。
顔を打つ雨粒と両眼から流れ出る涙との区別がつかないくらい、顔をぐしゃぐしゃにして。
ベルタを取り囲む、降りしきる雨はさらに激しさを増していた。
座標指定攻撃を避ける方法は、ただひとつ。
絶えず動き回ること。
絶対に動きを止めてはならない。ひたすら動き回るしかない。
そんな中。
劣勢を強いられ、幾度となく回避を余儀なくされたベルタの回避運動推力はもう、底を尽きようとしていた…。




