-103-:なかなかカッコイイだろう
敵騎が距離を開けると、槍の構えさえも解いてしまった。
「これはこれは、紹介が遅れました。私、黒側プレイヤー、ライク・スティール・ドラコーン殿下の護衛兼執事を務めさせて頂いております。亡霊のウォーフィールドと申します」
腹が立つ程に物腰の低い自己紹介。
だけど、ヒューゴにとっては誰?な存在。
そもそもウォーフィールドなる人物は、最初のアンデスィデから帰還した時にチラッとしかお目に掛かっていない。
「ヒューゴ様。貴方は今、“ルーティとはまるでレベルが違う”と仰いましたが、私どもは口から火の玉を吐く特殊能力などは持ち合わせておりません」
理由を述べられるも、ハイそうですかと素直に聞き入れる事はできない。それよりも。
(あいつ、とことん無駄な能力を持っとるな…)
いなければ、いないで足を引っ張ってくれる女。それがルーティという女。
「では、続けて紹介させて頂きます」
ウォーフィールドはまだ続ける。「では、カムロ」
「アタイは深海霊のカムロ。で、ウチのマスターの」
紹介に預かりカムロが名乗りを上げ、そしていよいよ彼女のマスターが名乗りを上げる。
「マ…『シャキッっとしろ!』マサノリです・・」
一人称が“アタイ”の人との出会いにも驚いたが、最後のマサノリとかいう本来のマスターの気弱っぷりにも驚かされた。
使役する魔者に尻を叩かれているマスターなんて…よくこんなので魔者のマスターに選ばれたものだな、と。
あれ?
改めて盤上戦騎カムロを見やる。
ボーリングの玉のような頭部に、火の点いた蚊取り線香のような髪型。
今の声、間違いようも無く女性だったよな?盤上戦騎の髪型って、確かライフの時と同じだったはず…え?
で、名前がカムロ??え?本気?
「ちょっと良いかな」
“待て”のジェスチャーを交えながら、ヒューゴはカムロたちに一時休戦を持ち掛けた。
「何でしょう?ヒューゴ様」
ウォーフィールドは余裕を見せて三又槍を後ろ手に回して休戦を受け入れた。
「もしかしてカムロって、こんな―」
人差し指立てて空中に文字を書こうとした、その矢先。
「わ、わ、わ、ちょ、ちょっと止めて!」
マスターのマサノリが急に慌てて邪魔に入った。
「マサノリ、何を慌てているんだい?」
カムロが不思議そうに訊ねる。
「い、今、ぼ、僕たち戦っているんだよ?い、いいのかい。こんな事やっていて」
何か都合の悪い事でもあるのか?この慌てぶり。
ヒューゴは、そんなに時間は取らないと構わずに続けた。
「カムロって、確か、こんな漢字じゃないのか?」
空中に描いた文字は“禿”の一文字。
「そうそう、それ!なかなかカッコイイだろう」
カムロが嬉しさに、はしゃぎ喜んで見せた。
傍ら、マスターのマサノリは「あわわわ」言葉にならない声を上げている。
彼女が言った通り、カタチだけを見るならば、“なかなか格好いい”文字ではある。が。
「意味を知っていて付けているなら気にしないけど、この文字、“ハゲ”って意味なんだぜ」
「なっ!?」
カムロは思わず絶句した。
外国人が漢字をプリントしたTシャツを着用している姿はよく見かけるが、時折“相応しくない”漢字をプリントしたものがある。
当の外国人が意味を理解していないのをいい事に、明らかに“ネタ”的なものもある。
例えば“焼肉定食”など画数の多いものは特に外国人にウケが良いらしい。
「マ、マサノリィィ、テメェ」
怒りの矛先は、ついにマスターへと向けられた。
「ご、ゴメンよ、カムロ。だけど言い出せなかったんだ。キミがこの名前と漢字を気に入って大喜びしている姿を見ていると、本当の意味を伝える事ができなくなったんだ」
一見、良い話にも聞こえなくもないが、それはどうかとヒューゴは首を傾げた。
そもそも何故、そのような漢字を人の名前に流用しようと思ったのか?
「そ、そうだったのか。すまないね。気を遣わせちまって」
意外と早く、事は丸く収まった。ガッカリだ。
もうちょっとモメてくれると有難かったのに…。




