-99-:どうしてあの時、ボクに助言してくれなかったのさ!?
「充填モードの人型でいる時が狙いどころか。ココミ、敵の荷電粒子砲の発射間隔を割り出せるか?」
ヒューゴからの解析依頼が入った。
ココミは「今すぐに」告げてページをめくると、スグルの荷電粒子砲の発射されたタイムラグの記録に目を通した。
「1発目と2発目との間はおよそ3分ですね。すでに3分が経過していますが、疲弊からくる充填時間の遅延は期待しないほうが賢明かと」
ココミの見解も頷ける。
しかし、知りたいのは発射後に人型に強制変形させられている時間帯だ。
すでに3分経過しているのに、何故さっさと飛行形態になって荷電粒子砲を撃ってこないのか?
そもそも、何でスグルは近接戦では敵わないと知りつつも接近戦を挑んでくるのか?
生け贄として課せられたペナルティは、もうひとつあるのかもしれない。
それは。
人型形態時の行動そのものが充填時間に関係しているのではないか?
接近戦を行えば行うほど充填時間は短縮されるのでは?それならば、一見無謀とも思える接近戦を仕掛けてきたのも理解できる。
今現在、スグルはただ逃げ惑っているだけ。
荷電粒子砲のエネルギーは一向に回復していないと観られる。
確かにスグルの荷電粒子砲の威力は絶大だ。
たぶん全兵士中で最強の火力を秘めているだろう。だが、そのチカラを獲得するために生け贄とした代償は大きかった。あまりにも大きかった。
「ヤツの脚は遅い!とことん遅い!」
飛行形態とは比べ物にならないくらいに、とにかく遅い。
ベルタよりも遅い。しかも回避運動推力総量も少ない。
先程から、チェーンガンの弾がほぼ全弾命中している。威力の低さから、致命弾にならない安心感から存分に弾をブチ込める。
与えるダメージ量は小さいが、時折命中する関節部、それに肩部のエアインテークから火花が飛び散り、とうとう煙を上げ始めた。
「ママーッ!」
マスターのヒデアキ(ムネオ)はすでに泣きを入れている。
あまりにも無様。だけど、それでもプライドは残っているようで、再び飛行形態へと変形し始めた。
しかし、あまりにも損傷がひどく、あちこちの部位がすんなり変形プロセスを踏む事ができずに、変形に手間取っている。ついでに速力も上がることなく。
スグルの正面ディスプレーにベルタが映し出された。ベルタが正面に現れたのだ。
しかも、近い。
変形途中、顎部分に当たるリアスカートが回転し切る前に止まってしまった。何かが引っ掛かったのだ。正面ディスプレーには。
下顎部分に足を掛けて、膝関節から伸びる直刀を上顎に突き刺して、口を閉じなくさせているベルタの姿が映し出されていた。
もう一方の脚を下顎に掛けて力任せに口を開かせている。
「くそー!ナメやがってぇーッ!」
自壊ダメージを被ろうが、スグルを無理やりにでも変形させて、荷電粒子砲を発射するトリガーに指を掛けたムネオの目に映ったのは。
ベルタの右肩部装甲が見当たらなかった。瞬間!
スグル本体に衝撃が走った。
騎体に掛かるGを10分の1に抑えているディザスターでさえも抑え切れないくらいの強烈な衝撃が。
同時に引き金を引いたはずの荷電粒子砲が発射されなかった。
「ど、どうして発射されない!?」
ムネオの問いに。
「ベルタに砲のあった股間部分を叩き壊されたのだがね」
スグルが冷静に状況を解説してくれた。
ベルタは、右肩の隠し腕を展開してスグルの股間部分(荷電粒子砲)を殴り破壊したのだった。
「どうするね?マスター。エフェクトマジックカードでダメージを回復させるかね?」
またもや動じぬ口調で訊ねてきた。
「時間が無いのだがね。早く決めてもらわないと困るのだがね」
再度訊ねてきた。
しかしムネオは唇を噛んで何も答えない。
「キミの敗因はマサノリくんを道具として見た事だがね」
スグルの言葉に、ムネオはコクピット上部へと顔を向けた。
「あの状況、マサノリ君に『ベルタを捕まえろ』と命令するべきではなかったのだがね。君には助言しなかったが、あの状況なら彼を呼び寄せて、私を火器として扱うよう願い出るべきだったと思うのだがね。それなら私に課せられた欠点も補えるし共に勝利を得ることもできたかもしれないのだがね」
「それなら、どうしてあの時、ボクに助言してくれなかったのさ!?」
「キミのプライドがそれを許したかね?マサノリくんに道具として扱われる事を。ん?言ってみるのだがね」
ムネオは口をつぐんだ。
あの時の自分は、きっとスグルの助言を無視したに違いないと。




