-98-:もう少し頭を使って戦ってもらいたいものだがね
上空から、4本の筒状の何かが落ちてきた。
それは、ミサイルのように自力で推進するでもなく、ただ落下してきているだけ。
途中で爆発する事も無く、それはベルタの目の前を、ただ落下していった。
落ちてきた筒状のものの後部には、何やら回転するモノが。
爆弾に搭載されている軌道修正用のプロペラ?でも、やけに小さいな。しかも、今、爆発もしなかったし…。
落ち行く“それ”を眺めつつ。
もしかして!あの回っているモノはプロペラじゃなくてスクリュー!!?
「魚雷!?え?何で?何で、空中で魚雷なんて撃ってきているのだろう?」
ヒューゴはあまりにも不可解な敵騎の行動に首を傾げた。
「先に落ちてきた水滴そのものが何らかの薬品だったのでは?」
ベルタが自らの見解を述べる。
「それは無いと思う。あの水は恐らくただの海水だろう。今どきの潜水艦は魚雷を発射する際に、発射管から魚雷を自走させるために、中に溜め込んでおいた海水と共に押し出すスイムアウト方式を取っているんだ。これなら、空気で押し出すよりも静かで敵艦に発見されにくい。ヤツもその方式を取っていたから、魚雷を撃ち出した際に一緒に海水も吐き出したという訳さ」
「本来海中で使う火器を空中で使う意味が解りませんね」
ああ、全く。
言葉に出されるまでもなく、とにかく意味不明な行動だ。
少し目を離している隙にスグルに逃げられてしまった。
またもや飛行形態(*注意:盤上戦騎は人型でも十分空を飛べます)に変形して随分と距離を離している。
あの形態では機動性が落ちるのか?かなり大回りをして旋回している。
しかもこの悪天候の中、水平飛行もままならないらしく、常に左右に騎体が揺れている。
その中で、またもや口から荷電粒子砲が発射された。
あらかじめ射線は読んでいたので右方向へと騎体を大きく回避させると、今度は先程のような熱攻撃を受ける事はなかった。
「あの騎体、どうやらあの形態にならないとビームを発射できないようですね」
生け贄として考えられない事も無い。が。
「そう願いたいが、ベルタ。決め付けるのはもう少し情報を集めてからだ」
スグルがまたもや人型に変形、ポールアームを勢い付けて振り下ろしてきた。
今度は逆手に握ったキバでポールアームの鉄球部分を横からブン殴る!と軌道を急変更されたスグルの上半身はガラ空きとなった。
浮遊素を散布!足場を作ってジャンプすると、スグルの頭部目がけて左足を振り被り、キックを食らわせた。スグルの頭部がへしゃげて飛んでいった。
「行くぞ!ベルタ!可哀想とか弱い者イジメだと言うなよ。このまま一気に叩かせてもらう!」
数に勝る暴力は無い。ここは非情に徹して頭数を減らしておきたい。
ベルタが次の攻撃に入る前に、「ママーッ!!」叫びながら飛行形態へとなったスグルに逃げられてしまった。
「マスター!キミの攻撃が単調だから、ベルタに即対応されてしまったのだがね。もう少し頭を使って戦ってもらいたいものだがね」
スグルの叱責に耳を傾けているほど、ヒデアキ(ムネオ)に精神的余裕はない。
彼はただ真っ直ぐに逃げるだけ。
もしも、ベルタにちゃんとした火器が備わっていたのなら、背後から容赦なくズドンな状況下にあった。
「脚が早ぇーなぁ。とてもじゃないが追い付けないな」
悔しいけど、見逃すほかない。
雨雲が雷を発しながら近づいている。
そして、益々風も強くなってきている。
「ノブオ!お前はベルタを捕まえるんだ!いいな!命令だぞ!」
オープン回線で僚騎に命令している…。
雲の中に隠れている“火の点いた蚊取り線香のような頭の盤上戦騎のパイロットはノブオというのか。
それにしても、“ベルタを捕まえて”どうするつもりなのだろう?
あの荷電粒子砲で攻撃したら味方も巻き添えを食らってしまうのに。アイツら、理解しているのかな?
そんな初歩的な矛盾などカムロたちも理解していた。
「マサノリ。あんなヤツの言う事を聞く必要は無いよ。あの坊や、手柄の為なら味方も捨て石にするつもりだ」
「う、うん。分かっているよ。けど、どうしよう?僕たち」
カムロの騎体が手にした三又槍を握りしめる。
旋回を続けるスグルの騎体が再び人型に変形した。
「あれ?必要も無いのに、アイツ、また人型に変形してるぞ?」
さっきから不自然に思っていた。
「ヒューゴ。敵から得たデータを確認して下さい」
ベルタの支持を受けてスグルから取得したデータを確認する。
先程、頭部を破壊したので、さらなる深層データを取得していたのだ。
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◆ ◆ 耳翼吸血鬼のスグル ◆ ◆
武装:内蔵式7.5ミリバルカン砲:両腕に各1門
ポールアーム:1本
内蔵式荷電粒子砲:1門(ただし、飛行形態時のみ発射可能)
*生け贄により、飛行形態時にのみ荷電粒子砲の発射が可能。
さらに、エネルギー充填のため発射後間も無く人型形態に強制変形される。
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「思った通りの性能でしたね。ヒューゴ」
ベルタたちの見解はあながち間違いでは無かった。これで、荷電粒子砲の脅威はある程度取り除かれた。
不安定な飛行形態では、今後発射されても、気を抜かない限り、至近弾すら食らうことも無いだろう。




