-97-:早くボクを助けろォーッ!!
ふと、思い出したのだが、あの超高速の敵騎はどうしたのだろう?
荷電粒子砲の光に気を取られてしまい、すっかりと忘れていた。
辺りを見回すと。
遥か遠くに、アクロバット飛行などで空に描かれる8の字なのか?ハート型なのか?はたまたバネ?を描いているのか?とにかく目茶苦茶な軌道を2本の白線で描いていた。
「あっ」
眺めている最中に空中にYの字が描かれた。
「あれまぁ」
驚きの声を上げると、ベルタが「どうしました?ヒューゴ」訊ねてきた。
あれは。
スキーの初心者がよくやってしまう、左右のスキー板がそれぞれの方向へと滑っていってしまい、最後は股裂きのようにして転倒してしまうミスを彷彿させる。
「攻撃態勢に入っている最中に、荷電粒子砲のビームが割り込んできたら、そりゃあ驚いて操縦をミスってしまうわな」
まさに空中分解。
胴体と両脚の3つに分かれて。
それぞれのパーツがほぼ同時に爆散。
しかし、煙の中から胴体部分が飛び出してくると、中から何かが飛び出して翼を展開、飛行機のようなものに変形した。
コアブロックシステム。
緊急脱出機能を備えていたようだ。
どうやらパイロットは死んでいないらしい。
安堵の溜息が漏れる。が、それもやがて光の粒となって消滅した。
情報獲得のアラームが鳴り響き、正面ディスプレーにメッセージが表示された。
◆◆ 黒側盤上戦騎の情報を獲得しました。 ◆◆
こちらから手を下す事なく、勝利条件の総ダメージ数60パーセント以上に達したのだ。
例え緊急脱出システムを搭載していようとも、だ。
メッセージが流れる。
カンシャク持ちの女のアッチソンの情報を獲得しました。
今の状況、表示されたステータスに目を通している暇はない。
でも、武装くらいは目を通しておこう。
ミニガン×1丁(総弾数10億発)、ピック×1本。
「10億発って、またスゴい弾数だな・・。10分の一に減らして威力を上げれば良かったのに」
とはいえ、こういう痛恨のミスは大歓迎なヒューゴの口元は緩みまくっていた。
敵騎の接近を知らせるアラームが鳴る。
荷電粒子砲を撃ってきた敵騎は、両腕に内蔵されたバルカン砲を撃ちつつ、ベルタに接近してきた。
腕そのものが銃身だけあって命中精度は高く、肩部、胸部に被弾するも、やはり牽制武器のようで威力は低く、ベルタの装甲を撃ち抜くことは無かった。
ベルタも負けずに応射。
こちらは、やはり期待するだけ無駄で、命中はすれどもダメージカウントに数字は上がらなかった。
敵騎が射撃を止めてポールアームを振り被った。
ベルタは一旦ハンドチェーンガンを後腰部に収納すると、両腰に差しているキバ(折り畳み式脇差し)を抜刀、一度ブンッと大きく振って展開させた。
敵騎が、ポールアームを薙ぎ払うように振ってきた。
脇差しのような刃の薄い刀剣をあの質量にぶつけてしまうと、一撃で折られてしまう。
受け流しも考えものだ。
襲い来るポールアームの鉄球部分を、脇差しの柄の底部に当たる頭で叩き弾く!
敵騎がよろめいた。
刀剣とは、刃の付いた刀身部で相手を斬り付けるだけが使い道ではない。
頭で打撃攻撃を行うのも立派な剣技である。
だけど、これをやると、次の攻撃に転じにくいのよね。
右手のキバを逆手に持ち替える。これで頭が先となり“突き”を繰り出すことで盾の代わりとなる。
剣を交えたことにより、敵騎の低階層データを取得した。
敵騎の名前はスグルと言う。
真名が判明するほど、まだ敵騎体に接触もできていない上にダメージも与えてはいない。
「ノブオーッ!何してる!?早くボクを助けろォーッ!!」
今まさにベルタに切っ先を向けられんとするスグルのマスターが叫んだ。
レーダーでは。
レールガンを撃った敵影はベルタたちと重なっている。
改めて探すまでもなく、ヤツは上空の雲の中にいる。
上空を警戒。するとディスプレー越しに水滴が落ちてくるのを確認できた。
「??」
不思議に思い上空へと視線を向けると、今度は4本の筒状の何かが落ちてきた。
アレは何?




