-96-:ビームの光か!?
アッチソンは、またしても大きく旋回して態勢を立て直さなければならなくなった。
2列の白雲を引いて、仕切り直し。
その間、マサノリのカムロが倒されようが知った事ではないが、考えの足りない無能者に邪魔だけはされたくない。
「コフォー。マサ・・ノリ。上空・・の・・雲の・・中で・・待・機・・していろ。フォー」
海の中を戦場にさせる訳にはいかない。
ベルタに海の中へと逃げ込まれたら、アッチソンでは手も足も出せなくなる。
この超高速騎、水面に激突したら木端微塵に散ってしまう。
(そろそろムネオのヤツが到着する時間だ)
ナガマサの焦る理由はただ一つ。
それは耳翼吸血鬼のマスター、ヒデアキこと洲出川・宗郎にベルタを横取りされる事だけだ。
カムロが雲を目指して真っ直ぐに上昇してゆく。
ヒューゴは、距離400メートル程しか離れていないカムロを捕捉すると、フォアエンドをスライドさせてから両手でチェーンガンを構えて射撃した。
速度の遅いカムロに対して全弾命中とはいかなかったにしろ、ダメージは与えたはず。
だか、やはり「効かんなぁ」
予想した通り、与えたダメージは2パーセント。
装甲強度は硬めに設定されている。次弾を装填している間に敵騎が雲の中に隠れてしまった。
「ヒューゴ。あの騎体を盾にしながら戦うというのはどうでしょう?」
ベルタからの提案。
「その方法はアリだな。雲の中ならレーダーでも捕捉できるし。しかし、さっきの猛スピードで来るヤツの方は常に視界に入れておきたいな。もらい事故でやられるのだけは勘弁だわ」
結局のところ却下。雲の中には突入しない事にした。
さて、残るあと一騎はどこからやってくるのか?
「レーダーに3つ目の騎影を確認。計算では、3騎目はあと3分くらいでそちらに到着する予定です。速度は前回のキャサリンと同じくらい。気を付けて下さい!」
ココミからの報せに「了解」
敵騎の編成は、超高速仕様騎と装甲強化騎、それに標準型と、こうも仕様が異なる騎体同士だとフォーメーションを組むのに苦労することだろう。
敵ながら心配してしまう。
超高速騎が、またもや真っ直ぐこちらに向かって来る!
しかもマシンガンの弾を撒き散らせながら。どうやら照準を付けて撃ってきているのではなく、こちらの逃げ道を塞ぐ目的で撃ってきている模様。
多少のダメージは仕方が無いとして降下させよう。全推進器を停止!自由落下に入った。
すると!
正面から強烈な光の筋が!
一条の光線が、ベルタの右側面5メートル程先を通過していった。
「ぐあぁぁッ!」
ベルタが苦悶の声を上げた。
直撃では無く、至近弾にしても遠い距離だったが、ベルタの胴体に5パーセントの損傷が出ていた。フィン状の装甲版が数枚溶け落ちている。
「ビームの光か!?今の。荷電粒子砲を撃ってきたのか?それに、あんなに離れていたのに5パーセントもダメージを出すのかよ・・う、ウソだろ・・?」
高砂・飛遊午は人類史上初めて荷電粒子砲の攻撃を受けた人物となった。
「レールガンに続いて荷電粒子砲を撃ってきやがったのかよぉ・・。どちらも空想科学兵器じゃないか。こんなのシャレにならないじゃねーかよぉ!!」
図らずも、立て続けにSF兵器の攻撃を受けたヒューゴは大きく取り乱していた。
「ヒューゴ!貴方は私たちに期待させるような言葉を並べておきながら、自ら台無しにしてしまう失態を演じ過ぎます!もう、これで何回目ですか!?」
ヒューゴに詰め寄るベルタであったが、ここはなだめるなりして彼を落ち着かせるのが先決、彼女本来の役目ではなかろうか?
思いつつも、ココミは二人の間に割って入れない。
(どーしたものかなぁ…)
ここは大人しく静観するに限る。
「ヒューゴ!真っ直ぐ向かって来よるで」
ルーティの言葉を耳にするなり発射元を確認!
「アレもディザスターなのか…?」
何だか、頭だけの盤上戦騎か?
耳の部分に大きな蝶の羽のような翼を持つ、口に吸血鬼のような発達した八重歯、いや、あれは牙なのか!?
八重歯なのか?牙なのか?判断しかねている最中、下顎部分が後部へと回り込みリアスカートに、牙だった部分が前方に伸びて2本の脚となると、耳の部分は折り畳まれて根元の部分が展開、腕となり、最後に頭部が胴体から飛び出して変形完了!
モヒカンヘッドの盤上戦騎になった。
手には両膝に挟んでいた、トゲの付いた鉄球に長い棒を差し込んだ打撃武器、ポールアームを携えている。
今度ばかりはココミを責める事などできない。
会敵予想を覆す手段として、3騎目の盤上戦騎は変形機構を用いて一気に距離を縮めてきたのだった。
ふと、思い出したのだが、あの超高速の敵騎はどうしたのだろう?
荷電粒子砲の光に気を取られてしまい、すっかりと忘れていた。




