第50話:繋がりが拡大しました。
話し合いは概ね終わった。というのも、ガルドさん達が再度作るであろうクランの規模が現状まるで分らないからだ。ガルドさんに至っては単独で来るまであるらしく、そうなった場合は残り4人のクランいずれかに所属する形になりそうだ。
よってさして決めれるような事が無いという事で話は終息し現在、俺のクランで敷かれている一部の情報に関して俺の許可なくクランメンバー以外に語れなくなるという内容と、クランを脱退する時はそこで覚えた知識・技術の忘却という内容に関しての話し合いが行われている。
「秘匿したい情報に対する妥当な措置だと俺は思うが他はどうだ?」
「別段命を脅かす内容というわけでもない。これから俺らが知るのはキョウ達のあの異常な強さに繋がる内容と技術だからな・・・必要な事だろう」
「誘導尋問とかで語れない内容を把握されたり、こちらの質問に対する反応として喋らなくていいから首を振って合否を示そうと思えば出来るっちゃ出来るが、面々を見る限り後者は心配ねぇな」
「寧ろ、我々が連れて来る者にこそ気を払うべきでしょうね。それはこちらで新しく条件を追加すれば済む話です」
リカルドさんが進行役として、ガルドさんロイさんシエルさんとそれぞれが意見を述べてゆく。
俺はそこまで徹底して秘匿しようとは考えてなかったからな。そもそも簡単に情報を漏らすような連中をクランに入れたりしないし。最低限のモラルはちゃんと身についているし、身につけさせる。
・・・ん?それよりも、何か聞き捨てならない事柄がサラッと含まれていたような。
「なら、キキョウ君がクランで敷いている条件はそのままクラウド加入の条件及び契約内容の一部として据え置くが構わないな?」
「あぁ」
「いいぜ」
「分かったわ」
どうやら俺が通してほしい案件はすんなりと決まったようだ。
「よし、キキョウ君。これ以外で徹底して欲しい事柄はあるかい?」
「いえ、ありません」
俺の答えを聞いたリカルドさんは一つ頷き、
「なら、現時点でさっさとクラウドを立ち上げるとしよう。メンバーが俺らしか居ない内はこれで十分だ。契約の細かい部分はクランリーダー、各クランの代表者が合意していれば幾らでも変更は可能だ。まぁそんな事は人数が少ない今しか出来んがね」
そう言ってリカルドさんは立ち上がると、会議室出入口前で待機していたエリスさんと話し出す。暫く内容を聞いていたエリスさんは、恭しく頭を下げた後に会議室を離れ10分と経たない内に戻って来る。
エリスさんは2つの指輪を持ってこちらへやってくると、一つはリカルドさんにもう一つは俺に渡してくる。
指輪を渡し終えたエリスさんは会議室出入口前へと戻っていき、俺の手元に用途不明な指輪が残される。
「キキョウ君、今受け取った指輪をバンクで受け取った指輪をはめてる指に通してみてくれ」
リカルドさんが目の前で実演してくれてるので言われた通りに指輪をつけると、元から身に着けていた指輪と共鳴するかのように光り、互いの指輪が一体化してしまう。スゲー。原理は分らんけど。
一体化した指輪をマジマジと見ると、何処となく形状やら模様やらが変化しているように感じる。
「今の指輪はクラウドの機能を持った奴でな。既にバンクから受け取った指輪と合わせる事で機能の拡張が出来るんだよ。勿論脱退する時に分離させる事も可能だ」
「という事はもうこれでクラウドに加入した事になるんですか?」
「そうなる。新たに渡された指輪にクラウドの拡張機能と加入条件である契約内容も含まれている。契約内容に合意したクランリーダーに渡せば、その場で加入が可能だ。但し、合意していないクランリーダーに無理やり身に着けさせる事は出来ない。大事な事だから覚えておくように。現時点ではキキョウ君が挙げた契約内容しか含まれていないから違和感は無いと思うが、おかしな点があったら教えてくれ」
そう言ってリカルドさんが俺に自身のクラウド機能が拡張された指輪を見せて来る。俺は物の試しとばかりに、目の前にいるリカルドさんに念話で話しかけてみる。
(テステス。聞こえますか?リカルドさん)
(おぉ聞こえるぞ。問題なく念話も出来るようだな)
そうお互いに念話で話し、リカルドさんがいい笑顔でサムズアップしてくる。大体の使用感はわかった。
折角なのでカシアと双子姉妹達に情報解禁オッケーの旨を念話で伝えておこう。
あ、カシアだけじゃ説明不足になるだろうから、暇だったらお手伝いをしてやってくれと他の面々にもお声を掛けておこう。
結局うちのクランメンバー総出で双子姉妹へ教える事になったようだ。女子率が極度に高いあの空間に平然と混ざれるマグルがちょっと凄い。尚、レオナのお兄さんは治療中の母親の様子を見に行っている為居ない。
まぁこっちももうじき一段落付きそうだが。
「とりあえず、お前達の分は後回しだな。どのみち今の状態じゃ加入も出来ん」
一仕事終えたという感じで、あからさまに気を抜き出すリカルドさん。
「さっさと済ませてこちらへ入れるよう立ち回るさ」
「親父をせっつくか。もう十分に休養できたろうし」
「解体すると言った時の周りの慌てようが目に浮かぶわ。知った事じゃないけどね」
お三方もなるべく早く体制を整えるつもりのようだ。まぁ最後のが凄く不穏ではあるが。
「さて、これで捜索中に話してたレオナのお願いは叶うと俺は捉えるがいいんだよな、キョウ?」
「ここまで場を整えられてしまっては断れないですよ」
「そうか、レオナの奴も喜ぶだろうよ」
ガルドさんが俺に確認をしてくるので俺は苦笑しながらも了承の意を伝える。
「ちゃんとお父さんである俺が頑張ったというのも伝えてくれよ?キキョウ君」
さらっと娘にいい父親アピールをしようとするリカルドさん。
「そこは普通に父親としてレオナちゃんに話せばいいんじゃないんですか?」
俺がリカルドさんにそう言うと、何か難しい顔になって会議室の長机に突っ伏しだす。
「何かヨ、最近レオナに避けられているような気がしてな、話しかけるタイミングが今一掴めないんだよ」
ん?父親特有のお悩みって奴だろうか。レオナの性格からしてただ単にリカルドさんが勘違いしてるだけの様な気もするが。
「なんだリカルド、家庭内トラブルか?情けねえな」
「うるせぇよガルド。そういうお前はどうなんだよ?お前の所だって息子2人に娘1人居るだろ」
「特にこれといったトラブルは無いな。精々娘が良い年頃になって来て、周りの異性を気にしだしたくらいか」
「父親としては娘に悪い虫が付かんか気が気じゃないんだがな」
「そうか?もういい歳なんだし、自分の相手くらいキッチリ見極めて俺の所に連れてきて欲しいもんだが」
「・・・ムリ!娘が男を紹介してくるとか俺の理性が持たん!」
「だから親バカとか言われるんだぞ、リカルド」
何か子持ちの親父達か父親トークを展開してますな。俺やロイさんシエルさんでは経験値が足りなくて踏み込む事が出来ん。
そんなこんなしている内にレオナとレオナのお兄さんであるカイムさんが戻ってくる。
「峠は越えました。後は安静にしていれば大丈夫です。皆さん、本当にありがとうございました」
カイムさんが改めて頭を下げて来る。皆レオナの母親の容態を気にしていたんだろう。特にリカルドさんなんかは顕著だ。自分の嫁さんなんだから当然ではあるが、戻って来た2人の息子娘を見た途端イスから立ち上がって2人に駆け寄ろうとしていたくらいだ。
容体を聞いて安心したのか、再度長机に突っ伏して身動ぎ一つしなくなった。ガルドさん達もこれは仕方ないという感じだ。
「・・・さて、リカルドには悪いが全員揃ったから本題に入ろうと思う。あぁ、リカルドはそのままでいいぞ。耳だけこっちに向けといてくれ」
今度はガルドさんが進行役を務めるようだ。
「キョウ、結論から聞こう。アイツはどうなった?」
「倒しましたよ。過程は省きます。単に協力な物理で押しつぶしただけなので」
俺の発言に驚き半分、何となく分かってた感が半分って所だろうか。言うまでもなく前者はリカルドさん達、後者はガルドさん達だ。
「死骸は出来るだけ回収してきました。後アイツが一匹とは限らなかったので、ロイさんが空けたあの縦穴はこちらで勝手に蓋をしておきました。勿論開閉式です。もし誰かを監視の為に向かわせているのであれば、その旨を伝えておいて欲しいです」
「わかった。伝えておく。こちらは帰還して直に未開拓エリアへと続いているらしき縦穴と地下遺跡発見の告知をバンクを通して遺跡都市全体に発信し、同時に正体不明のモンスターが確認できた為、現状は地下遺跡への立ち入りを控えるようにも発信はした。だが――――」
ガルドさんがそこで話を区切ると同時にロイさんがその続きを引き継ぐ。
「探索者ってのは好奇心の塊だ。はいそうですかとダンマリを決め込む連中はそう多くないと見ておいた方がいい。絶対にこちらの静止を振り切って地下遺跡へ踏み込むヤツらが居る」
以前にも似た会話をしたな。だがその前に、
「ガルドさん、その告知の中に地下遺跡内は荒らすな。って入ってますか?」
「・・・スマン、入ってない」
「すぐに告知の追加を。それで尚遺跡に踏み入って荒らす愚か者は知りません。自己責任です」
ガルドさんはすぐさまエリスさんに告知内容の追加を申し込む。若干タイムラグがあるだろうが、そこは既に地下遺跡入口付近の監視を行っている者に警告内容の追加をしておけば済む話だ。
「さて、アレの死骸ですがここに出してしまっても?グロ耐性が低い人には正直言ってかなりキツイ光景かもしれません」
俺からの警告に皆嫌そうな顔をするが、そこはそこ。誰も否を唱える者は居なかった。一人だけ涙目になっている者が居たが。
「でわ、出していきますねー」
そう言うと俺はバックパックに手を突っ込み、残骸となったフェイスイーターのパーツを一つ一つ取り出して行くのであった。
 




