また明日
初投稿です(OvO)
読者様が読みやすいように出来るだけユーモアある文章を書くのを心がけました…。
誤字脱字の指摘、感想、辛辣なアドバイスどんどんいってくださいまし!
彼女は、また微笑んだ。
夕陽によって照らされた廊下。廊下の不気味な青白い蛍光灯の光は薄暗く、朱色のまばゆい斜光にかき消されてしまっている。そこに立つ彼女は背景によく馴染み、一つの絵画を作り上げている。その絵を彩る無垢な笑顔。
いつだって変わらないその笑顔は、彼女そのものを表してるような、そんな気がする。そして、その笑顔を見るたびに、自分をとても残忍なやつだと失望するのだ。
なぜなら、その笑顔に俺が応えたことは一度もないからだ。応えたとして、上手くいく自信が全くない。というか、自分に自信がない。
そう自分に言い聞かせて、実に1年半という月日が経ってしまった。その間も変わることがなかった彼女の笑顔を見て、今日、俺は一歩踏み出そうと決めたのだ。
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放課後の教室。
時刻は六時ちょい過ぎ。太陽はすでに西の空に沈み、夜の闇とオレンジの夕焼けが入り混じり幻想的な風景を作り上げていた。
俺はペンを置くと頭の上で手を組んで大きな伸びをする。身体の節々からポキポキっと小気味よい音が聞こえる。
担任の先生に提出する日直の学級日誌を書いていたら、いつの間にかこんな時間になってしまったようだ。
学級日誌くらい適当に書いて出せばいいじゃんという話なのだが、今日一日に俺の身に降りかかった災難、もといいじりについて担任に現状を把握してもらうために、ユーモアを散りばめ、凝った文章を書く必要があったのだ。
俺は俗に言ういじられキャラなわけだが、好きでこのキャラやってるわけじゃない。他に誰もやる人間がいない、ただそれだけだ。
どの程度にいじられているのかを知ってもらうには、俺が今日受けたいじりを知ってもらうのが一番だろう。
そうだな、あれは三限目の授業の後だ。トイレから戻ってきた俺は椅子に座ろうとしたわけだ。
だが、俺が椅子の後ろにスタンバっている人影を見逃すはずがない。おそらく俺が座ると同時に椅子を引き、床にお尻を打ちつけてのたうち回る姿を見て、あざ笑おうする魂胆だったのだろう。
甘い。超甘い。この手の嫌がらせは何度もやられてきた。そのため、座るときは背後をチェックする癖がついてしまったのだ。
故に、俺は椅子に座る瞬間に後ろを振り返り、一言。
「甘い!」
「…なんで気づくし、おもんねーな」
などとぶつくさ言っているが、ここで「見聞色の覇気に決まってんだろう? ハッハッハ!」と言うとひと笑いとれる。これマメな。
あとは5,6限の体育か。準備体操を終えた俺の後ろから忍び寄る影。
というか、なんでいつも後ろからくるの? 忍者に憧れてるの? おいら中二病とかよく言われるけど、言ってる方が中二病だったりするんじゃないの? 正面から堂々来てどうぞ。返り討ちにしてやるよ。無理だけど。
閑話休題。後ろからバレないように近づいて、俺のズボンを一気に下ろす、そして俺のハートマークのパンツが顕に…女子の悲鳴が…、そんなことにはならなかった。いや、させないから。
俺が中学の時に何回カエルちゃんパンツを世間に見せびらかしてきたと思ってるの? まあパンツくらいは見られてもいいけど、見世物にされて笑われるのは癪だからな。
俺はズボンの紐をめちゃくちゃきつく結んでいる。それゆえに、下ろすことは不可能だ。ほどきにくいのが難点だけども。ここでも見聞色ガーとか言っておけばひと笑いだ。
…そういえば、中学の時ズボンと一緒にパンツまで下ろされて、異物がこんにちはしてしまった栗原くんは今元気だろうか。泣いて帰った次の日から来なくなった思ひ出。
弱肉強食のこの世界で順応できなくなったら終わりだ。いじられキャラとは、常に競争の最前線に立たされ、試され続けている。それが出来なくなったやつは「いじり」が「イジメ」へと変貌し、その人自身を苦しめる。そういうものなのだ。
俺がいじりを受けていることを担任の先生は知っている。俺の唯一の味方といっても良いだろう。だから、こうして先生に報告してるわけだ。あ、次の新しいネタは「先生に言うから!」にしようかな。ネタを考えてる時点で若手芸人って感じもするけど、似たようなもんだろ。
よっこらせと学級日誌を先生に持っていくために立ち上がる。椅子を引いた音は、誰もいない教室によく響いた。教室の扉を開け、廊下に出ると夕日に照らされた床がオレンジ色に染まっていた。
そこにいたのは、俺と、もう一人。その女の子は、俺の3メートルくらい前で佇んでいた。
そして微笑んだ。
いつだって変わらないその笑顔は、彼女そのものを表してるような、そんな気がする。そして、その笑顔を見るたびに、自分をとても残忍なやつだと失望するのだ。
だから、踏み出したいと思った。1年半分の彼女の笑顔がそうさせたのかもしれない。いつもは会釈をして、通り過ぎる俺が立ち止まって彼女を見てることに、彼女自身も少し動揺しているように見える。そして、ひと思いに発した。
「…わ、忘れ物かな?」
短い言葉だったが、確かに彼女に届いていた。彼女は一瞬目を丸くしてから、微笑みながら返答した。
「うん、英語の教科書忘れちゃって」
「そっか…」
言葉が詰まる。ああ、会話が終わっちゃうんですけども。何を言えばいいのか分からない。
ずっといじられてたせいかは知らないけど、受け答えすることはめちゃくちゃ得意になったのに、自分から話題を作ることが全くできない。俺がポ◯モンならきっとソ◯ナンス。
「竜胆くんは何してたの?あ、日直なんだね」
そういって彼女は俺が持ってる学級日誌に目を転じる。
おお、相手の方から攻めてきたぞ。我が軍はもうダメです。なんとか切り返そうと作戦を練ろうとした途端
「竜胆くんの日誌って面白いよね」
バッサリ切られました。思い出したように彼女はクスクスと笑う。
え、嘘マジ、本当? あれー? 読まれてましたー? 超恥ずかしいんですけど? 意味不明な授業ばかりする物理の先生を揶揄してダークフィジックスマスターの脅威がどうたらこうたらとか書いたこともあるんだけど…。
「…ふひ」
思わず乾いた笑いが漏れる。
次からは、凝った文章を書くのはやめよう。そうだ、家の庭に勝手に生えてきたクローバーの話でも書こう。今でも暇な時はたまに四ツ葉のクローバーを探してたら、日が暮れてしまうことがあるんです! とか書いて、いつまでも少年の心忘れてませんよアピールとかしたら女の子からの評価が上がるかもしれない。
「どしたー?」
俯いて現実逃避している俺を案じたのか、彼女が顔覗き込んでくる。
なっっ! これはやばい! あざといですぞ! この子あざとい!ふと目が合ってしまって、動揺する俺。すぐに目をそらす。
「…あー、女の子と目を合わせるとか、できないんだよ」
ボソリと言ってしまった。やらかしたと思った。普通はこんなこと言わない。
ハァーとかため息ついてるだけで、ヒロインが惚れちゃうハーレムアニメの主人公は砕け散れと思った。
チラリと彼女を見ると、惚けた様な顔をしていたが、すぐにニンマリと笑った。なんというか、それはもうイタズラ大好きな小学生みたいな邪気に満ちた笑み。
「ほほぉ」
ニヤニヤしながら、俺をそらした視線の先に、体を傾けて無理矢理目を合わせようとしてくる。その都度、また目をそらすのだが、すぐさま目を合わせてくる。彼女が体を傾ける度に、ふわりと柑橘系の香水の匂いが鼻腔をくすぐる。女の子の香りだ。
危うく理性を失いかけそうです。彼女は目を合わせるのに必死なのか、どんどんお互いの距離が近くなっていることに気づかない。
彼女の吐息が肌で感じられるくらい近づいたところで、胸の前で両手を交差させて、バリアの要領で接近を阻害しようと試みる。
「ちょっ、やめっ、近い…近いんですけど!」
そこで彼女はようやく気が付いたのか、ハッと体を仰け反らせる。
「あ、ごっ、ごめん…」
夕日のせいか照らされた頰は紅く染まっているように見えた。この子、天然入ってるな。恐ろしい子。いや、もしくは計画してやってる小悪魔的な存在なのか。なんか、恥ずかしくなってきたのでそろそろ退散しよう。
「ほんじゃあ、俺行くよ。ほな」
とビシッと右手で挨拶して立ち去ろうとしたが、左袖に抵抗があって立ち止まる。彼女が袖をちょんとつまんで、停止を促していた。
「えっと、あの、その、バイバイ、竜胆くん。また明日…」
と控えめに右手で手を振ってくる。
「お、おう。えーと、お疲れ様でしたー。また、明日な、白織」
「プッ、なんで敬語なの?」
そういって笑う彼女に手を上げて答えつつ、職員室のある一階に駆けおりた。
うーん、バイバイって言われてバイバイって返すの何故か恥ずかしい。手を振るのもちょっと恥ずかしいし。どうするのが正解なんだろう。
間違いなく白織優花は優しい女の子だ。だから、ずっと俺に微笑みかけてくれた。彼女との縁は、中学が一緒だった、それだけだ。1年半。長いようで、短いようで。いつも全力だった気がする。けれど、今日踏み出せて本当によかった。
駐輪場にはポツンと赤い自転車が一つ。俺の愛車だ。
「帰るぞ、レッドペッパー二号」
そう囁いて自転車にまたがる。
俺レベルになると自転車も友達さ。名前とかつけると、親近感湧くから超オススメです。
ちなみに、一号は誰かに盗られて行方不明。犯人は絶対山崎だけど。あいつはいつか血祭りにあげよう。
ーーーまた明日
白織の言葉が脳裏に浮かぶ。短いけどとてもいい言葉だ。柄にもなく明日に期待してしまった。約束とは、面倒くさいものとばかり思っていたのにな。心が温まるような気さえする。
空を仰ぐと、オレンジは黒に西の隅に追いやられていた。あの時、何も言わずにすれ違っていたら、きっと何も変わらなかった。今見てる情景に寂しさを感じたはずだ。
ほんの少しの勇気が、未来を変える。そんなことは綺麗事だと思っていたけれど、捨てたもんじゃないな、捨てたもんじゃない、そう思えた。
俺は鼻歌交じりに、ギシギシと嫌な音を立てる愛車のペダルを強く踏み込んだ。




