第三のお話 携帯電話とカード
鈴木の姉さんは「すずきのねえさん」ではありませんよ。「すずきの『あね』さん」ですからね。姉さんに怒られますよ。姉さんに。
「自己紹介をしてもらう」
「面接でもするんですか?」
「はいはい、桜田君の言い方だと本当の意味を相手に伝えられなくなるから私が説明するわね。今からあなたの武器登録を行うためにある程度の個人情報が必要なのよ」
「あ、そうですか。書類か何かを提出ですか?」
「いや、あそこのパソコンでやるのよ」
「あ、じゃぁやり方だけ教えてください。パソコンとかそういうの触るの慣れてますんで」
「あら、そう」
人それぞれの得意不得意というものはいつどこで表に出るかは誰にも分からない。だからこそ、いざという時に役に立つといわれる。持っていれば家宝にもなる代物というのは、出す瞬間を間違えるとそこら辺の石ころと同等のありふれたものにしかならない。学生服の彼にとってコンピュータを扱うことが得意だということが、本人の名前よりも先に表に出た瞬間だった。
あらかじめ、電源の入っていたコンピュータの前に座る学生服。はっきり言うと、コンピュータ周りに物とコードが散乱していて画面が露出しているだけのような状態である。つまり、キーボードは一応手元にあり、マウスも握れるが電源などの付いた正真正銘のコンピュータ本体が視認できない状態にあると表現すると分かりやすい。それでも、学生服の彼は何一つ文句は言わなかった。
「文句があるなら顔ではなく口で言うんだな」
「なっ……!?」
「顔に出やすいタイプ。自己紹介をするよりも分かりやすい自己紹介ね」
正装のお姉さんが学生服の彼の後ろでメモ帳を取り出し、胸ポケットから取り出したペンでメモをしている。その隣に桜田がジーンズのポケットに手を入れた状態で立っている。
「まず、登録用のページに飛んでもらいたいわ」
「分かりますよ。高校で一応教えてもらってるんで」
「あら、それなら簡単ね」
「ただ、ここの住所とかよく分からないんでとりあえず入力できるところだけ入力しておきますね」
手馴れた手つきでそのページへ飛び、登録に必要な情報だけ手早く入力すると彼は席を立った。それと同時に、桜田とお姉さんは画面に喰らいついた。突然飛び掛ってきた二人をかわし、二人の様子をじっと見る学生服。そして、お姉さんの声が彼の耳に届いた。
「りゅうえんざき……? 変わった名前ね」
「あの、下にフリガナ入力した欄ありますよね? タツマザキです。龍円咲真です。タツマザキマコト」
「マコトか。シンではないんだな」
「……よく間違えられますが」
「じゃあ、後は適当に入力しておくわ。桜田君も自己紹介したら?」
「そうか。一応しておくべきだな。これから共に働くことになる人間だしな」
お姉さんがコンピュータ前の椅子に座るのと同時に、桜田が学生服――龍円咲の肩をつかみ、コンピュータの周りと同等に物が散乱している部屋に置かれているソファに座らせた。桜田の前に龍円咲というように向かい合った形で。これこそ面接ではないのか、と龍円咲は心の中で思った。しかし。
「面接ではない。ただ、自己紹介するだけだ。さっきから思ったことが顔に出ている」
「えっ……!? 本当ですか」
「まぁ、何でもいい。俺の名前は桜田。以上。後、武器は愛刀「桜七部丸」だ。以上」
「え……ええ!?」
「どうした?」
「短すぎるのよ、きっと」
昔から相手に伝わりやすいように伝えるということはプレゼンテーションの場で活躍してきた。しかし、相手にわかりやすく伝えるというのは日常にもありふれている。例えばこのように自己紹介をする場合でもそう。自分の名前、年齢等相手の知らない情報を相手が受け入れやすいように発信者側で整えるのが基本である。これを怠り相手にそのまま自分の情報を伝えると相手は受け取る際に戸惑ってしまう。その結果相手の理解を得られずに相手の発言を「え?」に固定してしまうのだ。相手が必要としている情報量、情報の質等を考えて相手に伝えることがベストである。
この場合、桜田という名前とすでに知っている武器の名前を言われただけでは龍円咲は納得できなかった。そこに、入力作業を終えたお姉さんが戻ってきたのだ。
「下の名前は秘密にしている。後は年齢は28歳だ。ここに勤めて約10年になる」
「そうそう、それぐらいが普通なのよ。あ、次は私ね。私の名前は鈴木。下は語る必要はないでしょ? 見ての通り事務作業を担当しているわ。外回りは桜田君の役目。年齢は聞かないで。スリーサイズも聞かないで。秘密主義者ではなくて語る必要がないから語らないだけよ、疑いの思いが顔に出てるわ」
「うっ……」
「後、私のことは『姉さん』と呼んでね。呼ばないと――ここで居場所はないわよ」
「は、はい。……あ、あの武器は?」
「私の武器はこれよ」
正装のお姉さん――鈴木――もとい、姉さんがポケットから取り出したのは携帯電話だった。驚きの表情が駄々漏れの龍円咲だった。
「言っておくが、姉さんの『スキル』は遥かに高い」
「スキル?」
「そう、武器登録をした時にもらえる武器は、自分自身の経験――通称『スキル』にあわせて変化ができるようになっていくの。桜田君はまだ2種類だっけ?」
「そうですね」
「あの、姉さんはいくつで」
「50種類よ」
「えっ?」
答えを聞くと同時にソファの隣に置いてあった謎の機械が謎の音を出し始めた。よく聞いてみるとその音は――チャイムの音だった。
「来たわ」
姉さんはそう言うとソファから立ち上がり、チャイムの音を放ち続ける謎の機械に近づいていった。数歩で近づける距離にあった謎の機械をよく見ているとその特徴からある家電製品に似ていることが龍円咲には掴めた。上段、中段、下段に分けられたブロック。下段を空ける際には下段上部についている引っ掛けに指を引っ掛けて、下段を引く。中段部も同様に。上段部は片側に付けられた取っ手を引いて、中が視認できるようになっている。そうこれは――。
「何ですか、その冷蔵庫は」
「これは『お上』の方から武器が届くようにいろいろ桜田君が改造したのよ。はい、これがあなたの武器」
姉さんが上段部を開けて、中から何かを両手に挟んで龍円咲に渡そうとしている。龍円咲が手のひらを差し出すと、姉さんは両手を離した。一直線に龍円咲の手のひらに落ちる武器。その形は。
「すごいな、龍円咲。お前の武器は『カード』だ」




