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第二のお話 桜田さん

桜田さん――主人公より先に名前が出てきます。

ちなみに、この世界には普通に魔物がいますからね。

「君の学歴」

「現在高校3年生」

「ふむ。独り暮らし?」

「はい」

「なら都合がいい」

 人との会話を楽しむためにはお互いの顔を向き合わせて、相手側の反応が正しく掴める場合が一番良い。なぜなら、相手側がこちらの話をしっかりと聞いているかどうかを理解できるからだ。虚空に向かって話しかける独り言とは訳が違う。しかし、背中で語るという言葉が世の中にあるようにこの場合は向き合って話すことは難しい。

 刀を持った青年は鞄を持った学生服の彼よりも前を歩き続けている。意味としては誘導。この状態で後ろを向いて質問する方が常識から逸脱している。従って、虚空と同等のものかもしれないが、学生服の彼はひたすらに背中に向かって言葉を飛ばしている。

「この世界の武器についてのルールは分かってるか?」

「高校卒業と同時に自己防衛対策として武器を「お上」に登録しないといけないんですよね」

「……厳密に言うと、社会人になればなんだがな。つまり、「働くことになる」または「18歳以上になる」を満たしたら、だ。非常にめんどくさいかもしれないが非常に役に立つ。自分自身の経験が豊富であればあるほど役に立つ。知識よりも経験が武器になることは稀ではないということだ。覚えておくこと」

「ふーん」

 周囲を煉瓦作りの家で囲まれた通りを歩いている二人。中心に軸でも入ってるんじゃないかと学生服の彼が思うほど、刀の青年はぶれない。逆に周囲の物体が新鮮である学生服の彼は辺りをきょろきょろと見回している。つまり、前を見ていない。

「あんまり見回してると俺の動きと合わなくなるぞ」

「え?」

「ここ」

 止まった。

 一つ目の言葉が発せられてから0秒から1秒の間に次の言葉が発射したため会話として成立しているように見えるが、若干学生服の彼の言葉と刀の青年の言葉が混じっている。人間の行動がそんな反射的に切り替われるのかといえば、稀に見る神経の持ち主でない限り無理である。つまり、学生服の彼は衝突した。

「痛がってないで人の話をしっかり聞け。ここが俺の職場。お前も働けば普通じゃない生活にはなるだろう。少なくとも」

「学生としての学歴は・・・・・・」

「高校中退」

「就職できるんでしょうか・・・・・・」

「就職先はここ。転職の機会は一生来ないと思ってもらっても過言ではない」

 刀の青年が指を差した場所には、煉瓦造りの家に囲まれた細長い場所に建物が建っていた。そこにあることが不思議かと言われればそうでもないが、稀に見ることの出来るような細さの建物だった。1階があるはずの場所には階段しか見えない。

「2階に職場がある。ここからはついてこいと言っても進むのは一本道だから迷うことはまずないだろう」

 それだけ言うと、青年は階段を上り始めた。一歩一歩ゆっくりと上がっていく。その様子を見ていた学生服の彼は呆気にとられていた自分の顔を普段と同じ状態に戻し、青年の後を追っていった。手すりは存在しない。ただ、壁に手を掛けながら一歩一歩足場に自分の足を乗せていく。そうしたくなるのも足場の幅が極端に狭いからである。学生服の彼の足が2分の1は空中に浮いている状態で上っていっているのだから。

 長い長い道のりを歩き切ったときは次に何が来ようとも、ひとまずその余韻に浸るのが人間である。学生服の彼は自分が登ってきた危なく険しい道を再確認して、さらに進んでいく刀の青年の背中を追う。左右の壁には何も掛かっておらず、だからといって逆に綺麗なのかというとそうでもない。一言で言えば殺風景な壁が永遠と続く廊下だった。そんな廊下を青年と学生服の彼は二人で前後に並びながら歩き続けている。

「ここが俺の職場」

 5分。学生服の彼が廊下に出会ってから次に扉に出会うまでに足を動かし続けた経過時間のことだ。刀の青年がここだと学生服の彼に紹介した場所にはドアノブの付いたドアがあり、そこには張り紙が張ってあった。まるで落書きのような文字が書かれた状態で。

「桜田相談所……?」

「何でもかんでも音読するものではない。それがどんな可能性を秘めているか分からないこの世界では、安全確認が非常に重要だ」

 がちゃ。

「延々と小難しい話してないでさっさと入ったら? 桜田君」

「すみませんね、(あね)さん。君、姉さんに感謝だ。普段なら簡単には入れない」

「え?」

 情報漏洩(ろうえい)の恐ろしさに限ったことではないが、何かを実際に体験してみることは経験を深める機会になる。この場合、学生服の彼が実際に体験したことは、刀の青年――桜田と共にここに向かっている情報はどこからか漏れていたということになる。そんな恐ろしい情報漏洩を無視して中から出てきた正装のお姉さんは学生服の彼に話しかける。

「とりあえず中に入って。君、お茶で良いでしょ?」

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