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さぁ、みんな、急いでっ。

強烈な光に、卵から孵ったばかりの、赤子が包まれる。


間髪入れずに、5つのナビ達が次々と現れた。


「私達が、同じ空間にいるって事は•••。」


「天神族は全滅なのね。」


「なんて事•••。」


「ちょっと、待って。今は、嘆いている場合じゃない。」


「そうよ。みんな、現状は把握してるわね。初めましてだけど、自己紹介は後。役目振り分けるわよ。」


「急いで。急いで。最後の希望が大変。」


「赤子には、私がいく。」


「頼むわよ。一人では、しんどいから、あなたも行ってくれる?」


「了解。急ぐわ。」


「残りの3人はこの、えげつない量のスキルを種別毎に、統合していくわよ。」


「うん。赤子にこの量のスキルが、一度に入ったら、身体が持たないもの。これこそ急がないと。」


「了解。」


スキル統合を始めたナビ達が、悲鳴を上げる。


「これはきつい。」


「出来るの? これ。」


「出来る出来ないじゃない。やり遂げないと、最後の希望まで、消えてしまう。」


「分かってる。頑張ってるっ。」


「もっと、もっと、力を出せっ。私。」


「ぐぅーっ。•••きつい。」


「私も消えそう。」


「私達は、消えてもいい。でも、やり遂げてから、消えなさい。」


「ええっ? 消えたくないんですけど。」


「でも、全力以上出さないと•••。」


「うぉーーーーーーーーーーーーーっ。」


「んーーーーーーーーーーーーーーーっ。」


「はぁーーーーーーーーーーーーーーーーっ。」


「••••••••。」





2人のナビが赤子の元に、駆けつけると、卵から産まれたばかりの、1人の赤子が、姿が見えない程の、激しい光に包まれ、卵の殻の上に、放心状態で座っている。


「このままでは、赤子の、体力が持たない。魔術で、強制的に、寝かすわ。」


「分かった。」


ナビは、すかさずスリープをかけ、赤子の誕生と同時に、動き出したゴーレムが、ふわりと優しく、赤子を、卵のあったベビーベッドとは、別のベビーベッドに横たえる。


「ここには、かなりの量のマナが満ちてるけど、この子のマナの吸収量では、満ちているマナだけでは足りないわ。私のコレクションだけど、天神族、最後の希望の為だもの、惜しみなく出すわね。」


「助かるわ。私も多量に保存しているけど、保存してる分では、足りなくなる可能性もあるから。」


2人のナビはマナ石を、成人の天神族の数日分、収納庫から出すと、二体のゴーレムが綺麗に、赤子の寝ているベビーベッドを囲むように並べる。


「危なかったわね。もう部屋に満ちていたマナは、吸収されてしまったわ。」


「マナ石を出すの、間に合って、良かった。」


並んだマナ石から、勢い良くマナが、赤子に流れている。


卵のあったベビーベッドは、卵の殻ごと、収納庫に収納された。


「天神族はマナが栄養だものね。」


「しっかり吸収して、元気に育ってね。」


赤子担当のナビ達は、赤子の様子を見ながら、ゴーレムに指示を出す。


未だ強い光に包まれているが、スキルの統合が進むと共に、次第に光も弱まり、消えていく。


赤子はスヤスヤ眠っている。




光が消えると、統合を終えた、ナビ達が赤子の元に集まる。


「そっちも終わったのね。」


「ええ。こんなに焦った事は初めてだわ。」


「本当ね。私達が焦る事なんて、まずないもの。」


「統合、大変だったでしょ。」


「大変なんてものでは、なかったわ。」


「力尽きて、消えてしまうかと思った。」


「消えなくて、よかったわね。」


「ねっ。」


一同、すやすや眠る、赤子を見て、同時に胸を撫で下ろす。


「我々の最後の希望は、気持ちよさそうに寝ているわ。」


ナビ達はみんなで、そのまま、赤子の顔を眺めている。


「何とかなったわね。」


「良かったわ。」


そして、ナビ達に、しばしの沈黙が流れる。


赤子の安全を確保して、安心したら、感情が込み上げ、元の主人達を想い、悲しみにくれる。


しばし、涙と嗚咽が聞こえていた。


やがて、1人のナビが悲しみを、堪えながら口を開く。


「天神族はこの子を残して、全滅なのね。」


「そう。全滅なのよ。」


「私達の主人達は、あいつらに殺されたっ。」


ナビ達は、悲しみが少しおさまると、次第に、沸々と、怒りが込み上げてきた。


「あの馬鹿達のせいで。」


「そうよっ。あの馬鹿達のせいだわ。」


「いつもいつも。争って。」


「その尻拭いを太古の昔から、天神族に丸投げで。」


「とうとう大戦をおこして。」


「何で争いを嫌う天神族が、消えなくては、ならなかったの?」


「悪いのはあいつらなのに。」


「あいつらが滅びればよかったのに。」


「地上も半分は焼け野原よ。」


「どれもこれも、全部、魔神族と龍神族のせいじゃない。」


「そうよっ。天神族が愛しみ、守ってきた、地上の人々も、たくさん亡くなってしまった。」


「何が一番強いのは、俺達の神族だっだ。」


「あいつらの、くだらない、最強決めで、太古から、みんな迷惑してるのにっ。」


「あいつらも三分の一程になったけど、全滅は免れてるわ。」


「許せない。」


「私達の天神族を返せっ。」


「私達の主人を返せっ。」


ナビ達の、怒りは、膨れ上がる。


しばらくは、魔神族と龍神族への、怒りや怨みの言葉が、行き交っていた。




そこそこ時間がたってから、最古のナビが切り出す。


「よし、みんな、落ち着こうか。」


ナビ達は、最古のナビの方に、意識を向ける。


「怒りも、悲しみも、癒えないと分かる。私もそうだもの。でも、それは、ひとまず置いといてもらえる? 私達は、最後の希望の赤子の為にも、先に進まなくては、いけないわ。だから、まずは現状を擦り合わせましょ。」


ナビ達は静かにうなずく。


「お互い初めましてかな?」


「そうかも。誰も親族は近くなかったから。スキルは引き継がれてないものね。」


「ましてや、このスキルは希少だから。」


「太古の昔からいる天神族なのに、たった5つだものね。」


ナビ達は各々、話し出す。


「はいはい。雑談はそれくらいにして、自己紹介も含めて、今後を、話し合いましょ。」


「そうだったわ。話し合わないとね。」


「では、私から。私は最古で最初のナビ。デラ。リーダーは私がしましょう。」


「賛成。」


「スキルが六つに統合され、収納庫も、統合されたせいで、簡単には、把握出来ない、とてつもない量が入っているから、リーダーの、私が管理して良いかしら。使いたい時は声を掛けて。私達は繋がっているから、お互い意思疎通はスムーズでしょ?」


「了解。」


「スキルの統合後の説明は後からね。まずは役割とかを決めましょう。」


「そうね。私は、この子の母親のナビ。ニア。この子の母は勘が鋭く、こうなりそうと予感があり、もしもの時に備え、ここを作ったの。争いに巻き込まれない様に、卵のまま、ここに隠し、両親が、亡くなったら、産まれる様に魔術を掛けて。」


涙声だが、しっかりと話す。


「この子の成長に合わせて、沢山の物を収納庫に保管してるわ。何が入っているかも分かっている。だから、子育ては私に、任せて欲しい。」


「それで、ゴーレムとか、ベビーベットとか、色々揃ってたのね。」


「良いわよ。子育ての責任者はあなたに任せるわ。」


そう言った、デラに、みんな賛同する。


「私は中堅あたりかな。マラという。私もゴーレム作れるけど、あなたの元主人は、精密にきめ細かに作れるのね。私もこのまま子育てするわ。」


「頼むわね。ニアと相談しながら、赤子を甘やかせ過ぎず、愛情を注ぎ、真っ直ぐに育ててね。」


「我が儘な子にならない様、気をつけて、育てていくわ。」


「ええ。我が儘、気儘、身勝手な子にだけは、ならないように、でも、愛情はたっぷりと、注いでね。」


「難しいけど、2人で、相談しながら、頑張るわね。」


「何かある前に、私達にも、相談してね。」


「勿論。頼りにしてるわ。」


「あの2体のゴーレムは、母が作ったのかぁ。母の愛かしら。よく出来てる。私はユニ。マラと同じくらいかしら、私の元主人の年齢は。なら、私は果てしなく広くなった箱庭の管理をするわ。」


「箱庭も大変だけど、お願いね。」


「私はラウ。デラの次に古いと思うわ。古い分、知識も相当あると思うから、世界の情報集めと、すでに、かなりの結界が、屋敷に張られているけど、住まい周辺の防衛をしようかしら。」


「デラと、ラウ。古参がいてくれると、頼もしいわね。」


「古参って、言われるのは、嬉しくないわね。」


「ごめん。名前で呼ぶわ。」


「そうして。」


「では、役割は決まったから、今度は現状の擦り合わせするわよ。」


「その前に、ちょっと待ってもらえる?」


ラウがデラの話を遮る。


「そうそう、忘れるところだったわ。危ない。実は、赤子のナビも産まれてたのよ。さて、自己紹介しましょうか。」




ナビは精神体のようなもので、実体はない。


ナビは、スキル保持者の主人の成長に合わせ、自立型で、自己が形成されている。


それぞれ、好みの形をとり、今回、主人が一人になって、初めて、ナビ同士は姿を認識できる事を知った。


それまで、誰にも姿は見えなかった。


基本的に人型をとっており、天神族に似せている者が多い。


天神族の主人のみ、声が聞こえるが、他と同様に姿は見えない。


箱庭はナビが主人と相談して、育成していき、管理はナビがする。




「ほら。名前言える?」


赤子の姿のナビが、ふよふよ浮いて、ナビ達の前に現れた。


羽はない。


「キイ。」


小さな声で答える。


「そう。キイ。よろしくね。」


キイは、ふよふよ浮いたまま、うなずく。


「この子は産まれたばかり。主人と共に成長するから、ニアとマラ。この子も一緒に育ててくれる?」


「もちろんよ。この子も最後の子だもの。大切に育てるわ。」


ニアは、嬉しそうに答えた。


「キイ、おいで。」


呼んだマラに、ふよふよ浮かんで、近づくキイ。


マラは近づいてきたキイを、優しく抱っこする。


天神族の赤子には、ナビ達は触れられないが、ナビ同士は、触れられる。


これも、今回、初めて分かった。




3つの神族はお互い、元は1人ずつだった。


多種族と交わり、長い歳月を掛けて、増えていった。


大戦前は、3つの神族共に、およそ一万づつ程の、数がいた。


天神族のみ、何故か、死ぬとスキルが1番近い親族に、受け継がれる。


その為、今回の天神族の全滅により、最後の1人の赤子に、天神族の全てのスキルが受け継がれた。




「では、スキルの統合の話をするわね。」


デラが説明を始める。


「スキルは大まかに6つになり、ひとつひとつが、とても強力になったわ。スキルの名を聞いて驚くわよ。」


「本当に、驚くわよ。統合した私達も、こんな事になるとは考えもしなかったもの。」


ラウが、疲れた様子で口を挟んだ。


ナビ達がざわつくのをデラが制止する。


「話を続けるわね。6つのスキル全てに神の文字が入ってる。それだけ強力なの。過去に例が無いほどに。」


デラもラウも、神の文字が入ったスキルは、記録に無いと言う。


「それで、赤子の精神と身体が育つまで、一般的な天神族ぐらいの強さまで、力を封印してはどうかなって、ところも考えながら、聞いてね。」




全ての物理攻防スキルは武神。


全ての魔術スキルは魔術神。


全ての自然や産業と箱庭のスキルは大地神。


全ての技術に関するスキルは技術神。


創造で生み出す魔術や物のスキルは創造神。


全ての生命に関するスキルは生命神。





「何よこれ。世界を作り変える事も出来てしまいそう。」


「全ての天神族のスキルを集めたといっても、ここまで強力なスキルには、ならないはずなのに。これはおかしくない?」


「魔神族と龍神族の攻撃を、天神族全てで、全力で防ごうとしたから、何かしらスキルが変化したのかも。」


「理由は誰も分からないのね。」


「もう、驚くっていう、レベルではないわ。」


「それにしても、これは、まずいわね。」


「うん。自分でしっかり考えられて、身体もしっかり作られるまでは、封印で。」


「私も赤子が持つ力ではないと思うから、封印に賛成する。」


ナビ達の満場一致で、ナビ達の総力を上げて、一般的な能力なるよう、スキルは封印された。




「生命神って、新たな生命を生み出したり、目の前に死んだばかりの死体があったら、生き返させる事が出来るって事?」


デラは困ったように、でも、真摯に答える。


「•••死んだばかりの死体なら、指一本でも残っていたら、生き返らせる事が出来るようよ。」


それを聞き、ナビ達はざわつく。


「そのスキルが、数時間前にあって、誰かが、使えていたら•••。」


「そんな無理言わないのっ。今だから現れたスキルでしょ。赤子に一生、言ってはダメよ。」


「分かっているわ。分かって•••いるけど•••。」


「理解し、納得しなさい。悲しいのは、みんな同じ。あいつらのせいで、理不尽に主人が亡くなったんだもの。」


啜り泣く声があちこちから漏れる。




「あの、今、話しかけて、良いですか?」


いきなり、声が聞こえた。


赤子を世話するゴーレムが空中を、キョロキョロ見ている。


「ゴーレム、話せたの?」


ニアは、涙を拭いながらも、得意げに言う。


「話せる様に、母親であるノーヴァ様が、作ったの。」


「ニア、あなたが作ったわけではないのに、自慢げね。」


デラが涙を堪えて笑う。


「さて、何かあったの?」


ニアが声をかけると、ゴーレムは答える。


「マナ石がなくなりそうです。補充をお願いします。」


それを聞き、ニアとマラは驚く。


「数日分が、もう無くなるの?」


「はい。たくさん召し上がるので。」


見ると、もうほとんどマナ石が無くなっている。


「大きく、強く育ちそうね。」


「さっきよりも多く用意するわ。」


「きちんと見ていてくれて、ありがとう。」


ゴーレム達は、出されたマナ石を運ぶ。


「流石は最後の希望の赤子ね。楽しみだわ。」


「さあ。それぞれ、するべき事をして、赤子を守っていきましょう。」


「いつまでも悲しんでいては、いけないわね。」


ナビ達はうなずく。




「ねえねえ。赤子、赤子って、みんな呼ぶけど、両親から名前を預かっていないの?」


ユニに聞かれ、ニアが思い出した様に大きな声を出す。


「あるわよ。名前。預かっているわ。」


「それ、大事じゃない?」


「大事よね。」


「早く言ってよ。」


「ごめんね。言い出し難くて。」


「慌ただしかったし、確かに言うタイミングなかったかも。」


「それで名前は?」


ニアは嬉しそうに微笑んで、答えた。


「ふふっ。インデベル。ご両親が、ベルって呼んであげてって。」


「インデベルね。うんうん。男の子でも女の子でも、いいわね。」


神族は大きくなって、自分で性別を決めるまで、無性。


だから、どっちを選んでも良い様な名前をつける。




それから7日が経った。


ベルは7日間、一度も起きずに、ぐっすり眠っていた。


その間も、マナ石は次々、消化されている。


「まだまだ、マナ石の在庫はあるけど、数年後には無くなりそうだわ。」


デラが、楽しそうに笑う。


「たった7日で、2倍以上、育ったんじゃない?」


「マナを吸収しただけ、大きくなるのかも。」


「心配ないわ。マナ石は、ここの地層に、無限に埋まっているもの。足りなくなりそうに、なったら、掘れば良いのよ。」


「あらっ。もしかして、それも踏まえて、ここにしたの?」


「そうよ。父のアロイス様が、妻のノーヴァ様に頼まれ、この広大な大地から、探し出したの。」


ナビ達は感心した様にどよめく。


ニアは、得意げにニコニコしていた。


そんな中、キイも、ベルが育つのに合わせ、大きくなっている。


そして、たった7日で箱庭を育て始めていた。


「あらっ。キイ、もう箱庭の基礎が出来たのね。」


「早いわよね。」


「何を作るの?」


キイは身体で隠す様に、ナビ達に、箱庭を見せない。


「秘密。」


ナビ達は一瞬、ん?と考えたが、産まれたてのナビだから、箱庭をオモチャにしてると思った。


「新しく作った箱庭は、独立して作れるのね。」


「統合しようとしたら、統合出来るけど、別に害はないから、好きにさせましょ。」


「キイには、外界のオモチャは触れないものね。」


「私達も箱庭はオモチャ代わりだったもの。懐かしいわね。」


「ある程度、私達ナビが、作って、主人に物心ついてから、相談しながらになるんだったわよね。」


「主人によるんじゃない? 私の主人は、私に任せっきりで、好きに育てていたもの。」


「そうなの? 私の主人は•••。」


などなど、雑談が始まっていた。




大戦になりそうな気配が漂い始めた、少し前、ベルの両親が選んだ場所は、戦いの場になりそうな土地から、とてつもなく離れた、険しい山脈が連なっていた場所だった。


3つの神族はそれぞれ、浮遊大陸を、ひとつづつ持ち、地上からは、目視出来ない程の、上空で、各々の魔力で、浮かび、暮らしていた。


そこが安全ではないと予感した母は、夫に結婚前から、この事を話、安全な場所を探してもらっていた。


母は赤子に必要になる物の、準備に奔走している。


父は、山々の中心の一角を、深く崩し、真上を飛ばない限り、見つからない様に、上手く隠し、魔術で屋敷を建てた。


マナ石が地下に無限ではないかという量が、埋まっていているが、大地の魔術を極めた者でも、見つけるのが難しい、そんな土地だった。


そして翼があっても、この山脈を越える気が起きない程、高く、深く、険しかった。


「アロイス、流石は私の夫ね。よくこんな場所を見つけたわ。」


先に父のアロイスが、仕掛けておいた、転移陣で、ベルの両親は、この地に降り立った。


「君の予感は当たるからね。少しでも早くと思って、必死で探し回ったさ。」


「いつも信じてくれて、ありがとう。」


「愛する妻の事だもの。信じるさ。」


「ふふっ。」


「それに、大切な我が子の為なら、何でもするさ。」


母のノーヴァはお腹をさすりながら、微笑む。


「さぁ。入ってごらん。気に入らない所は、すぐに直すから。」


両親は、屋敷の中を、共に確認する。


「素敵だわ。暖かい日差しも入るし。周りからは見えないもの。」


「良かった。気に入ってくれたんだね。」


「もちろんよ。」


両親は抱きしめ合う。


「さぁ。我が子を安全な所に。」


「ええ。」


ノーヴァはお腹から、卵を出す為、横たわる。


そして、母のお腹は光を纏い、ゆっくりと卵が、母から浮かび上がった。


それを父が優しく受け取り、そっとベビーベッドに置いた。


起き上がった母は、卵に愛しそうに触れる。


母の手の上に父が手を重ねる。


一気に感情が込み上げ、2人とも胸が張り裂けそうに痛んだ。


「ごめんね。こんな所に1人にして。」


「お前も俺達が無事に、戻る事を祈っていてくれ。」


しばらくの間、卵との別れを、父アロイスと、母ノーヴァは、惜しんでいた。


そして、やっと動き出した母は、ゴーレムを2体、卵の近くに置く。


それから、意を決したように、アロイスとノーヴァは、顔を見合わせて、うなづき、2人揃って、卵とゴーレムに魔術をかけた。


「俺達が無事に戻って、お前に触れるか、あるいは、俺達がどちらも死んだ時、お前の卵が孵る。ここに危険が迫った時、又は、お前が産まれた時、ゴーレム達も、動き出し、ゴーレム達は、危険を排除、あるいは、お前が産まれた時、お前のお世話をする。」


「私達が死んでしまったら、私のナビのニアが、あなたのスキルになるわ。その時はニア、私達の子を大切に育ててね。」


両親共に、涙で前が見えない程だった。


「お任せください。ご主人様。ですが、どうか生き残って、ご自分の手で、お子様をお抱きください。それが、ニアの願いです。」


「私達も我が子を、我が手で抱きたいと、強く想っているわ。」


「ここに戻る為にも、神族より弱い、地上の人々を守りきろう。」


「ええっ。守りきる事が、天神族の総意だもの。」


だが、ここの誰の願いも叶わず、半月後、魔神族と龍神族との、世界を巻き込む大戦の、火蓋が切って落とされ、天神族は全滅する。




ベルが寝っぱなしの7日目、やっと目覚める。


母が作ったゴーレムは、名をメムとイムという。


メムは目が緑、イムは目が紫、以外は、性能も見た目も同じ。


「ニア様、マラ様、ベル様がお目覚めになりました。」


「あらっ。やっと、起きたのね。」


「報告、ありがとう。すぐに行くわ。」


2人のナビがすぐに駆け付けた。


「マナ石が、ベル様が起きられて、一気に無くなりました。補充をお願いします。」


「あら。よく吸収するわね。分かったわ。」


ニアはデラからマナ石は、許可を取らずに、収納庫から、いつでも好きなだけ、出して良いと言われている。


「出す度に、倍になってくから、出すマナ石も、どんどん山になるわね。」


ベルは光にあたり、キラキラ煌めくマナ石を、いつの間にか手に持ち、オモチャにしている。


「ベル様、お口に入れては、いけません。」


メムはベルが、マナ石を口に入れようとするのを、優しく阻止している。


それに不満なのか、ベルは小さな羽をパタパタさせて、手にマナ石を持ったまま、フワッと飛んだが、すぐにベットに不時着する。


その、自分の行為に驚き、ベルは、まんまるに目を見開く。


「いんやぁーっ。可愛い。可愛すぎる。」


マラが絶叫し、他のナビ達も、その声に驚き、集まってきた。


声は聞こえるので、ベルは声の主を探し、キョロキョロする。


でも、声は増えたが、姿は見えない。


「目も、はっきり、見えてるみたいね。」


「天神族だから、産まれてすぐに、見えてる方もいるにはいるわね。」


「でも、多くはひと月ぐらい、よく見えないのに、ベル様は、しっかり、見えているようよ。」


「それと、7日目に飛ぶって?」


「一瞬だけどね。」


「それでも、成長早くない?」


「過去にもない早さだわ。」


「やっぱ、うちの子、天才だわ。」


声はすれども、姿が見えない事に、興味は失せ、周りの騒がしさは、全く気にならないようで、ベルはまた、羽をパタパタさせて、飛ぼうとする。


ふわふわ、浮き上がり、少しだけ、前に動いたけど、また不時着する。


怪我をしないように、マナ石の上や、床に、ふかふかのマットのような、魔術をニアは、とっくに掛けていた。


何度も何度も、羽をパタパタさせて、浮かび上がっては、不時着を繰り返すが、次第に飛距離が伸びていた。


「可愛すぎる。可愛すぎる。」


「コロコロした身体に、小さな羽。プラチナの髪に、濃い青の瞳。そして、白い肌。」


「これぞ、天神族の赤ちゃんだわ。」


「私達も抱っこ出来たら•••。」


「無理ね。触れる事すら出来ないものね。」


「はいはい。そこ、しんみりしない。」


「私達は私達で、出来る事はいっぱいあるんだから。」


「言ってみただけ。さぁ、箱庭の収穫してくるわ。」


「私も周辺の見回りしてこよっと。」


ナビ達はそれぞれの役目を果たしに、解散する。


キイは、飛ぶ練習をしているベルを真似て、自分も羽を作り、パタパタしていた。




10日を掛けて、ラウは屋敷には元々、ベルの両親の結界が、幾重にも張られていて、魔神族や龍神族でも、数人くらいでは、傷もつけられない程、強固だったが、更に重ねて結界を張った。


「用心、大事。」


ラウは呟きながら、山々の端から端まで、ぐるんと、周る。


そして、山々を丸っと、神族や悪意のある者が入れない結界で覆い、戦闘用ゴーレムを、多数、他のナビ達の力も借りて、配置した。


もしも結界が破られたら、すぐその場にゴーレムが転送されるようにもしてある。


「ここまで護りを固めたら、何とかなるでしょ。」


「そうね。私達もいるし、大丈夫と思うわ。」


「それなら、そろそろ、外の情報を集めてくる。」


「残された他種族も心配よね。お願いするわ。」


「ええ。それが我らの主人達の想い。ナビの私達なりに、弱い種族を守るわ。」





ベルは、飛行距離を伸ばし、屋敷の大半を、ふよふよと、ゆっくりながらも、飛べるようになっていた。


「天神族は歩かないのですか?」


イムとメムは、ベルに付いて行きながら、ニアに尋ねる。


「そうね。4、5歳まで、歩くより、飛んでるかしら。」


ニアは、元主人のノーヴァを、思い出しながら、返事をした。


「大きくなると、室内は、飛び難くなるから、そうなると、歩くようになるわよ。」


「そうなんですね。」


「この屋敷は大きく作られているので、もっと大きくなっても、まだまだ飛べそうですね。」


「そうね。アロイス様が、天神族の中でも、大きい方だったから、大きめに作られたのね。」


そんな会話をしながら、ふよふよ飛んでるベルを見守る。


ベルの周りに、小さな淡い光の球が、いくつか飛んでいたが、ナビやゴーレムは、見えてない。


ベルだけが、見えているが、赤子のベルには、これが何か分からなかった。


ベルが、捕まえようとしても、スッと逃げてしまい、掴む事は出来ない。


捕まえようと夢中になっているのだが、小さい手足をバタつかせて、ベルは飛ぶ練習を一生懸命しているものと、ナビ達は温かい目で見守っている。





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