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第20話 評価されない成果

 朝の会議。

 いつものように、数字が並ぶ。

 ホワイトボードに書かれた名前と売上。

 誠の欄は——

 小さい。

 ほとんど、動いていないように見える。

「高城」

 黒田の声。

「はい」

「坂口ともう一件は評価する」

 一瞬、空気が緩む。

 だが——

「だが、それ以降が続いていない」

 すぐに締まる。

「はい」

 誠は短く答える。

「最近の案件は?」

 黒田が資料を見る。

「……テスト導入ばかりだな」

「はい」

「で、いくらだ」

 誠は答える。

「ほぼゼロです」

 数秒の沈黙。

「……遊びか?」

 低い声。

 誠は視線を逸らさない。

「違います」

「じゃあ何だ」

 一拍。

 誠は言った。

「次に繋げています」

 周囲がざわつく。

 黒田は表情を変えない。

「数字にならない“繋がり”に意味はあるのか?」

 その問いは、真っ直ぐだ。

 誠は、ほんの一瞬だけ考えた。

 そして——

「あります」

 はっきりと言った。

 黒田は少しだけ目を細める。

「説明しろ」


「小さく導入して、現場で効果を出します」

 誠は続ける。

「その上で、横展開に繋げます」

「理屈は分かる」

 黒田は言う。

「だが時間がかかる」

「はい」

「その間の数字はどうする」

 誠は答えない。

 答えがないからではない。

 今のやり方では——

「埋めきれない」

 分かっているからだ。

 黒田は短く言った。

「以上だ」

 会議は次に進む。


 席に戻る。

 田辺が小さく声をかけてくる。

「キツいな」

 誠は苦笑する。

「まあな」

「でもさ」

 田辺は少し声を落とす。

「やってること自体は、悪くないと思うけどな」

 誠は少しだけ驚いた顔をした。

「珍しいな」

「俺だって見る目あるよ」

 田辺は肩をすくめる。

「ただ——」

 一拍。

「遅い」

 その一言は、的確だった。

 誠は頷く。

「分かってる」


 午後。

 顧客先。

 先日の“小さな勝ち”の現場。

 作業は、明らかにスムーズになっている。

 誠が近づくと、作業員が言う。

「前より楽っすね」

「無駄な動き減った」

「ミスも減ったし」

 その言葉を聞きながら、誠は小さく頷く。

「……いいですね」

 担当者も資料を見ながら言う。

「数字も出てます」

 改善効果は、はっきりしている。

 だが——

 誠はその先を見ていた。

「この状態で、次に進めますか」

 担当者は少し考える。

「他の工程でも試したいですね」

 来た。

 誠は静かに頷く。

「その場合、少し調整が必要です」

「調整?」

「はい」

 誠は説明する。

「今のやり方を、そのまま他に当てはめると合わない部分が出ます」

 担当者は頷く。

「確かに」

「現場ごとに、少し作りを変えます」

 その言葉に、担当者が言う。

「結構手間じゃないですか?」

 誠は少しだけ笑った。

「だから最初に見てます」

 一拍。

「合わないものを、そのまま入れても意味がないので」

 担当者は納得したように頷いた。


 帰り道。

 車の中。

 誠はハンドルを握りながら考えていた。

「……やってることは間違ってない」

 現場は変わっている。

 顧客は納得している。

 次にも繋がっている。

 だが——

「数字が遅い」

 その現実は変わらない。


 夕方。

 デスク。

 画面を見る。

 売上欄は、相変わらず静かだ。

 その横で、案件のステータスだけが動いている。

「検討中」

「試験導入」

「追加予定」

「……積み上がってはいる」

 小さく呟く。

 だが、それはまだ“見えない数字”だ。


 そのとき、内線が鳴る。

「はい」

『高城か』

 開発部の声。

「はい」

『この前のやつ、仕様送ってくれたよな』

「ああ、はい」

『あれ、ちょっと作り変える必要ある』

 誠は頷く。

「やっぱりそうですか」

『現場の動きに合わせるなら、このままじゃ無理だ』

「どれくらいかかります?」

『急げば来週中』

 誠は少しだけ息を吐く。

「分かりました。お願いします」

 電話を切る。

「……やっぱりな」

 小さく呟く。

 現場は一つとして同じではない。

 だから——

 そのままでは使えない。

「だから、見てる」

 自分のやり方が、間違っていないことだけは分かる。


 夜。

 帰宅。

「ただいま」

「おかえり」

 由紀が振り向く。

「今日は?」

 誠は少しだけ考える。

 そして言った。

「評価されなかったな」

 由紀は少し笑う。

「正直だね」

「まあな」

 靴を脱ぎながら続ける。

「やってることは間違ってないと思うんだけどな」

 由紀は少しだけ間を置く。

「でも、会社は数字で見るんでしょ?」

 誠は頷く。

「そうだな」

「じゃあ」

 由紀は言う。

「数字になるまで続けるしかないね」

 シンプルな言葉。

 だが、核心だった。

 誠は小さく笑った。

「だな」


 その夜。

 机に向かう。

 ノートを開く。

 型の下に、新しく書き足す。


 弱点:時間がかかる


 誠はその言葉を見つめた。

「……ここだな」

 次に越えるべき壁。

 やり方は見えた。

 だが、それだけでは足りない。

「回せる形にする」

 小さく呟く。

 勝つだけじゃない。

 勝ち続ける。

 そのために、何が足りないか。

 誠はペンを握ったまま、しばらく動かなかった。

 答えは、まだ出ていない。

 だが——

 探すしかない。

 このやり方を、証明するために。

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