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81話 遊び相手

 語り終えたニアは黙って、感情を抑えるように俯く。どちらも何も言わない。アザミが気まずそうに髪を触る。セラにすべてを教えたのがニアで、何の希望も持っていなかったセラを外へ連れ出そうだなんてかなわない幻想を抱かせてしまったのがアザミ。


(クソッ、、期待されたって、俺に何が出来るんだよ――!)


 あの笑顔を、嘘にしたくない。“あいつ”が願ったことなら、何でも叶えてやりたい。だって、“あいつ”は幸せになるべきだから……


 日が昇り、気温が上がる。暖かな風が二人の間の凍りついた時を溶かす。


「……そろそろ、屋敷に戻りましょう。朝ごはんの時間でございます」


 顔を上げたニアがいつもの調子で淡々と告げる。まるで、さっきのことは全て無かった、夢だったと言わんばかりに。


「そうだな......。そろそろ、時間だな」


*****************************


 翌日もアザミは森にいた。「明日も来る」と、セラとかわした約束を守るために。

 カランカラン、と鈴の音を鳴らしドアを開く。


「今日も来たぞ、セラ」


「……ありがと、アザミ。あたしも嬉しいッ!」


 セラがパァッと表情を輝かせてアザミに飛びつく。ズイッと押し込まれることを想像していたアザミは、そこそこの年齢の女の子とは思えないほど軽い体に、逆に面食らう。


「おっと、、ちゃんと毎日食べているか......? ムリなダイエットは体調不良の元だぞ、、」


「失礼ね。ほら、今朝もニアが作ってくれた朝ごはんを食べたわ」


 プクゥと頬を膨らませたセラがキッチンを指差す。除いてみると鍋の中には手のつけられていないシチューが入っている。


「……食べてないじゃないか」


「そ! それはお昼ごはんよ! 温めて食べるの〜!!」


――お昼ごはん、か。


 アザミがキョロキョロと部屋の中を見渡す。セラが不思議そうにアザミに尋ねる。


「……? 何を探しているの?」


「いや、この部屋には時計がないんだな。窓の外もたかい木々が邪魔で日は見えないし。時間がわからないのって不便じゃないか?」


「ん〜、、困ったことは特に無いわね。だって、明るくなったら起きて、暗くなったら寝るだけだもの。お腹が空いたらご飯食べて、暇になったらこの子達と話すの」


「……そうやって、ずっと1人でこの森で暮らしてきたのか?」


「そうよ。でも今はひとりじゃないわ。ニアが、アザミが、あの子達がいるもん」


 セラが持っている宝物を自慢する子供のように純粋な目でニヒヒと笑う。


「……“あの子達”? 他にもここに来る人がいるのか?」


「うん。今日もお昼前に遊びに来るって言ってて――、あ! 来たみたいよ、、」


 ドアの付近で精霊が来訪者を教えるようにぴょんぴょんと飛び跳ねていた。


(セラの友達......か。まさかこの森にセラ以外に住んでいる者がいるとはな)


 そんな事を思いながらドアの方に意識を向ける。ギギッとゆっくりドアが開く。


「やっほ〜セラちゃん! 遊びにきた……ってあれ? ひるまのお兄さんじゃん!」


「オーガス、だっけか? どうしてココに――」


 ドアを開けてうおーー!! と駆け込んでくるオーガスに驚くアザミ。オーガスの後ろから他の4人も続々と姿を見せる。


「あ、アザミさん! アザミさんもセラちゃんとお友達だったんですね! もしかして、ニアさん繋がりですか?」


「イリスはニアを知っているのか?」


「ええ、もちろんです! セラちゃんから何度も話は聞いてるし、朝早くにココに遊びに来たらたまーに会えるんです! 最近会ってないから久しぶりに会いたいな〜」


 イリスがエヘヘと懐かしむように笑う。


(なるほど、だからあの時ニアはどこかに隠れていたんだな。こいつら5人と出会ったら森に通っていることとかセラのこととかバレかねないから……)


 買い物のためにティリプス村を訪れたときのことを思い出す。5人が走り去った後にニアがひょっこり現れたこと。


「それにしてもビックリしましたよ。だってアザミさんがセラちゃんの家にいるなんて思わないじゃないっすか」


 アーシュが少しテンションの上がった様子でぐいっと迫ってくる。アザミがそれを「近い近い」となだめながら、


「それよりアーシュたちはどうしてここに? セラに呼ばれたってことか?」


「セラちゃんに? いやいや、俺らが遊びに来ただけっすよ。あれは2年くらい前になるのかな……」


 そう言ってアーシュが椅子に腰掛けボロボロになったぬいぐるみをギュッと抱きしめているセラと、それにガンガン絡みに行く元気な弟オーガスを懐かしそうに見つめる。


「初めは度胸試しだったんです。大人たちは祟りとか言って悪魔の森ラット・アイア・ファレスに近づかないけど、それって本当なの? って」


「そして私とアーシュ。ウッド、エリー、オーガスの5人で森に入ったんです。そしたら途中でオーガスだけはぐれちゃって……」


 イリスがハハッと苦笑する。


「ほら、この森って入った人は二度と戻らないとか言うじゃないっすか。だから当時の俺らは『本当に祟りはあったんだ!』って大騒ぎになっちゃって……」


「結局4人で探し回ってオーガスは見つけられたんですけどね。その時オーガスを発見したのがこの家なんです。あの子、この家の中でぐっすり寝ちゃってて。そのときにセラちゃんと初めて会ったんです。あの時はあのソファーの後ろでブルブル震えながら隠れてたのに、ね……!」


 オーガスに絡まれながらも笑顔を見せるセラに、イリスは感慨深そうに微笑む。


「……ところでアザミさんはこの島に来たのは初めてじゃなかったんすね。この島に来る客なんて珍しいから結構覚えてるつもりだったんすけど、、」


 アーシュが照れくさそうに頭をかく。アザミはその言葉に「え?」と困惑した様子で聞き返す。


「以前? いや、俺はこの島に来たばかり......というか初めて来たんだが......?」


 その言葉に「え? 嘘!?」と2人が驚いた様子を見せる。アザミは2人の驚きの理由がわからず、より一層混迷を極める困惑に「え......? え?」と何度も首をかしげる。


「……いや、ありえないっすよ。だって、それが本当なら、アザミさんはセラちゃんと2日3日そこらで仲を深めたっていうんすか?」


「2日3日......まあ、セラと初めてであったのは昨日だがな」


 “昨日”という言葉にイリスが「信じられない......!」と両手で口を覆う。


「何だって言うんだ? そんなに変なことじゃないだろ?」


 アザミの言葉に2人が「いやいや!」と手を胸の前でブンブンと横に扇ぐ。


「イリスが言ったっすよね? 『セラちゃんと初めて会った時、あのソファーの後ろでブルブル震えながら隠れてた』って。俺らだって、俺らがあの子と話せるようになったのは3ヶ月後ぐらいっすよ!? 外で一緒に遊べるようになったのもつい数ヶ月前だし……」


 アーシュが矢継ぎ早に言葉を繰り出す。アザミはそれを聞いてようやくニアの言っていた言葉の意味を理解する。


――あの子の、貴方に対する反応も異常ですが、、


 それはセラがアザミに対して異常な早さで距離を詰めたことに対するものだった。食事を作り物を教え、身の回りの世話をしたニアでさえ1ヶ月。寂しがっていたセラと一緒に遊ぶ相手になってあげていた5人で3ヶ月、かかっているのだ。“セラから話しかけられる”ことに。そうなれば“ただ森に迷い込んだだけ”のアザミが初日からセラと仲良く会話ができるなど、到底信じられないことだろう。


 だって、ニアにとっても5人にとっても“セラ”という少女は引っ込み思案で人見知りの激しい女の子なのだから。


 アザミは自分の描いていた“ちょっぴり大人ぶって、でも時々子供っぽい女の子”という認識が他と絶対的にズレていたことに衝撃を覚える。


――なあ、セラ。君から見た俺はどういう存在なんだ......


 オーガスに手を引かれ外に駆け出していくセラにアザミはなんだか心がひんやりとするのを感じた

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