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80話(2) 変えてしまったミライ

語り回

――ミレディ島に来てしばらくしたある日、ニアは惹かれるように森に立ち入った。そこにある種、懐かしさを感じたのかもしれない。


「……何かに惹かれるがまま歩き続けると森が開き、ニアの目の前に木の家が現れました」


――ガチャ。と、ドアを開ける。「……」そこの住人は何も言わず、ただ無言で来訪者(ニア)を見つめていた。


「……中にいたのは、セラ。黒い髪はボサボサで、白い服は所々黄ばんでいました」


――「私、は、セラ」と、少女はたどたどしく自己紹介をした。頭がついてこなくてボーッとしていると、『あなたは誰?』と、ニアの頭の中で声が響く。それが、耳元で精霊が囁いたものだと気づくのに多少時間が掛かった。ぽわ〜と光ってふわふわしている精霊。数十年前に滅んだはずの精霊がなんでこの島にいるのだろうか......。ニアが指を伸ばすとその先にパチッと精霊が留まる。


「……初めて出会った日から1ヶ月、毎朝通いました。セラは服を一着しか持っていなかったので私がいくつか作りました。髪の毛はボサボサで傷んでいたので、ブラッシングや手入れ方法を教えました」


――出会ってから1ヶ月で、セラは随分と変わった。今でも時折ボーッとして、寂しそうに窓の外を見ている時はあるが、ニアの問いかけに対して少し流暢に返してくれるようになった。最初は怖がって手を付けようとしなかったニアのご飯も、食べてくれるようになった。


「……そして、1ヶ月経ったある日、セラが初めてニアに話しかけてくれたんです。『にあのかみ、きれい。せらも、やりたい』って」


――嬉しかった。この髪型はニアが小さい頃、お母さんに教えてもらった髪型だった。それを繋いでいける。なんだか自分の成長を感じて心がポカポカした。不器用なセラは慣れてないこともあってか、始めの頃はツインテールですらままならなかった。それでも1ヶ月、必死で練習して、練習して、練習して。ようやく左右均等な長さできっちりと髪を結べるようになった。その日、ニアが初めて笑った。嬉しそうに、そして恥ずかしそうにはにかんで。


「……セラが初めて1人で髪を結べるようになった日、私の帰り際にあの子はニアに言ってくれました。『また、あしたもきてね』と。それがどれほど嬉しかったか......」


――何年も、経った。セラはニアと同じ髪型を出来るようになっていた。初めて出会ったときセラの家にあったのは本が1冊だけだったので、絵本をいくつかプレゼントしていた。それを読んでセラが『あたし、これが着てみたい!』と、言ってくれたミニスカートのワンピース。それを随分気に入ったのかかなりの頻度で着ている。そしてオシャレを覚えてから、セラは『ふふ〜ん』と鼻歌を歌いながら嬉しそうに鏡を見ることが増えた。ホコリを被って何も映さなかった鏡は今、セラの笑顔を映していた。


「……セラは、ニアが教えたことを次々に吸収していきました」


――セラに笑うことを教えたのは、


「……ニアです」


――セラに本を読ませ、文字・言葉・外の世界についてを教えたのは、


「……ニアです」


――風邪で数日会いに行けなかったとき、回復してしばらくぶりに家を訪れたニアに『寂しかった!』と言ってくれるような感情を教えたのは、


「……これも、ニアです」


――今のセラを形作るものはほとんど、ニアが教えたこと。ただ、ずっと帰ってこないものを待ち続けるセラに“明日”を教えたのが、


「……ニアで――」


――閉じこもっていたセカイから外の世界へ、叶わぬ一歩を後押ししたのが、



「……貴方です。アザミ・ミラヴァード......」


 

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