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58話 魔王会議

 魔界の深淵部にそびえ立つ漆黒の城、魔王城。

 その廊下を、リコリスは歩いていた。黒に映える真っ白なシャツに青のリボン。フリルのついた黒いプリーツスカートとソックス。軽く巻かれたツインテールを揺らしながら歩くその後ろ姿は、さながらお嬢様で、まさか魔王だとは誰も思わないだろう。


「……どうしてついてくるのさ」


「ご冗談でしょう、お嬢様。今どこに向かっているのか、お忘れになったのですか?」


 リコリスの半歩後ろを歩いているゼントが呆れたように言う。


「魔王会議、、だろ?  ああ、そうか。君も"魔王"だったな。私の支配が届かない存在だからつい、失念してたよ〜」


「つい、ですか……。まあ、いいでしょう。七罪の使徒全員が集うのは何年ぶりでしたかな?」


「ざっと30年ぶりくらいじゃないか? そう考えると私たちってあまり付き合いがないんだな」


 リコリスが大きな扉の前で立ち止まる。ほかの扉とは一味違う、装飾も雰囲気もどこか厳かな扉。リコリスがドアに取り付けられた輪っかを引く。ギギギギ……と軋んだ音がして扉が開く。


「お、どうやらみんなお揃いのようだ」


 リコリスが部屋の中、中央の円卓を囲む5人を見渡して笑う。


「遅い。時間無い。早く」


 真っ白な髪を頭の上でひとつに結んだ男が机をトントンと叩く。


「ふん、相変わらず面倒くさがり屋な野郎だな。怠惰(イドレイ)


「五月蝿い、傲慢(フィアロ)。面倒い嫌い」


「悪いね、遅れてしまって。いやー、でもみんな元気そうで安心したよ」


 リコリスがイライラするイドレイと鏡を見て前髪を直している、キラキラと光る豪勢なスーツを着た銀髪の少年、フィアロの間に座る。


「元気そうって、、君、本気で言ってるのかい? 強欲(リコリス)


「それは、、どういう意味かな? 色欲(ティアミル)


 リコリスの向かいに座る、少女。いや、男女どちらにもとれる、中性的な見た目をしたティアミルがクスッと笑う。


「だって、ティア達って仲良くないでしょ? 同じお父様から生まれたのに」


「どうでもいいけどぉ、おなかすいてきたから早く終わって欲しぃやよ……」


 リコリスとティアミルの険悪なムードのなか、7人の中で最も小さいにも関わらず、その身長に見合わないブカブカのマントを羽織り、頭に王冠を載せた女の子がぐでーっと机に突っ伏す。


「全く、君は年中それしか言っていないじゃないか。暴食(エナ)


 フィアロが呆れたような目でエナを見つめる。


「いぃぃじゃないですかぁ? ワタクシはとぉっても羨ましぃぃデスヨ。 エナ、あなたはどれだけ食べても太らぁないデスもんね」


「んー、、ウチは少食でだいじょーぶな嫉妬(アイヴィージェ)の方が羨ましいやよ?」


 エナが机に突っ伏したま顔だけを傾け、7人の中で最も身長の高い、細身で長髪。真紅のローブにジャラジャラと鎖を巻き付けている男をじっと見る。


「そぉの! その謙虚、謙虚、謙虚! なところも羨ますぃぃぃぃいい!!」


「黙れ。アヴィ。邪魔」


「僕をあまりイラつかせないでくれよ、アヴィ」


 長い手を大きく広げるアイヴィージェ。そんな魔王たちの様子を黙ってみていたゼントがついに机をドン! と叩く。シーン、と静まり返る部屋。


「いつまで、続けますかな? 今日集まってもらった理由をお忘れか、リコリス嬢」


「ごめんごめん、、怒らないでよ。そう、今日七罪の使徒である皆を集めたのは、聞いて欲しいことがあるからだ」


 リコリスの言葉に全員の注目が集まる。それを見渡し、リコリスがゆっくりと口を開く。


「我らが敬愛なる父君、始祖の魔王シスル様が人界に転生している」


「な、んだと!? 父上様が、人界に、だと……」


「まじぃ? パパが生きとるの?」


「転生、転生、TENSEI! うぅらぁやぁまぁすぃぃぃぃぃ!! デス!!」


「信じられない。急な話。根拠は?」


「ティアも簡単には信じられない話だね。リコちゃんは見た?」 


 魔王たちはそれぞれの反応を見せる。


「見たよ。しかも会った。私は、、父君の顔を知らないから分からないんだけどさ、あの“魔眼”。あれは本物だった。黒い髪にちょっと赤い線が入ってて、目付きが鋭い――」


「その特徴はシスル様ですな。転生されておったのですか......」


 ゼントが何か懐かしむような、喜ぶような、悲しむような目をする。

 テーブルをしばしの沈黙が支配する。それを破ったのはフィアロだった。


「……許せない話だ、な。シスルが人界でのうのうと暮らしているなんて、、」


「フィアロ? お前らしくない」


「パパをわるくいっちゃだめやよ?」


 フィアロが「ガタッ!」と椅子を倒して立ち上がる。


「――考えてみたまえ! 僕達が必死で、魔界を守るために尽力しているときにアイツは......アイツは敵である人界の民と仲良く暮らしているのだぞ!?」


「で、でも......ティアたちに黙って人界に潜入してくださっているのかもしれないし、、真意が読めない以上は批判すべきじゃ――」


「そぉぉぉおデス! 喧嘩はいけませぇぇん! ワタクシたちはほとんどが同じ始祖の魔王から生まれた、、いぃぃえぇ。魔王シスル様の聖遺物を用いて錬成された特殊生命体(ミュータント)なぁぁのデスから!! ビバ! きょぉぉだい!」


「うるさいぞ魔王の腕(アイヴィージェ)。何が兄弟だ。僕を君たちと一緒にしないでもらいたいね!」


 フィアロがアイヴィージェにコップを投げつける。だが、コップはぶつかったり割れたりすること無く、空中でピタッと止まる。


「やめろ、ふたりとも」


「……チッ、リコリス、、邪魔をしないでもらえないかな。 君はシスルが生きていて嬉しいのだろう?」


「ああ、とぉっても嬉しかったね。 だって、私の手で父君を殺せるんだからぁ......」


「……ッ、サディ女め、、。……まあいい。伝えたいことはそれだけかい? じゃあ、僕はもう行くよ」


「――どこへ、行くのですかな?」


「決まってるだろ、ゼント。シスルをぶっ殺しに行くのさ――」


「だめだ」


 ニヤリと笑うフィアロをリコリスが冷たい目で睨みつける。


「……どうしてだ、リコリス。最強の使徒、魔王の心臓であるこの僕が直々に出向いてやると言っているのだぞ? アイツを――」


「ダメだと言っているだろ? 少し、“ダマレ”」


 リコリスの言葉に場がシーン、、と凍りつく。誰も、動かない。クッ、と悔しそうな顔を浮かべながら、誰も動けない。


「あまり、私を怒らせないでくれよ、傲慢(フィアロ)。私の“支配”から逃れられないくせに最強? 笑えるねぇ」


 リコリスが立ち上がり、固まっているフィアロの頬をペチッと叩く。


傲慢(フィアロ)。他人よりも美しくありたいという欲望! 故に、『強欲』。嫉妬(アイヴィージェ)。他人を羨み、欲する欲望。故に、『強欲』! 色欲(ティアミル)。異性を望む欲望。故に、『強欲』! 怠惰(イドレイ)。怠けたい、楽をしたいという欲望。故に、『強欲』! 暴食(エナ)。満ち足りず、喰らい続けたいという欲望。故に! 『強欲』。 そう、全ての罪は我が『強欲』に帰結する。だから、最強! 我が名は強欲(リコリス)。全てを支配する、最強の魔王だ……。分かったかい? 弟妹たち――!」


 静かな部屋の中央でリコリスが「ハッハッハ!!」と高笑いする。


「――あまり、、行儀の良いことではありませんぞ、お嬢様......」


「ああ、そうか。お前は私の強欲に支配されない唯一の罪だったな。憤怒(ゼント)


 立ち上がった憤怒(ゼント)を一瞥する。

 ゼントの目を見て、リコリスが「分かったよ〜」と諦めたように肩をすくめ、指を「パチンッ!」と鳴らす。


「……クッ、はぁ、はぁ……。化け物、め......」


「うう、、おなか、すいた……」


「これにこりたらもう二度と私に逆らわないこと。分かった?」


 リコリスがフィアロの額をトンっと小突く。


「……リコリスさぁま。ちょっぉぉっと、いーーですかぁ?」


「どうした、アイヴィージェ」


 他の魔王たちが苦しそうにしている中、アイヴィージェは嬉々としていた。


「ワタクシ、シスル様が気になりまぁした! 直接お会いしてきてもいーーデスかぁぁ?」


「……さっきの話、聞いてた? 私は自分の手で父君を――」


「もちろぉん! シスル様に手は出しませぇんよぉぉ。殺すなんてもぉぉてのほかデス。……ただ、ただ、ワタクシは気になるのデス! 羨ましいのデス! 貴方の、リコリス様にそこまで想われるシスル様がぁぁぁ!! だ か ら! ワタクシはシスル様に会いたい、会いたい、会いたい! 欲しい、シスル様の全てが羨まスィィィィィい!!!! のデス!!!!!!!!!!!!!!」


 アイヴィージェの大声が部屋に響く。

 リコリスが呆然と、アイヴィージェを見つめる。が、フッと笑みをこぼし頷く。


「いいよ、分かった。そうだよね。嫉妬、だもんね。私の強欲に最も近い感情、“嫉妬”。殺さないって約束するなら、行ってもいいよ、人界に」


「感謝しますデスよ。リコリス様。ではぁ、ワタクシは準備をすぃてまいるぃますデス!!」


 アイヴィージェが嬉しそうに肩を揺らしながら部屋を出る。


「僕も、帰ろうか。リコリス、君の支配はもう効かない。覚悟すると――」


「昏倒しろ」


 バタン! とフィアロの体が後ろに倒れる。


「……ふぃあろ、たべてもいいかな?」


「エナ。ヤメロ。そいつは。不味いぞ」


 そんな魔王たちの様子を微笑ましそうに見つめたのち、踵を返してドアを開け、リコリスも部屋をあとにする。


「……いいのですか? アイヴィージェを人界に送り込むなど、、」


「別にいいでしょ。私は最終的に父君をこの手で殺せればそれでいいのよ。そのためにも、人界支配の足がかりになるでしょ? アヴィは」


「ですが、お嬢様。アレはおそらく……」


「分かってるよ、ゼント。アイツはもう限界だ。だから許可したんだよ」


「それならいいですが、、」


 リコリスがゼントを従えたまま廊下の奥の闇に消えていく。










七罪の使徒豆知識《身長》

アイヴィージェ > ゼント > イドレイ > ティアミル > リコリス > フィアロ >>>> エナ


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