39話 思いがけない出会い
「おぉ!! この服いいかも!」
エイドが店の前に飾れられた白のスカートを手に取り、目を輝かせる。
「う、、そうですね。私にはよくワカラナイ……」
シトラもとりあえずエイドにならってシャツを手に取る。
そして値段を見て絶句する。
「な!? 無地のシャツ1枚で金貨1枚ですか?」
「ん〜、、ここの店はいい素材を使っているから値段もそれなりにするみたいね。ほら、エアリエルの翼を使っているみたいよ」
そう言ってエイドが店に貼られている広告を指差す。
そこには背中から翼を生やした少女の絵が描かれている。
「エアリエル……天使族ですか。その翼には幸運の加護が刻まれているって――」
シトラがその絵を見て寂しそうな顔になる。
「(天使、、300年前は、精霊との適合力が高いため、戦線では常に後方支援を担当してましたね。魔法を使う種の中で最強と言われた存在……。そして精霊の力が消えた今は、、、、)」
絵の中の天使は首輪をつけており、服装もなんだかみすぼらしい。まるで奴隷のような……
「(皮肉なものです。300年前は人に幸せを与え、崇められていた天使が、そしてその名のもとに人を使役していた天使が。今や人間の奴隷としてその幸運の力を無理やり利用されている。堕ちた天使、ですか……気分が悪い)」
少し無造作にシャツを元の位置に戻す。
「どうしたの? 先行っちゃうよ!」
すでに店から出ていたエイドがぴょんぴょんと飛び跳ねる。
その声にフフッと微笑む。
「買わないのですか?」
「えっとね、、ちょっと高いかも。予算は金貨2枚くらいしか無いから」
「多くないですか? 私なんて銀貨30枚ですけど……」
「えぇ? 少なくない? そんなんじゃあまり買えないかも……」
「そんな、、鎖帷子は買えないのですか?」
「うーん、、一旦防具から離れよっか。そ、そうだ! あっちに安くて良いお店があるんだって! お洋服も売ってるらしいし、行ってみよ〜!」
エイドがシトラの手をギュッと握って引っ張っていく。
その様子を偶然、目にした男がいた。
「あれって、、エイドさん、だっけ?」
トーチはふと歩みを止める。歩いていた通路の奥に、見知った顔が見えたのだ。
「何で人形を引っ張っているんだろう……。ん? 人形? それにしては大きすぎるかな。じゃあ、一体――」
前を横切っていくエメラルド色の髪の少女と、手を引かれている金髪ツインテのロリータ少女をすっと目で追う。
「……まさか、、シトラ・ミラヴァード!?」
驚きであんぐりと口を開ける。その驚きは「なんでココにいるんだ?」というものと、
「なんであんな格好しているんだ」の2種類。
「あれなのかな。シトラさんは外ではああいう格好をするタイプの女の子なのかな」
トーチの頭にシトラに関する間違った情報がインプットされる。
だがすぐに我に返って口を閉じ、また歩き出す。
「(なんか見てはいけないものを見てしまった感じだよ。まあ、2人は僕に気づいていなかったみたいだけど……。 ――あれ? でもあっちの方向って“アザミがプレゼント探している店”があるんじゃなかったっけ?)」
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「どのお店ですか?」
私はエイドに手を引かれるまま歩く。階段のすぐ近くにあった、さっきの店よりも明らかに高額っぽい商品が売られている店が目に入る。
「えっとね、、あっちだった気がする!」
エイドが曲がり角を右に曲がる。私は黙って従う。地図を読むのは苦手なので、文句を言えた立場でもないし。
「あれ? あの人って……」
突然私の手がギュッと力強く握られる。そのことに驚いて、俯いていた顔をパッとあげる。
そしてエイドが指差す先をじっと見る。高級そうな店の前でドレスを見ている、銀髪の少女を。
「シャ、シャーロット?」
「だよね! あれってシャーロット様だよね。私ちょっと挨拶――」
「絶対ダメ!」
シャーロットの元へ行こうとするエイドの口を塞いで動きを止める。
「むぐぐ、、どうして……」
「決まってるでしょ! こんな格好知られたら、私――」
自分の格好を改めて確認する。どこからどう見ても人形のような服装。エイドにしてもらったメイク。ウィッグで盛ったツインテール。そこには私じゃない私がいた。
――こんな姿、見せられない……
まさか知り合いに会うなんて。それも親友に。
恥ずかしさに顔が火照っているのが分かる。それなのに体はヒヤッと冷たく感じる。
幸いにも、シャーロットはまだこちらに気づいていない。エイドの口を覆っていた手を離し、回れ右して駆け出す。気が動転して注意が散漫になっていたせいか、曲がり角のところで男の人にぶつかってしまう。
「アイタッ、、!」
慣れないヒールを履いていたため上手くバランスが取れず、私はぶつかった勢いで相手を押し倒すようにその場に倒れる。
相手が下で、自分が上の覆いかぶさるような形で。
「す、すみません。大丈夫ですか――」
恐る恐る目を開ける。相手の男の顔が目の前にあった。
私は言葉を失う。私が一番長く時を過ごしてきた、男の顔が、そこにあった。
「ア、アザミ……?」
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「聞いてたとおり、手頃なものが多いな」
いくつかの品を手に取り、値段を確認する。銀貨30枚の手持ちでも十分に買えるアクセサリーや洋服が売ってあった。どれがシトラに相応しいのか、丁寧に考えながら商品を一つずつ見て回る。
――そういえば誰かにプレゼントをあげるなんて初めてだな。
300年前、まだ魔王だったときに人にあげたものと言えば報酬や褒美などしかない。こんなふうに利益を伴わない贈り物は初めて……、いや、一度だけあった。“あの人”にだけはプレゼントを渡したことがある。
懐かしい思い出に浸ろうとしたところで何か違和感を感じ、表情が歪む。
あの人、あの人、あの人……って誰だ?
頭の中に靄がかかる。大事な人、だったはずなのに“あの人”の顔は黒く塗られ、何も思い出せない。
「……お客様、お客様?」
「――あ、、すみません……」
店員のおばさんの声が俺を現実に戻す。手に持っていた商品を棚に戻し、俺は軽く頭を下げて店を出る。
店を出たは良いものの、行き場を失いすぐに立ち止まる。
他の店は見るからに高そうで、手が出せそうにない。今になってあの金持ちどもを誘ったことを後悔する。
妹の誕生日に払う金額が二桁ぐらいズレているんだよ。
突っ立っていてもしょうがない。とりあえず再集合場所にしていたあの店を目指す。
すれ違う人は皆、金持ちのイメージ通りの人たちだった。食うものに困っていないのだろう。ふくよかで、幸せそうな顔をした人たち。
「うおっ!!」
そんな事を考えてボーッと歩いていたのがいけなかったのか、曲がり角で出会い頭に女の子とぶつかってしまう。向こうは走っていたため、俺が突き飛ばされる。
バサッ! と俺の体の上に、その子が覆いかぶさる。
俺の体がクッションになったのか、その子は特に怪我もしていないようだった。
――それにしても、、
まるで人形のようなフリフリの洋服を身にまとった少女が自分の上で倒れている。
密着しているため、その小さな胸の感触が触覚を刺激する。
「……イテテ、、」と言い、その子は顔を上げゆっくりと目を開ける。
その子の澄んだ蒼天の瞳が大きく見開かれる。
びっくりしたのはこっちなんだが……。早く離れてくれないかな。
そんな事を思っている俺の視界の中で、その子の赤紅色の唇がフルフルと動いた。
「ア、アザミ……?」
思ってもいなかった名前が飛び出したことに、俺の顔も驚きを浮かべる。
自分の名前が出てきたことに。知らない少女の口から自分の名前が出てきたことに。
「――誰、ですか?」
混乱する頭の中、無意識にそう口走っていた。
※この先しばらく謎の一人称視点となります。過去の雨方は何を考えていたのやら……(By697話の雨方より)
なお第3章より通常の視点(第1章と同じ)に戻りますので、そこまでお付き合いよろしくお願いいたします……!
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