38話 デパート
【アズヘルン王国豆知識】
この世界の金事情
銅貨1枚(約3円) 100枚で銀貨1枚と交換
銀貨1枚(約300円) 100枚で金貨1枚と交換
金貨1枚(約30000円)
「遅いわよ、2人とも」
シャーロットが腕を組み、頬を膨らませる。
「そう言われてもなぁ……」
3人は中央公園から少し離れた市街地に建つ、大きな建物の前にいる。
赤茶色の外壁にたくさんのガラス窓が取り付けられた、6階建ての建物。
天井部にドームのような丸い装飾のついたその建物は、まるで城のようだった。
「すごいな……。こんなに大きな建物が市街地にあるのか。これって、別に城とか貴族の住む場所とかでは無いんだよな?」
アザミが呆然と建物を見上げる。
「ああ。これは“デパート”って言って、高級な物が売っている店だよ。君の住んでいた村には無かったのかい?」
「当たり前だろ! こんな城、どこにでもあると思うなよ!? 俺たちの村の近辺で一番大きな建物は領主の屋敷だったが、このデパートとやらはそれさえ小屋に見えてくるレベルだなおい、、、」
「このデパートは王国最大の商業施設ですもの。当然よ」
「……何もそんな高級なところでプレゼントを買わなくてもいいんじゃないか?」
「何を言っているんだい。女の子への贈り物に安物を買うつもりか?」
「何を言っているのかしら。女の子への贈り物は質より気持ちだなんて言わないわよね?」
2人が息ピッタリとアザミを否定する。かなり夢のない考え方だ。
――そう言えばこいつら、上流階級だったな、、、
アザミが「誘うやつのレベルを間違えた」と頭をかかえる。
そんなアザミに「ハァ」と息をつき、
「いつまで入り口でボーッとしてるのかしら? さっさと入るわよ」
シャーロットを先頭に3人はデパートに足を踏み入れる。
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「すごいですね……。こんな大きな建物が市街地にあるなんて。これって、別に城とか貴族の住む場所とかではないのですよね?」
アザミたちが入った直後、デパートの入り口にはシトラとエイドの姿があった。
「これがデパートだよ! 良いお洋服とか売ってるんだって。私たちの村には小さなお店しか無かったからね、こういうとこ来てみたかったんだ」
エヘヘ、とエイドが嬉しそうに表情を綻ばせる。
「確かに、こんなに大きなお店は見たことがありません。なるほど、確かに良い格好をした人達が多いようです」
店内に入っていく客の服装と自分を交互に見比べる。髭を蓄えた老紳士や、じゃらじゃらしたネックレスをつけた貴婦人が多い。とはいえ、シトラの服装は正装と言うより人形に近いので、多少浮いてはいた。本人はまだ、気づいていないのだが。
「では、まずどちらへ向かいますか?」
「うーん、、そうだね……」
さっそく2人は館内に入り、案内図とにらめっこをする。
とりあえずシトラは地図から離れ、エイドにすべてを丸投げする。
「シトラちゃんは何か買いたいものある?」
「鎖帷子。あと、鍛練用に重りがほしいですね」
「――うん。それはちょっと違うかも」
場所と格好から宇宙規模でかけ離れたシトラの発言にエイドが呆れ顔でツッコむ。
なお、当の本人は「あれ? もしかして武具まで高級なのですか? それならお金足りますかね……」といらぬ心配をしている。
「と、とにかく行こっか! そうだなぁ……まずは服を見ようよ! シトラちゃんあまり私服持ってないよね?」
エイドが「服は制服と動きやすい服と寝間着で十分です――」なんて言ってるシトラを引っ張って階段へと向かう。
「……服、だと?」
「ああ。定番じゃないか? アクセサリー類もいいが、やはり洋服が一番だろうな」
デパートの4階、服飾品売り場に3人は来ていた。シャーロットが売り物の洋服を持ってくる。
「これとか良いんじゃないかしら。シトっちに似合うと思うのだけど」
「うーん、、何ていうか……派手じゃないか? パーティーにでも行くのか?」
「え? これ、普段着のつもりだったのだけど……」
シャーロットが手に持った鮮やかなピンク色のドレスを名残惜しそうに見つめる。
トーチがそれを見て「はぁ」、と息を吐く。
「そういうところがズレているんだよ……」
「それに、この店においてある服、、すごく高そうなんだが」
アザミがふと恐ろしそうに周りを見渡す。まるで王家のパーティーでも始まるかのような豪勢なドレスの数々に、アザミの背中に冷たい汗が走る。
そして恐る恐る、ピラっと服の値札をめくる。
『金貨10枚』
ピシッ! とアザミの動きが止まる。
.........
「あ、その服お買い得だな」
そんなアザミを見て、まるで商店街で青果でも買うかのようにあっさりと口にするトーチ。
「……トーチ、、お前もズレているぞ……?」
恐ろしいものを見ているかのような目で、ブルブル震えながら見つめる。
「(確か銀貨2枚でリンゴ5個だったな……。100枚の銀貨で1枚の金貨に変えられるから……金貨10枚って、リンゴ2500個分!?)」
なんてもの置いてんだ! と、周りの品々の高級さに動けなくなる。
「え〜、この店で金貨10枚は超安いわよ」なんて言っている王女様もいるが、その声は耳に届きすらしない。
「ところで、金貨何枚ぐらいで考えているんだい? 予算を聞いていなかったのを思い出したよ」
「……30枚」
「30!? それならこの服なんて余裕で――」
「銀貨、30枚」
アザミが消え入りそうな声でつぶやく。
それを聞いてトーチが「嘘だろ?」と汚いものを見るような目でアザミに向ける。
「いやまて金持ちども、、! 妹へのプレゼントに銀貨30枚って結構ヤバいからな!?」
おいコラとトーチに詰め寄る。
「あらあら、そんなに少ないのね。ならこれもダメかしら」
シャーロットが白いレースのついた、フリフリのワンピースを持ってくる。
「――その服は値段云々の前に、あいつが着るとは思えないんだが……」
「それもそうね。シトっちがこんなゴシックな服着るとは思えないものね」
アハハハと2人は顔を見合わせて笑う。
「じゃあ、あっちの方へ行ってみたら? 銀貨30枚じゃ厳しいかもだけど、お手頃な洋服や小物が売っているわよ」
そう言ってフロアの奥の方を指差す。
「そうすることにするよ。で、シャーロット達はどうするんだ?」
「私はこの店お気に入りだから、もうちょっと見ておくことにするわ」
「僕はあっちに贔屓の靴屋があるから、顔を出してくるよ」
と、アザミが向かう方向と逆を指差して微笑む。
「(あれ? こいつら呼んだのってプレゼント選びの意見もらうためだったような……)」
「おかしいぞ?」とアザミが首を傾げるが、キレイに無視して各々の買い物に向かう2人。
「じゃ、じゃあ再集合はこの店の前で、、、、」
アザミは諦め、仕方なく1人で奥の店舗へと向かう。
「さあ! 着いたよぉ!!」
階段を上り、4階に着いた。
カラフルな服が沢山目に入ってテンションの上がったエイドは「ヒャッホウ!」とくるくる回る。
そんなエイドと対称的に、
「あ、あの……なんだかさっきから好奇の視線を感じるのですが、、」
恥ずかしそうにスカートの裾をギュッとつまみ、顔を赤く染めながらシトラが俯く。
「う〜ん、まあ、ちょっと他の人とは違うよね〜」
サッと目をそらし、そうつぶやく。
「えぇぇ!? エイドが『こういう格好』させたんじゃないですか!」
「……あ! あの服可愛いわね!」
シトラに詰め寄られ、慌てて話題を変える。
「だから、この服装を選んだのは――」
「お! この服も可愛いわね!」
今度は手元に話題を逸らす。
「、、っつ……! はぁ、、もういいです。どうせ二度とこのような服は着ませんし、誰かに出くわすなんてことも無いでしょうから」
諦めて息を吐くシトラ。
彼女は同じフロアに親友と兄がいることなど全く知らない。
そして2人もまさかシトラが「着るとは思えない服」を着て同じフロアにいるなど、全く考えていない。
「じゃあ! レッツお買い物だよぅ!」
そう言ってエイドは駆け出す。
..................
しっかりと、3人が再集合するあの高級店の方向へと。
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