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995話 ここが何処で、何時か

「気が付いたら誰もいなかった、のですか?」

「うん。私もそうだったんだ。パッと目を開けたら手を繋いでいたはずのレンがいなくて、シトラお姉ちゃんもアザミもいなくて。それで慌てて走り回ってさ。……まあ、レンはめっちゃ目立ってたおかげですぐ見つけられたんだけど」

「ううぅ、それは……言わないでください……」


 傷をえぐられたレンヒルトは両手で顔を覆い、スッとシルリシアから目を背けた。隠し切れない耳が真っ赤になっているところを見るに、今でも本当に恥ずかしがっているのだろう。そんなレンヒルトにクスッと吹き出すシルリシア。

 

「まあまあ、私も不安になったし一緒だよ。それにレンは世界魔法初めてなんだからなおさらじゃん」

「それでもお見苦しいところ見せたって私、反省―――」


 いまだ泳ぐ目でちらりと、恐る恐るシルリシアの方を見やったレンヒルト。だがその震える言葉を最後まで紡ぎきる前に、スッとシルリシアの人差し指が少女の淡い唇に触れた。


「言葉遣い、戻ってるよ?」

「っ―――! とにかく、私は反省して……る、の!」

「アハハ、やっぱレンは真面目だなぁ」


 やっぱり友達相手に敬語は変だろうか、と努力して。でもまだぎこちなさは残る。そういったところも真面目で、そこが可愛い。まあそんなことを本人に言ってしまうと、たぶん今以上に恥ずかしがって面倒なことになりそうなので、その感想はしみじみと自らの心のうちにとどめることにしたシルリシアであった。


「それにしても、今まであったの? こんなこと……」

「開幕から迷子パターン? いいや……無かったはずだよ。世界魔法に入ったとしてもバラバラに飛ばされるなんてことはないし、基本は皆一緒のところにいるはずなんだけどね」


 それなのに今回は、少なくともシルリシアとレンヒルトの二人に関してはそれぞれ別の場所で目を開いたということになる。こんな経験、今までになかった。世界魔法の様子や入る時の感覚も今までと違いはなかったのに、不思議なこともあるものだ。たまたまなのか、それとも何か理由があるのか。


「まっ、考えたって分かんないよね」

「そう、です、だね。シアが分からないなら、初めての私はもっと分からないで……よ」


 そう不安そうに呟くレンヒルトに、シルリシアは「だね」とだけ言う。

 考えたって仕方がない。ならもっと意味のあることを考えよう。例えば、


「……それで、シアはここがどこかって心当たりあるの?」


 そう言ってぐるりとあたりを見渡す。見たことがある感じもするが、でもはっきりと「ここだ!」とは言い切れないもどかしい感覚。喉元まで出かかっているのに……と、その気持ち悪さに顔をしかめながらレンヒルトは首を傾げた。


「うーん……まあ、なんとなく?」

「えっ? なんとなくでも分かっているの?」


 それは拍子抜けする答えだった。もしかしてと期待はしながらも、てっきりシルリシアも自分と同じだと思っていたから。「アハハ、わかんないなー」なんて軽い答えを想像していた彼女にとって、意外と真面目なその答えは想定外。そのせいで最初の「えっ?」が変に裏返ってしまった。また恥ずかしい、ううう。


 なんて。そんな、またもや一人勝手に赤面するレンヒルトを横目に、シルリシアは「多分……」と切り出した。


「ここがどこか、の答えはきっと聖都モルトリンデだよ。街の感じとかほら、ちょっと面影あるでしょ?」

「言われてみれば……確かに」


 喉に突っかかっていた気持ち悪さがスーッと取れる。ああ、だから見たことがある気がしていたのだ。出身じゃないし、そこまで足を運んだわけじゃないからすぐには気が付かなかった。でも言われてみたら元妖精の国ということもあって、そのメルヘンな雰囲気もどこかこぢんまりした空気も、そして街の至る所を飾る花々も。それは確かに聖都モルトリンデだった。


「ということは大陸ですか。あとは時代さえわかれば……って、ひょっとしてシアはもうそこまで分かってる?」

「うん。……いや、ううん。そこまではっきりとは分かってないかな。人の感じとか雰囲気とかを見て大体は掴めるけど、ビシッと一点を指すのは無理」

「……そっか。ううん、そうだよね。ざっ、残念なんて思ってないよ! 私は全然思いつかなかったわけで、ということは負い目を感じるのはむしろ私でっ……!」


 ハッと慌ててフォローを入れるレンヒルト。その、フォローになっているのかよく分からない、相変わらずの慌てっぷりにシルリシアはフフッと力が抜けていくのを感じた。


(随分雰囲気変わったね。初めて会ったときはもっとツンツンしてたっていうか、こっちのことを怖がって距離作ってたみたいだけど。今は歩み寄ろうとしてくれてるのが分かって嬉しい、かな)


 まあ、まだぎこちなくはあるが。でも、その気持ちが嬉しかった。そして嬉しいと感じると同時に、ズキンと胸が痛んだ。レンヒルトの想いが何となく分かってしまうからこそ、笑顔の下で胸が苦しい。きっと彼女の想いには応えられないって……その結末が見えているから。彼女の‟好き”に返せない好きの在処なんて虚しいだけだ。


「とーにかく、じゃあまずはそれを探そうか。アザミがいつもやってるみたいな、まずは情報取集だよ」

「はっ……うん! アザミ様やシトラ様の情報も探さなきゃ、だよね!」


 そんな複雑な心境も笑顔と一緒に吐き捨てて、シルリシアは握っていた手をほどくと、そのままレンヒルトの背中をバチンと力強く叩いた。まずは今やれることを。情報収集、聞き込み。世界魔法におけるそれが定石で、世界魔法の歩き方なのだから。


 * *


 世界魔法に来ると決まって確かめることがある。それは、‟ここがどこで、いつか”ということだ。

 それが分かっていないと、情報収集の際に怪しまれてしまう可能性が高まるだろう。初めての世界、怪しまれ睨まれてしまえば動きにくいのは経験済み。そうならないためにも、話を合わせるという意味でも、世界魔法の開いた時代と場所を知ることは重要だった。


 そして、それはこの世界魔法に関しても同じこと。例外じゃない。まずやるべきは聞き込みをして、この世界を知ることだ。これまで四度の旅も同じようにしてきたし、それはもはやお決まりの第一歩。むしろやらなきゃ落ち着かない、くらいのものだった。


 だけど、今回……五回目の旅になる、この世界魔法に関してだけは例外だった。


(……さて、どうしたものかな)


 アザミ・ミラヴァードはぐるりと眼下の光景を見回してふと息を吐く。困っている、わけじゃない。ただ困惑していた。最初から順調な一歩といえばそうなのに、これは……予想外だ。


「おぉぉぉ! 我らが偉大な祖国よ! 偉大な同志よ! 偉大な統一よ!」

「我らが歩むは覇道にして、我らの血は祖国を潤す雨となり! あぁ偉大なり我らが王冠よ!」


 喝采、歓声。讃える声はやまず響く。振り上げられる拳に繰り返される賛美の声は聖堂の天井を突き破らんほど高らかに。

 ああ、俺はこれを知っていた。この光景を知っている。ここが“どこ”で、“いつ”なんて。そんな些細な疑問はすぐに解決した。誰に聞くまでもない。聞かずともわかる。だって、この世界を彼はよく知っているから。忘れるはずがないだろう。予想外……いや、チラッとぐらいはあり得るかもなんて脳裏をかすめた可能性。けれどまさか本当にこうなるなんて。


「おお、我らが導き手にして偉大なる王……! “魔王”、シストリテ・ヴァン・エヴァグレイス様の御前である!」


 アザミ・ミラヴァード……あらため、シストリテ・ヴァン・エヴァグレイスは高みの王座よりその世界を眺めていた。かつて自らが支配した光景。彼、魔王シスルの作ったその世界を―――。


 そこは忘れもしない、300年前の魔都アスランだった。魔族の住まう世界、魔界。ここはその中心にして魔王の暮らす王城。アザミにとって五度目となる世界魔法の旅は、そんな懐かしく慣れ親しんだ王座より始まった。

※今話更新段階でのいいね総数→3335(ありがとうございます!!)

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