二十四話
さて、これから機械人形の素体を作る訳だが、外殻となる全身鎧が予想だにしない性能となったので、仮称怨霊くんに扱えるように外付けで封印パーツと操作補正パーツを追加で作成する。
武器も神鎧の能力が加わる事になるのは確定なので、得物であるランス、大楯共に耐久性を重視して作る。元々通常の機械人形を作る予定では無かったので別に構わないのだが、予定の三分の二は変更である。
で、この中で一番問題なのが封印パーツ。神気を人の手で抑え込まなければならないので、完全に魔法術式で作る必要性がある。人の言語で人外の気を繰るのは、難しいとしか言いようが無いからだ。僕の専攻は魔術重視の魔導術式なんだが………
完全に未知の領域、なんてことはないのだが、経験が浅い。ので、封印が得意な闇属性と光属性のスペシャリストにぶん投げる事にする。他の属性でも出来なくはないけど、周囲の環境に依存するので不確定要素が強い。
『マリル、ポテス、ちょっと良いかい?お願いしたいことがあるんだ』
二人とも起きている筈。起きてなくても無理矢理起こせるから、この呼びかけって実は意味がないのだけど。
『呼んだ?マスター』
『お呼びですか、マスター』
相変わらずの無感情と不服がこもった声。なお、僕のポテスの首輪を外す予定はミクロレベルでない。
『くかくしかじか………』
これでも伝わる念話って素晴らしい。根本的には会話の伝達ではなく、思念の相互送信。別に言葉という体系を取る必要性は無い。曖昧なイメージだったり、表現が難しい映像、送信者の記憶が明確な限り正確に伝えることが出来る。
『神気の封印或いはその流用……できなくは無い』
『天使と共に呼び出したのはそれが理由ですか』
天使と悪魔は神々から中堅以下の邪神の封印を神々から任せれているので、お手の物だと思われる。相手は七大神の神気だけども。
『ん。流用の方向で作ってみる』
『え、っちょ。何するんですかハマリエル!や、止め。スーツを持って引きずるのを止めろおおおおぉぉぉぉぉぉ』
おー、ポテスがティルフザールにドナドナされていった。思いのほか強引だったな、あの子。うん、術式が完成してたら問題無いよね!
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術式の作成は問題なく進みそうなので、機械人形に取り掛かるとしよう。
本来は機械人形のコアには高い属性魔力を持つ物質、又は一定以上の魔力を持つ魔石を使用するのだが、此処を魔力炉で代用する。
[五十八式魔力炉] 品質 S+ 魔力生産 毎秒2,000
古代の魔導科学によって作られた魔力を生産する機械。現代ではその力の再現に至る事は出来ていない。この魔力炉は新品であり、最近作成されたことが分かる。現存し、なおかつ生産能力を未だ有する遺跡が存在する事は世界に広く知られてはいない。
見た目は単なる金属球なんですがねぇ、術式が隅の隅まで書かれている事を除けば。多少読めはするが、何を対象に発動しているのか、コレが分からない。『術式を弄らなければ壊れない』との言を信じて、思いっきり加工しますか。因みにティルフザール次世代機用に魔導陣を六つ貰っているので、次世代機たちに魔力生産機関を組み込むことが出来る。
機械人形の体を作っている間に、仕組みを解説しよう。
機械人形は現代の人形術が繰る人形と同じように魔力が原動力だ。魔力によって人形に一時的に意思を宿し、人形を使役体として操作する。では、何が人形と機械人形を隔てる壁となるのか。それは最終的な動力が機械に因るものである事と、その体が人工知能を有する事。
その為、機械人形は魔力を物理学的エネルギーに増幅して変換する事に加えて、使役体とする目的から一時的な魔力による人格形成に使う魔力が減る事によって人形と比べて魔力消費が格段に抑えられる。
今回は人工知能の部分を仮称怨霊くんで代用するわけだ。で、本来の予定では人工知能を構成する情報結晶が占める体積に武器などの特殊機構を仕込む予定だった。
しかし、運命の悪戯………というか神々の祝福は無情なもので、結晶に補助術式を刻みまくる事になった。保険もかけて仮称怨霊くんの保護のために、遠隔操作可能な強制精神分離術式。死霊だから、素体から分離するだけでこっちで回収できる。そして、まだ愚かで、未熟な神鎧の心に依り代を渡さない為に、動力回路分断術式と神器が有する精神にのみ反応する超限定的対象指定精神強制封印術式。万が一、億が一に備えて自爆術式。
ここまで手を打てば、余程の事態にならない限り機械人形の体が乗っ取られる事は無いだろう。杞憂になるか、この作業が吉となるのか。僕には予想だにし得ないが、人類種の限界を超える神鎧が敵に回るリスクからすれば、多少性能が下がるのは飲み干すべき代償だろう。
上手く扱えば、公国戦が驚くほどあっけなく終わるだろうし。その戦闘が終結する迄に人死がいくつ積み上がるのかは、無量であろうけど。
秘匿は一定以上の力を持つ人物には全く持って意味がないので、(人間社会的に)正式な聖者発表の時にでも、シスム様から下賜されたとか言っておこう。
これでよし。見た目は少々……?メカいが、この上から更に加工を加えるから良し。
出来上がったのは、人間の顔を除いて皮を剥いだ物。肉体を構成するのは無機質な金属と、人の其れに限りなく近づけ、繊維状にした業焔大知王樹の樹皮で作成した人工筋肉、堅々の魔鋼を上位錬成し、精霊が宿るのでは無いかという程魔力を込めた碧壁の金剛魔鋼で作られた碧空にも似た青色の骨格。
一応、外部からの魔力、生命力補給のために取り入れた物質を全分解して、内部の魔力エンジンに投入する所詮胃の役割を果たす機構も組み込んである。まぁ、この機関だけで完結するので、その他の消化器は組み込んでいないが。毒物は対物質系の毒でもない限り効かないので、放置である。追加で、これから対物質系の毒にも対策を施していくが。
初めに使い切れなかった銅インゴットと銀インゴットを十五個をスライム系の魔物の核素材を磨り潰した物を少しずつ入れ、その効力を活かして高温且つ金属素材である状態を維持したまま粘度を高めていく。
程良い粘度、例えて言うならば耳たぶ程の触感がヘラから感じ取れたら、錬金釜から取り出す。高温の金属粘土と化したインゴットをマーズフレイズの熱魔力変換機構で熱を吸い取る。因みに、現在の作業に使用する魔力の一切はCCSBやTUSB、コアたちに預けていた物を使用している。
根源的にコアたち並んでその分体は僕の魔力で発動した自立型生体術式なので、僕の魔力に対する適性は最上級になる。そんな訳で僕の魔力を預けて貯蔵させる事が出来る。その用法をコアたちに頼んだら、高魔力保持タイプ型の分体を五日ほどで作り出してくれた。その保持可能魔力は一体七千程。
個体で見ればそれほどでもないが、抑々の話CCSBとTUSBの作成コンセプトは圧倒的な物量による圧倒。作り出してから十日余り、塵も積もればなんとやら。その数は十万を超えているので、総保有可能魔力量は七億にも達する。
睡眠中の僕から余剰回復魔力を吸っているのか、それともダンジョンか野良の魔物を生贄にして干からびさせているのかは知らないが、三億ほど魔力が溜まっている。ダンジョンに危険が無くなる日は近いのかもしれない。出来ればアルテミス殿下との約束がある日じゃないと良いが。
いや、CCSBとTUSBをばら撒けばものの数分で帝都を制圧できる………?
(サーラ以下配下の戦力温存を重要視するなら…………)
(CCSBとTUSBはミクロサイズ、故に気配も微弱。気づけるのは猛者に限られる…………)
(帝都外苑を起点にした帝都を防衛する結界の解析は終了済み、帝城に常時、非常時に張られる物も両者共に分析終了。そのジャミング術式も組み込んである………)
(CCSB、TUSBは小さい故に僅かな風の動きで移動する。その為、武技による属性攻撃以外で、密集でもしない限り物理攻撃は不可能………)
(マジックでの攻撃も、最悪この子達なら全て取り込んでしまえばいい………)
(帝宮魔導士相手でも余程の密度でなければ感知することは不可能に近い………)
(武闘派のあの公爵は例外か、アップデートを続ければどうにかできる事を加味すれば………)
(禁書の黙示なら感づけるか。しかし、彼女は禁書庫に閉じこもっているし………)
(……………皇后陛下以下皇帝陛下の奥方にバレる気がしてならない)
(皇帝陛下に対するジョーカーは父上だから別に良し………)
((((結論、バレたら四方八方に喧嘩売る事になるから全力ではやらない))))
全力では、ね。こそっと隠密暗殺型を大量生産、そして頒布するだけだから。まぁ、この地にある聖者として、環境浄化型は意地でも広げますが。
ま、熱が粗方取れたので作業に戻るのですがね。この状態では、先刻称した通りに金属粘土となっている。実際のそれとは若干粘度が高くなっているが、これからの作業には持って来いである。
金属粘土に肌色の色素と聖水を与えて育てた浄華の解毒草の花弁のエキスを油で希釈した物を加えて練る。手に着いてしまったので、打ち粉として銀粉を使う。全体に光沢が出て、肌色が回ったらこの工程は終了だ。
で、今の今まで魔銅や魔銀を使わずに作業を進めるのには若干だが意味がある。それはこれから行う作業にも起因するのだが……百聞は一見にしかず、行動に移した方が早いだろう。
「我、闇を司る女神シスムの聖者也 この身は未熟 されど天に与し、地を潤さんとする者達の一人 故に我は天啓に従い、星辰の空へと参らん〈転移:シスムの神域『星辰の空間庭園』〉」
因みに、無詠唱でも発動可能。しかしながら魔力に余裕が無いので、消費魔力削減の意味を込めて詠唱付きでの行使だ。そして行く場所が場所なので、マーズフレイズに着換えて行っている。
術式発動から三秒ほど閉じた目を開けば、移る光景はいつか見た空中庭園。星々の光が降り注ぎ、宇宙に浮く太陽の代わりとなって季節を問わず咲き誇る花々を育んでいる。夜の帳の中にありながら、彼の審判と闘争の力の顕現である光と劣らない同源の光を注がれる花達は人界に有る其れと一切変わらず、魔力だけで評価するならば一級品…と言うか比べるに能わない程量、質、深度が高い。いや、他が悪いという事は無いのだが、単に僕が園芸、ひいては花の良し悪しが良く分からない事と一番親しみが有り、専門的な魔力を選んだだけだ。素人目でも、最高の状態である事は一目瞭然ではあるが。
それはこの庭を管理する者の腕を如実に示しているが、当人に会う前に所有者にご挨拶に伺おう。記憶にあるシスム様の行動からすれば、ガゼボにいらっしゃると思われるのだが………
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「だから何で其の方は下界に無配慮に干渉するのだ!説明する我の身にもなれぇい!!」
「そこに恋愛の気配と困ってそうな丁d……救うべき信者がいるからです!!」
なんか二柱居ますねぇ。……纏う気配と余りに膨大、高い高い質の光属性魔力から察するに審判と法の神ラジア様ではなかろうか。
世界創造の伝承と、稀に極々稀に人界に降臨する際に見られる服装とは異なっていて、伝わっている物とは優美さを維持しつつ位を落としている様だ。
「何の説明にもなっておらんだろうがぁ!!」
「恋に世界など関係ありません!!」
「無理矢理人の子の恋情のキッカケを作るなぁ!!」
ルールと感情論のぶつかり合いをしている髪様二人を他所に、この空中庭園の庭師をしている人物に話をしに行こう。
……巻き込まれたくないのが本音である。
コッソリコッソリ、持てる隠密技術の須くを使ってバレない様に。そぉーっとガゼボから退場する。修羅場は御免だ。
「聖者であるお主からも何か言ってやるが良い!」
「まさか、融通の効かない兄さんの様な事は言いませんよね?」
ガゼボの柱に手をかけた所で発見された挙句、神二人に圧迫されました。只、悲しいかな。僕は激憤という訳でも無いが、興奮状態にある神の威圧を一身に受けた時に耐えられる精神構造では無い。
フラッと体が倒れていき、神相手では持った方ではあろうが、悲しいぐらいに呆気なく意識を失った。
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ふわふわと浮かぶ意識の中で、遠くとも其の一切が衰えない威厳ある、けれどもどこか幼げある声が響く。
「アレク!」
それは私が間違う謂れなどない、有るはずもない幼馴染の声。けれどそれは何処か朧気で、日が昇り、落ちていく様と同じ様に颯爽と過ぎていく。
また、声が響く。其れは先程のティーナの声とは異なり、酷く耳障りで鼓膜の上で百足が躍るような声。耳だけでなく魂でもその音が燻り、朧月が完全に曇天の上に隠れてしまうかのようだった。
『亜sjふぉひ所p所jgjgbほsldhbんぎlhg』
声にも成れず、不定形で己以外の全てを蝕み喰らおうとする、邪神よりも愚かな呪い。五年経とうとも、欲求に陰りは見せず、私の魔力の大半を使っても此処まで荒らす規格外の呪い。
忌々しい。あの時ランダムに記憶を捧げても完全に封印出来なかった事が悔しくて仕方がない。出来ていれば、ティーネから距離を取る必要も、力の無さに酷く嘆く事もなかったというのに。
魂の、心の奥底に眠る【救血至聖天】の能力の一端、清救の力を汲み取り、大剣の形に変え、振り回して呪いを封印の中に押し込める。それでも、絶えずに溢れ出る其れを、ひたすらに、只々ひたすらに押し込み続ける。
嗚呼………本当に―――
――――――――――――――――――――――――
「忌々しい」
「おヤ?起きましたカ。しかシ、途端に出る言葉ガ、ソレとは珍シイ」
………あぁ、気絶したんだったか。通りで、全部蔦で作られているベットに寝かされていたわけだ。しかし、何か気絶してる間に起きた気がするのだけど、一向に思い起こせないな。
「一先ず、ベッドを用意してくれてありがとう。ここじゃ、普段使いする生物はいないだろう」
「フフフ。極稀にお嬢サマが自ラの信者ヲ夢導きでオ招きにナル時は必要だカラ、良いのでスヨ」
そう若干片言の人類種共通言語を使って話すのは今は人型状態の樹精霊の姿をしている【冥樹龍源皇】アンフェシルウァ。彼女はこの空中庭園の庭師であり、静寂と輪廻の女神シスム様に従う神龍でこの世界に生存している龍源皇の一体であり、暗月属性と樹海属性を持つ稀有な属性を持つ祖龍だ。彼女は基本的に空中庭園から出ないから、人界に彼女の系列の龍人族は優遇されるイスタール帝国でも易々と見つけられないけど。敬称は付けようとしたら断られた。
それにしても、何やってるんだあのお方は。絶対恋愛関係で呼んでるだろうし。
「それにしても、御二方は?姿が見えない様子ですが」
「アァ、お嬢サマとソノお兄サマですカ、お二人にハ人を気絶させタ罰としテ剪定作業のお手伝いヲして貰っテいまス。最モその前ニお叱りしましたがネ」
えぇ………髪を叱る龍とは一体…?いやまぁ、神龍って従っている神から信仰の一部を受け取る事で神格を得るから神だけども。
「ア、少し軽かっタですカネ?もっと厳しメに行きますカ?」
背中に蔦を使った鞭みたいなものが見えるんですが……見間違えデスヨネ?ネ!
「……………神々に対するイメージが壊れそうなんでやめてください」
もう壊れかけだけどね。抵抗するに越した事は無い。
ファ!?( ̄口 ̄∥)(ブクマが増えた事に関して最も驚いている人の図)(抑々見てもらえればありがたかったから喜びに打ち震える人の図)(ついでに累計pvが3800を超えた人の図)
皆様、本当にありがとうございます。頑張って今年中には一章終わらせるんじゃーp(′⌒`*q) ガンバラナ




