二十二話
今週から週一投稿再開します。
ドロドロと進む時間が流れ、漸く二十分経過。必然的に学級委員になったアルテミス殿下が――理由は分かりきっているが――高々に授業終了の号令を鳴らす。
そこに乗っかる様に、若干勢いが強いのは平民生徒達と軍派閥、皇族派である。打って変わって、巫女派と貴族派は未だにいがみ合っており、挨拶が些か乱暴である。
子供な事を含めて評価すれば、百点満点中75点。もう少し、態度に表さない事ができると善い。
僕からの生徒達への評価はそこそこに、どうやら、五十分に及ぶ毒の吐き合いは当人達以外には相当堪えたようである。
若干?いや、かなり動きが鈍い。普段ならば、無類のプライドと競争心を発揮させて即座に教室間移動を開始するのだが。
まぁ、そんな事はどうでも良い。次は魔法科の授業。つまりはアルテミス殿下との練習がある。
……どうにかして、ここでの仕返しを仕組まなければ。
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と、思っていたんだが、何故僕は喧嘩を売られているのだろう?しかも、結構昔の話題で。
「貴様の様なクズではアルテミス様とは釣り合わん!さっさとどいてこの僕と代われ!」
まぁ、単純に状況を説明すれば、神童とか賢者とか囃されなくなった僕と自分では、自分の方が上だから代われ、という話。因みに相手は代々帝宮魔導士を輩出する名家の三男坊。
あと、第二皇女殿下ね、アルテミス様じゃなくて。放って置いても他の貴族からの突き上げで自滅しそうだけど、アルテミス殿下の態度が不服を示しているので、この場で断罪する。
この手のタイプの精神を圧し折るには正々堂々叩き潰すのが一番良いだろう。そんな訳で……
「…フフ」
「おい!貴様何を笑っている!僕の正当な訴えが滑稽だとでも言いたいのか!」
流石に牽制の含み笑いでキレるとは思ってなかったんだが…。ひとまず、沸点は低くても行動に移さない様なので煽りを再開。
「ええ。栄光ある未来の帝宮魔導師殿にしては、些か勇気ある挑戦だと思いましてね」
「馬鹿にしているのか!この僕を!貴様程度に臆するなど、有り得るはずもない!」
もうちょっとで白手袋が飛んでくるかな。しかし、相当に血が上っている様子。全くどんな魔法が飛んでくるか分からないな。
結界を貼りながら戦うのは読書しながら勉強する位には面倒なのだが………。万が一アルテミス殿下に魔法が掠りでもしたら、帝宮貴族が騒がしくなるだろうし、諦めて結界の発動と戦闘を同時に熟そう。
因みに、先程から三男坊やら、栄光ある未来の帝宮魔導師としか言い表さないのは、単に名前を覚えてないだけだったりする。
暴論、子爵家以上四十八の上位貴族家の関係者を覚えておけば、問題無く社交界を生き抜ける。
因みに、某三男坊の出自は男爵家。大っぴらには言えないが、そこそこの上位貴族なら取るに足りない。僕の家?伯爵家ですね。
つまり、半分は茶番である。大方、軍派閥の頭脳である第二皇子殿下辺りが焚き付けたのだろう。逆に言えば、それ程の理由が無ければ男爵家子弟が僕に手を出すなんて事は有り得ない。
さてさて、如何にしれっと派閥争いに復帰するか。これが重要だ。この件も、恐らくは第二皇子殿下の小手調べ。先の暗殺者侵入事件も、何者かによる偵察だろう。
この二つの事例が示すのは、僕を従者に伴ったアルテミス殿下が警戒されているという事。アルテミス殿下に対処をして貰い、実力を披露するのも良いが、こと戦闘に於いてはアルテミス殿下は隠し札にしたい。
本人に取っては不満の塊だろうが、幼少期の悪評が強く、今尚アルテミス殿下の剣術を侮っているものは多い。
今はまだ、幼馴染との不運な運命に悲しむ少女、のレッテルがあった方が動き易いのだ。次いでに僕も呪いによって弱体化した暗殺者の方が良い。
別に完璧に祓う事は自力で出来ないけど、誰かに手伝って貰えば祓えそうではあるけどね。呪い。
デモネー。チッョト、ハードル高イ条件魔導術式ジャナイト、解ケソウニナイヨネ。
いやー。無理矢理やるなら相性が良く、浄属性を持つ肉体を経由して魔力をゴニョゴニョする必要が……。一番楽なのは房tu……んッ。何でもない。
「オイ!聞いているのか!早く退けと言っているだろうが!」
「いえいえ、聞いていますよ。ただ、礼儀を重んじない方はアルテミス殿下に相応しくない、と思いまして、ね?」
「僕が無礼だと言いたいのか!そこまで言うのなら良いだろう、決闘だ!後悔するなよ!」
飛んできた白い手袋をキャッチして、講師に目配せ。その顔は半ば諦めを含んでいたが、場所は取ってくれるらしく、訓練場の一角を指し示していた。
「他の方々の邪魔をする訳には行きませんから、移動しましょう」
「そんな事はしなくていい。何せ一瞬で終わるからな!」
あ、講師の気遣いが死んだ。次いでに野次馬と化した生徒達の熱が上がった。ま、仕方ないヨネ。
「良いでしょう。正々堂々、勝負して差し上げます」
「はん!当然のことだ!」
予想以上にお口が悪い。巻き添えにならない様にしないと。
相手の救済?しないよ?
体の全身から諦めと精神疲労を滲ませてた講師が審判を勤める様なので、後で僕の名前で学院長に手紙を書いておこう。きっと、休みが増えるか、給料が上がる。圧力では無い。
「それでは、只今より魔導による決闘を開始する。始め!」
今更だが、決闘と言っても命を賭ける訳ではい。大体片方が気絶するぐらいで終わる。
「大いなる原初の盃 底に沈みし金色 かくありき其れは 今我が手に宿る」
中に浮かぶ魔法式は金色。趣味が悪いな。だが、内容の全貌を察するに随分と効率が良い魔法である。
コア達に喰わせるか。土と闇の上位複合属性の一つである愚金属性だし。結界を貼りつつ、今や数えるのが馬鹿らしいCCSBとTUSBを操る。
「指輪よ、契約に従いその効力を発揮せよ」
これで使役体の強化が終わったから、次は結界。愚金属性は土の派生、鉱属性の比重が高いため、水属性と闇属性の派生である毒属性の結界を貼ればいい。そんな訳で毒属性魔術結界〈毒床の風〉を発動。
ついでにCCSBとTUSBをザッと二千万程使って龍を思わせる巨大な顎門を形成。これくらいなら、召喚術の一部だと思われる筈だ。はてさて、ここで気になるのは三男坊の状態。
目の前で結界の行使と顎門の形成、派手な事をした自信はあるが、ニヤリと笑っている三男坊の余裕は崩れない様である。あれ?結界の展開に関しては一切を隠してないのだが。
……もしかして、思いの外弱い?それか、唯の傲慢?
「金色は万物を呑み込み 全てを亡す 今ひと時その力を解放せよ〈愚者の金色槍〉!」
その魔法式から出でた金色の槍は予想より遥かに大きかった。
僕の身の内から来る衝動から、咄嗟に結界への魔力量を増加させる程には。
長さ約三メートル、太さは五十センチ程。確かに、愚金属性は個人の生来の資質が大きく関わる属性だ。
僕も使う事ができるが、彼の使った量の魔力ではここまでの効果を出す事は不可能だ。
それ故に、興味が湧いてきた。
目の前に迫るそれを顎門で噛み砕き、分解する。龍器を出せば、殺してしまう気しかないので出さないが、術は本気で行こう。
「正直、侮っていました。高々、焚き付けられる様な人間、血の栄光を己のものと勘違いする人間だと」
「ふん、今更そんな事を!だから貴様では駄目なのだ!」
「本当はそうなのかも、しれません。ですが、今、この立場にいる以上、譲る気はありません!」
土属性と闇属性を持つ人物特有の暗く、淡い黄色の髪、己の血に誇りを、一層の自信を持った目は僕への奮起を雄弁に唱えていた。
懐かしくもあり、身近にあった瞳。その内に秘めるものこそ違うものの、類似した物であることは違い無い。
ならば、僕がその激情を踏み躙ることは出来ない。
「雷魔導〈白雷槍〉」
只人が受ければ、一瞬とは行かぬものの、数秒あれば死に至らしめる程の威力を持った無情な程白い槍。それが五本。
「きちんと対処する事です。まともに受ければ死にますよ?」
一応、警告を言い示してから発射。
「聞かねでも知ったる道理よ!〈グランドボール〉」
僕の槍は先刻のお返しかと言うように、土球によって打ち消された。当たる、当たらない、何方にせよ、問題は無い。その間で次の術式の準備は終わるのだから。
「黒く 深く 世の終わりにも等しき闇」
「クッ、させてなるものか!」
開始から僕が初めて使った詠唱。相手は驚き、慌てながらも反撃に打って出た。無詠唱だからが、先程よりも小さい金色槍が無防備な僕を狙う。
並行詠唱があるので対処しても良いが、ここは勝手に出てきたコア達に頼むとしよう。恐らく、術式に釣られたのだろうけど。
「黒色は原初の盃の一つを盗み その遍くを我が物とする これなるは忘れ去られし破神の原罪 その一端 今、古く、遠い遥か彼方より来たれ」
着々と紡がれる詠唱を他所に、槍はビスケットがこどく顎門によって噛み砕かれていた。
その後にも幾つもの魔法が放たれたが、悉くがコア達によって発生を止められたり、吸収されていった。
「永劫にも等しい時を経て 尚朽ちず滅びぬ力 〈偽称・虚無が一 崩心〉
僕が行使した術によって起こった現象は一つとして無かった。外野からは困惑の声が上がる。そしてその声は更に大きくなるだろう。
それもその筈、今から三男坊が倒れるのだから。
こうして、様々な思惑が絡まった事態は僕の勝利という形で終局を迎え、学院更には社交界に広まった。
神童の再起という噂話共に。
何かこれ以上書いたらこの話の質が下がる気がするので、短めですがおしまいです。
次回はシンリアとの会議がメインになる筈。
そして猛烈に設定を吐きたくなったので吐きます。
作中の第二皇女殿下の龍器、布都御魂ですが、今の世界の根幹に坐す■■■の七天の内一人が振るっていた武器の内の一つです。龍器とは本来なら龍人族の生き様、魂を直に表す物ですが、第二皇女殿下の場合は違います。
彼の大太刀は生きている。故に、今ひと時の間、龍器として形を成しているだけに過ぎない。何か彼の大太刀を突き動かすのか、いずれ明かされるであろう。




