第八話 二つ名。(中)
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「――だが、君は諦めなかった」
フライガル卿はジッと私の目を見る。瞳が子供みたいにクリクリしてる。
それに目に熱があるって言うのかな、本心から私に気持ちを伝えたいってのが凄くわかる。
でもそんなに真っ直ぐ見つめられると、正直いって少し困る。照れてしまう。溶けちゃう。
ここでふっと微笑みの一つでも自然と返せれば、逆にフライガル卿を魅了できたりするのかもしれないが、私はそっと斜め下に視線を外した。ワタシニハムリダヨー。
ずっと見つめ合うのは無理だったけど、それでもお話はちゃんと聞き逃してない。
「敵は一万の魔物。その時の君がどれだけの恐怖を抱いたまま戦地へと赴いたのか、誰にも分からない。だが、それが並大抵の覚悟で無い事だと、見送った全ての者達が分かった。そんな君の振舞いは気高く。聖祈士の鑑であると言えるほど素晴らしいものだったそうだ。君は我々の誇りだ。君の様な心を持つ者こそ、私は真の聖祈士と呼ぶのだと思う」
改めて言われると一万の魔物とかってやっぱり怖い。私だったらすぐに逃げ出してると思う。
この体の子は凄く勇気がある子だったんだね。偉いなぁ。
てか、フライガル卿も大絶賛で褒めちぎってくる。そこから伝わる想いの強さが自分の事の様に嬉しい。
この子にもちゃんと伝わってるかな。私もいっぱい褒めてあげたくなったので、なんとなくお腹の辺りをナデナデしておいた。別にお腹が痛いわけじゃない。胃腸は強いよ私は。
「君がどれだけ激しい戦いをしたのか、それを目にした者がいなかった事だけが、本当に残念でならない。広めるまでもなく国中に知れ渡っている事とはいえ、君の功績はもっと国主体で祝い讃えるものとなっていてもおかしくなかったのだ……それなのに"変な勘繰り"をする輩達のせいで、うやむやに……」
おや?フライガル卿の言葉尻に、不穏な単語が零れ落ちたのを私の愚耳が拾ってしまった。
そして、私に聞かれたと気づくや否やフライガル卿はハッとして、しまったという様な顔になった。
おやおやおや?どうやら口が滑って、本当は口にするつもりが無かった部分まで言ってしまったという事みたい。
イケメンさんは慌ててもイケメンさんのままだなぁと思いつつ、それならばと、ここで気を遣って聞こえなかった体を自然と装い、難聴系に振る舞うのもまた、主人公の資質である。
「"変な勘繰り"、ですか?」
だが、そんな資質を持ち合わせていなかった私は、ごく普通に聞き返していた。
何やってるの!?やっちまったな私ーッ!!
「ああ、いや。それはその……」
ほらぁ、さっきまで明るかったフライガル卿の表情が、また少し愁いを帯びた悲し気な感じになってしまったよ……。まあ、これはこれで脳内保存するけど……。
それに話の流れで、さすーがの私も何となくピンときましたよ。
誰かが活躍した時、それを良く思う人がいれば、そうじゃない人もいるって事でしょ?
光ある所に影アリ。みたいな感じだよね?あるあるだよね、あるある。
ドラマで培った経験、ここで活きる。なお人生経験さんは未だに準備中です。
ふふふ、それにそこら辺の軽い悪口程度なら、私にとってはむしろご褒美でしかない。
だが、『ドМなんで平気です!』って言う訳にもいかないから、ここは少し言葉を変えて全然気にしてないアピールをする。さすがにフライガル卿でもドン引きするだろうしね。
私の事をこんなにも案じてくれているフライガル卿の心労を、少しでも軽減してあげたい。私なりの気遣いがたっぷり詰まった言い回しをとくとご照覧あれ!
「……フライガル卿。私ならば平気です。例え何を言われたとしても、それを自分の糧(ご褒美)に出来ます。だから、安心してください。あなたに悲しまれるのは私もツラたん――ゲフンゲフン。辛いですから……それに今は、この美味しい紅茶と一緒に、貴方のお話の続きをもっと聞かせて欲しく思います(ニコ)」
「アマゴリア卿……君は……」
決まった。でも、ピクピクと表情筋が揺れる。自分的には一生懸命微笑んでいるつもりだ。
頑張ってはいるけど、なんか少しだけドヤ顔ぽくなってしまっている感があるのは大目に見て欲しい。
だがそんな私の不器用な気遣いもなんとか通じたのだろう。フライガル卿は感銘を受けてジーンとしている雰囲気である。
深読みされると"言葉攻めは好きだから平気です"って言ってるのに過ぎないのだが、フライガル卿の表情を見る限りでは深読みはされてない。大丈夫だと思う。ドキドキ。
「(なんて健気なんだろうか……ここまで綺麗な心の持ち主を、私は見た事が無い。君の指導聖祈士として、私は今心が引き締まる思いに包まれている。君の事をもっと知れば、周りの聖祈士達もきっと私と同じ想いを受ける筈だ。予感だが、君はいずれ聖祈士達にとって、いやこの国にとっても大事な人物になる。そんな気がしてならない……君はやはり失ってはならない存在だ……)」
私がそんな不器用な微笑みを浮かべていると、フライガル卿はまた笑顔を見せてくれた。やったね!
だがその時、私の薄れ行く記憶が確かならば、予想外の事態が起こった。
いや、予想を遥かに超える素晴らしい出来事が起こったのだ。
ななな、なんと、何を思ったのか、フライガル卿が突然、私の事を、ハグして(抱きしめて)、くれたのだ。
「君が生きていてくれて良かった。諦めずに居てくれて本当に良かった……」
そして、フライガル卿は私の耳元で何やら素晴らしい事をお話してくれている事も分かった。
が、耳と背筋が物凄くゾクゾクした事に気を取られ、お話の内容までは全く覚えて無い。
ごめんなさいフライガル卿。耳はダメです。ダメなんです。あなたのお声が良い声すぎました。
ありがとうございます!本当にありがとうございます!!一生の思い出間違いなしです!!
そして、私の意識はその甘美なる刺激に耐え切れず、すぅぅぅーと次第に薄れていった。
『がんばれッ!頑張るんだ私ッ!一秒でも長く!!少しでも長くこの事を記憶に焼き付けるんだ!!』と、小さくデフォルメされた私の妄想応援団が頭の上でぴーこらひーこら一生懸命応援してくれている。
だがしかし、悲しいかな既に私のライフは0であった。
結局、私はハグ耐久二秒で限界を迎えると、真っ白になってそのまま夢の世界へとフライアウェイ。
気を失う寸前、私の心に浮かんだ歓喜の言葉(叫び)は何故か『ハッピィィーー、ニュゥゥーー、イヤァァァーー!!』であった。
良い夢が見れそうです。
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またのお越しをお待ちしております。