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春が来た ー雨の日の出会いー side:Woman




春が来た。


花が咲いて


冬よりも、騒々しくなる季節。


奪ってばかりの私には関係のない季節の巡りだったけど。


或いは、お兄ちゃんがいなくなってからそんなの意味がなくなっていたけど。




私は、望んでこの稼業に居る訳じゃなかった。


私を苦労して育ててくれたお兄ちゃんを殺したヤツを始末したかっただけ。


物心ついたときから、お兄ちゃんしか私には居なかった。


そのお兄ちゃんを殺したヤツを始末した後も、ずるずるとこの稼業に居た。


過程で、お兄ちゃんがしていたことを知ったけど。


それくらいでやめる気もしないし、ね。


だから、私は誰かのものを奪う稼業に。


それ以外に、知らなかったから。


何処か、霧雨のように鬱陶しくもまとわりつくものだった。


何時かは、誰かに討たれて死ぬのかと思ってた。


それも悪くないと思ってた。


あの坊やに会うまでは・・・・・・・・。








その日の午後は、霧雨だった雨も、


日付が変わる頃には、土砂降りだった。


表のプログラマーの仕事とクラッキングで


気付いたら、日が暮れていたと言う有様だった。


腹も空いたが、あいにくカップ麺一個すらなかった。


辛うじて、ビールぐらいだが、空き腹に詰め込みたくはない。


土砂降りであっても 腹は空く。


朝まで待つなんてことはできなかった。


弁当と、幾つかのレトルト、ペットボトルのお茶と雑誌を買って


住居にしているアパートへショートカットする為に、公園を突っ切ろうとした。


ベンチに、誰か倒れているようだった。


何時もなら、無視してた。


間違いなく、一点も曇り無くそう言える。


繁華街、言いかえれば、裏に近くそんな罠なんて珍しくないのだし。


だけど、その日は、気になった。


顔を覗き込むと お兄ちゃんに何処か似ている子供だった。


少なくとも、私よりは、十は年下の。


なんとなく、拾った。


拾って、ビルの住居として使っている部屋まで担いで帰った。


私より、頭一個分低くて、それを入れてもとても軽かった。


濡れた髪と身体を拭いて、着替えさせて、ベッドに放り込んだ。


捨てきれなかったお兄ちゃんの遺品を着せて。


随分細っこい身体だった。


お兄ちゃんの服の丈が余ってたから。


大爺に、連絡したら、『坂上航じゃろ』と言われた。


この坊やは、病院を抜け出して来たらしい。


私は、その時切実に、空腹と眠気に襲われていたから、


とっと、弁当片付けて、シャワー浴びて、ベッドに潜り込んだ。


次に起きたのは、坊やの悲鳴みたいなので起きた。


『気分は悪くないです。


 ・・・・此処何処ですか?』


なんて聞いて来た。


私のうちだってコトと、坊やを拾って来たことを告げると、


土下座でもしそうな勢いで、こう頼み込んで来た。


『事情はいえませんが、住み込みで仕事手伝わせてください』


もちろん、怒った。


子供をかまわないとは言え、ちゃんとした親と


弟想いの優しいお姉さんの居るようなヤツが、此処に住むべきじゃない。


まだ、光の下に在れるんだから。


だけど、最後には折れてしまった。


なんとなく、お兄ちゃんに似ているから、だったのかもしれない。







それから、坊やは、初夏が来るまでいた。


坊やには名前しか、教えなかった。


極力、血の臭いは、外で落としてくるようにした。


少なくとも、汚したくはなかったから。


坊やは、病院以外で過ごしたのはそれが初めてのようで


小動物みたいに、わくわくしていた。


たまに、セクハラモドキを仕掛けたりして、


穏やかに時間は過ぎていった。


でも、限りがあるのは理解していた。


坊やに、大きな発作がくれば、病院に入れるしか無いだろう。


だから、日頃から、


(記憶喪失で、警察に連絡しようにも、嫌がったからしてなかった)と


そんな風に、口裏合わせてた。


でもね、こんな血腥い稼業に似合わず、


少しでも、こんな穏やかな日々が


日常でも良いなんて思っていたんだよ?



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