春が来た ー雨の日の出会いー side:Boy
春が来た。
花が咲いて
小鳥達も盛んに歌う季節
一年中、温度管理のされた白い部屋に居る僕には関係ないことだけれど。
僕には、実感できないことだけれど。
僕が、白い部屋を抜け出すのは、そんなに珍しいことじゃない。
幾ら、心臓が弱くても、
・・・幾ら、定期的に投薬が必要でも、そこは、健全な高校生。
あんな監獄モドキに、こもってられない。
あんな籠の中になんかいられない。
あの日は、霧雨にどうしても触れてみたくて。
少しづつ貯めていた薬とお金をディーパックに詰めて
姉が差し入れてくれた、ジャケットを羽織って飛び出した。
もう、戻るつもりは無かった。
だって、あと三回、大きな発作が来たら、おしまいだってコト聞いたから。
せめて、もう少し色んなものをみてから死にたいじゃない?
死ぬのが避けられなくても。
死ぬのが間近であったとしても。
だから、飛び出した。
別に、死んでも良いとは思っていた。
あの人に会うまでは・・・・・・・・。
僕は、病院から見える繁華街までどうにか来た時点で、力つきて、倒れた。
公園だったし、雨だったから、誰もいなかった。
やっぱり、入院も長いと体力ないね。
出るときは、霧雨だった雨も、土砂降りに
時刻も、午後から、翌日になっていた。
少しづつ少しづつ、意識が無くなって・・・・・・・。
少しづつ少しづつ、雨の音が遠くなって・・・・・・。
・・・・・・・・・・途切れた。
次に、起きると、見覚えの無いベッドの上に居た。
配管もむき出しの恐らく倉庫としてたてられたそういう部屋に見えた。
ものも少なくて、ベッドとパソコンの置いてあるデスク。
成人男性でも人抱えはありそうな古い宝箱みたいな衣装入れ。
大きな家具はそれぐらいだった。
『起きたの?
気分、悪くない?
坂上航くんだよな、大爺のデータベースの情報だし。』
となりに、タンクトップにホットパンツだけと言う。
健康な高校生でも、かなり心臓に悪いと思う格好だった。
栗皮色の髪を背中まで伸ばして、あっちこっちにハネたパーマ髪。
ハシバミ色の鋭い目つきの体格のいい女性だった。
女性にしては長身で、僕よりも頭一つ分ぐらい、大きな人。
・・・僕が、幾ら望んでも、手に入れられない健康的な身体の。
病院からの捜索を頼まれた人かって聞いたら、違うっていわれた。
『あたしは、奪う方だよ。
病院とは関係ない。』
僕は、渡りに船だと思った。
住み込ませてもらいたいってことを伝えた。
そしたら、怒られた。
だけど、僕は戻りたくなかった。
あの白い監獄に。
それから、僕は初夏が来るまでそこにいた
女性は、來奈さんと言うらしい。
それ以外は、何にも聞かないし。
それ以外は、何にも教えてくれなかった。
でも、僕は初めて、病院以外でそんなに長く過ごした。
薬をどこから持ってきてくれた。
ちょっとした料理と洗濯と掃除も教えてもらって、
しばらくすると、それが僕の仕事になった。
ライナさんが、たまに仕掛けるセクハラモドキには
ちょっと・・・ううん、かなり閉口したけど、
凄く凄く楽しかった。
ちょっとだけ、刺激的な毎日。
それが 日常になりかけた時、僕は、倒れた。
その瞬間、ライナさんにいわれたことを想い出した。
(記憶喪失で、何処の病院かも解らないし、警察に連絡するのも嫌がった)
これで終わりなのかな?
・・・・・・・・・・・・もう少し、もう少しだけ、過ごしたかったな。




