【カシト視点】聖女
カシトが右腕を失い、治療が落ち着いた頃、また砦に敵が攻めてきた。
「く、消耗した隙を見逃してはくれないか」
ダイグは血を失った為数日戦場には出てこないだろう。
だが敵の攻撃はやまない。
こちらを消耗させる作戦なのは目に見えていた。
治癒士は疲労し、倒れる者が増えた。
兵糧も殆ど底を尽いている。
精鋭の優秀な兵士も側近のヘルムも失った。
片腕を失い自分でまともに戦うことも出来ない。
今日中に砦を占領されるかもしれない。
「援軍です!ホワイト王国のハルトナイト王子と!英雄ゼンキ殿も居ます!」
英雄ゼンキとハルトナイトが前に出て砦を攻める敵兵を後ろから攻撃し、一気に敵兵を撤退させ砦に入る。
「ハルトナイト・ホワイト、ここに参上した!」
ハルトナイトの横にはゼンキも控え、兵糧が運ばれてくる。
気になったのはハルトナイトの横に桃色の髪の女性が居る事だ。
戦場に耐えられるとは思えない優しそうな表情をしていた。
「カシト・グレーだ。援軍要請に応えてもらい感謝する!」
「しかし、けが人が多い。治癒士は10人、と公爵令嬢のエストを連れてきた」
「え、エスト・アイアンです。今すぐ治療を始めたいです!けが人を集めて欲しいです」
エストは頼りなく見えた。
だが、
「助かる。けが人をすぐ集めよう」
今は少しでも治癒士が欲しい。
すぐにけが人を集めた。
すぐに治癒士によって治癒が行われる。
「けが人をもっと集めて欲しいです」
言われた通りに集めるが何をしたいのかわからない。
もう他の者は治癒魔法を使い果たしたが、エストはまだ何もしていない。
エストの表情が変わる。
何かを覚悟したような顔。
ヘルムが死ぬ時と同じ顔に見えた。
エストはけが人の中央に立ち、魔法を発動させる。
エストからまばゆい光が発生し、部屋全体に広がる。
「エリアヒール!」
エリアヒール!
エストは聖女だったのか?
だが何故言わなかった?
訳が分からない。
エストがその場に倒れる。
カシトは走って左腕でエストを抱き上げる。
「倒れるなら言って欲しい!どうして聖女だと言わなかったんだい!?」
「ごめんなさいです。出来るかどうかわからなかったです。でも、死ぬ気でやったら出来たです」
「死ぬ気でやることは無いんだ!どうしてそこまでするんだい?」
「誰かの役に立ちたいです。今は、誰かに必要とされないと、苦しいです」
「役に立っている!十分立っているよ。もう休むんだ!」
エストは目を閉じて、目から涙が流れていた。
その後エストは毎日エリアヒールを使って動けなくなっていた。
エリアヒールを使わず休めとは言えない。
本当はエストを休ませたい。
でも、エリアヒールを毎日使ってもらいそれでも負傷者が増えていく。
今治癒士が足りないのだ。
エストに休ませるという事は、死者を増やすという事なのだ。
エストの事が心配だが時間が無い。
時間が無くて話が出来ない。
ゼンキとハルトナイトが来ても人が足りず僕が指揮を執り、砦の管理を続けた。
エストからは死を覚悟する強さ、そして繊細な弱さを感じる。
エストと少しだけでもいい、話をしよう。
本当は少しでも砦を管理した方がいい、だが衝動を抑えきれなくなった。
エストの元に向かうと痩せていた。
いや、痩せてきているのは気づいていた。
魔力を使いすぎるとこうなる。
良い状態ではない。
「エスト、大丈夫か?」
「……はい、大丈夫です」
嘘だ!
大丈夫なはずがない。
「そうか、治癒をやめろとは言えない。頼ってしまってすまないと思っている」
「気にしない方がいいです。私より、カシト王子の方がつらいです。分かっているです。もっと力があれば皆治して、カシト王子の右腕も治せたですが、無理みたいです」
「気にしなくていい。大丈夫だ。もっと自分を大切にするんだ!」
「自分を大切に、うん、そうです。少し休むです」
「すまない、休息の邪魔をしたね」
目をつぶるエストは涙を流す。
カシトは残った左の手を強く握りしめた。
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