【電子書籍配信記念の番外編】夏の星夜の舞踏会 前編
時間軸は、ルークの不眠が治った後です。
王族専用の宮殿に部屋を用意してもらってから、部屋がまた豪華になった。例えるなら、西洋のお洒落なアンティーク家具に囲まれたお姫様の部屋。
二十四時間ゴロゴロ寝て過ごせそうな、広いふかふかベッドはたまらなく気持ち良い。ルークの不眠を解決させようと、寝具にこだわり抜いた王家の並々ならぬ努力の賜物なのかもしれない。正直天蓋はいらないけれど、誰も私の眠りを妨げて来ないならあっても良いかな。
しかし一つだけ心を抉ってくるものがある。それはクローゼットにさらに追加してたくさん収納されたドレス。私のために用意されたその豪華なドレスの数々に、思わずため息が漏れる。
ドレスを着るとよくない事が起こる。
園遊会の時だって誘拐されて迷惑をかけた。私にとって、ドレスはやはり鬼門なのだ。自ら不吉を呼び込むのは気が引ける。
それに正直、こんな素敵なドレスを着こなせる自信が皆無に等しい。本当に宝の持ち腐れだ……しかしそんな私に、再び試練の時がやってきた。
就寝前に幻覚魔法をかける事はほとんど無くなったけど、ルークがコーヒーを淹れてくれる夜のブレイクタイムはあれからも共にしている。そんな夜の御褒美タイムに、唐突にルークが言った。
「リア、今年は夏の星夜の舞踏会が開催される年なんだ。そこで俺と一緒に、踊ってくれないか?」
「夏の星夜の舞踏会とは?」
「カレドニア王国では五年に一度、ファントム座が輝く星夜に舞踏会を開くのだ。そこで素敵なダンスを披露したペアには、精霊の祝福が与えられると言われているんだ」
そういえば年の始めに、精霊王様がダーツでその年の祝福担当の精霊を数人決めていたな。
お師匠様が「当たるな、当たるな」って手を合わせながらブツブツ言っていたから記憶に残っている。当たったら確か、手分けして各国で決められたイベントの時に祝福を与えないといけないからすごーく面倒らしい。
「誘ってくれるのは嬉しいのですが、私踊れませんよ?」
自慢ではないが、前世でフォークダンスしか踊ったことない。しかも男子の数が少ないからと問答無用で毎年男役やらされたな……
「まだ時間はあるし、練習して基本さえ抑えれば大丈夫だ。後は俺がリードするから。リアはそのまま身を委ねてくれたらいい」
「分かりました」
こうして、王子の空いた時間にダンスレッスンをつけてもらうようになった。
◇
ダンスレッスンの日は、鬼門のドレスを身に付けなければならない。
「あの……毎回このヒラヒラしたドレスに着替えないといけませんか?」
正直、ドレスはあまり着たくない。落ち着かなくてそわそわする。
「着慣れておかないと、本番で困るかもしれないだろう?」
「それはそうですが……」
普段楽な服装ばかり着ているツケだろうか。世の令嬢達はこんなにキツいコルセットを付けて、よく優雅に微笑んでいられるものだ。
「私が着たら、おかしくありませんか?」
ルークが馬鹿にするわけがないとは分かっているけど、どうしても心と体が萎縮してしまう。
「俺には世界で一番可愛く見えるけど?」
踊りながらそんな事を笑顔で言われて、動揺してステップが乱れる。バランスを崩して倒れそうになった所を、ルークが何無く受け止めてくれた。
「大丈夫か?」
心配そうに顔を覗き込まれて、心臓が飛び出そうになった。
「はい、ありがとうございます」
「なぁ、リア。どうしてドレスを着るのが、そんなに嫌なんだ?」
「それは……」
「まさか、誰かに何か言われたのか?! 安心しろ、もしそんな奴が居たら俺が懲らしめてやるから」
ルークの言葉が胸に染みて、不覚にも少しうるっときてしまった。何も知らないはずなのに、前世の私が一番欲しかった言葉をくれるなんて。
誰か一人でも前世でこうして味方をしてくれる人が居たなら、私はここまで意固地にならなかっただろう。その場の空気を悪くしたくないからって、無理して演劇だって結婚式の余興だってやらなかったかもしれない。
「大変ありがたいのですが、それは不可能なのです」
「何故だ?」
「言われたのは、前世の出来事だからです。前世の私は、男みたいで可愛らしい服装なんて微塵も似合いませんでした。だからどうしても、ドレスを着ると過去の嫌な記憶を思い出してしまって……」
恥をかくくらいなら、最初から着なければ良い。それが前世で学んだ痛い教訓だった。生まれ変わったのだから姿形は変わっているはずなのに、それでも根強く私の中にあの時の悪夢が残っている。
「だったらそんな記憶思い出す間もないくらい、俺が何度でも可愛いって言ってやる。綺麗だ、よく似合っている。今のアンタは世界で一番可愛いよ」
ルークの真っ直ぐな眼差しに捉えられて、思わず顔から火が出そうになった。それと同時に心にあった不安がすっと解けていくような、不思議な感覚がした。
「もしかしてルーク、浄化してくれました?」
「ああ。少しはスッキリしたか?」
「はい。心が軽くなりました」
「リアがドレスを着る度に不安になるなら、その都度綺麗に浄化する。だから少しずつ、俺と一緒に幸せな思い出に変えていこう?」
「何だか、貴重な光魔法を無駄遣いさせてしまっている気がして申し訳ないのですが……」
「そんな事はないぞ! リアは俺の不眠を治すために、たくさん幻覚魔法を使ってくれたじゃないか。少しくらい、お返しさせてくれてもいいだろう? 俺だって、リアの役に立ちたい」
もう十分すぎるくらい、お返しはしてもらっているんだけどな。でもこういう時、ルークは決して折れない。
「ありがとうございます。頼りにしていますね?」
「ああ、任せてくれ!」
下手に謙遜し合うより、頼れる所は頼った方が喜んでくれるっていうのを学習した。
その後ルークは私がドレスを着る度に不安な気持ちを浄化して、少し過度なんじゃっていうくらい褒めてくれた。そのおかげか前より自信もついて、逆にドレスを着るのが少し楽しくなった。
だってこちらを見て、「リア、よく似合っている。今日もとても可愛いよ」ってまるで初めて宝箱を開けた子供のように、輝いた笑顔で褒めてくれる。嬉しくないわけがない!
諦めていたお洒落にも少しずつ気を遣うようになってこうして一つ、ルークは私の苦手を克服させてくれた。
◇
夏の星夜の舞踏会当日。何故か夢の中にお師匠様が出てきた。
「やぁ、リア。久しぶりだね。今年の祝福担当はこの僕! 夢を司る大精霊ドリーマー様さ!」
いつから大がついたんですか。嘘はいけませんよ、お師匠様。
「僕の祝福が欲しいかい? 欲しいだろう? 人生百倍楽しくなる祝福をあげるよ! だがしかし、弟子だからと言って優遇はしないよ」
何も言ってないのに、なんか相変わらず腹立つな。
「ええ、勿論。審査は公正にお願いします」
「知っているかい? 地獄の沙汰も金次第って言葉を」
「不正は精霊王様のお怒りを買いますよ」
「か、軽い冗談じゃないか! 本気にされては困るよ!」
九割ぐらいは本気だったでしょう。お師匠様は相変わらずだな。
「でもペンライトを持って揃ったヲタ芸披露してくれたら、皆に祝福あげちゃうんだけどな~」
「もはや舞踏会ではありませんよ、それ」
「リア、何れは王妃になるんでしょ? そのうちこのイベント、ダンス発表会に変えてよ。そうしたらきっと、皆こぞって祝福を与えに来るよ。面白いから!」
「本当に精霊様達は、人間観察がお好きですねぇ……」
「面白い人間は見ていて飽きないからね。それじゃあ、精々頑張る事だね~」
お師匠様は帰っていった。なんて目覚めの悪い朝なんだ。
それにしてもお師匠様の祝福か……想像するとぶるっと寒気がした。あの最強のエンターテイナーみたいな人から祝福をもらったら、どんな堅物な人でも笑い上戸になる呪いにかかりそうだな。流石にお師匠様もそんな事はしないと信じたい。
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WEB版から加筆して、途中新しいエピソードも追加しています。
百餅こもち先生に描いていただいた素敵な表紙や挿し絵と共に、是非電子書籍版や絵ノベル版を楽しんでもらえたら嬉しいです。
初電子書籍化に伴い、特別書き下ろしの番外編を全4話ほど更新します。是非楽しんでいただければ幸いです。











