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竪琴宇宙のサクシード  作者: MAD-WMR
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4-9 フリーダム艦隊へ

「BN-イスト宇宙軍総司令官、入室。」


セリナが居ないのに中に入ると操船担当官が席から立ち上がりそう告げた。

それに合わせて他の人たちも立ち上がる。

俺が座るまで全員立ったままか。

慌てないで落ち着いてしっかりした足取りで席に着く。

これは俺が席に着くまでこのままなのか?

何かあるかセリナに聞いた方が良いな。


「各部署、報告を送ってください。

 緊急、異常項目は口頭報告をお願いします。

 光子ロケット加速準備は各自継続して進めて下さい。」


今各部署についているのは朝と同じ人たち。

それぞれの部署で能力の高い者たちが揃っている。

明確に能力によって第一勤務、第二勤務、第三勤務と別けられている。

もし戦闘になったらその少しの能力で助かるかもしれないからだ。

軌道戦に参加した宇宙船乗りも何人か含まれている。

俺の司令官の仕事については手探りの状態。

今はセリナが持っていた資料から宇宙船の船長としての仕事も行っていた。

そんな事をしなくても船は動くけれど組織的運用としては大切な事らしい。

相変わらず今回の事も纏めて資料化していくつもりだ。

船の管理も船長の役割ということで各報告を確認。口頭報告は無い。

情報分析からはセリナではなく他の人から報告が送られて来た。


そのセリナは5分程して指令室に入室、こちらへ一礼してすたすたと歩み寄る。


「BN-イスト司令官、光子ロケット各部の調整は予定通り完了しました。

 ギルドと合同で確認しており運用に問題が無いと確認出来ました。

 改良型光子ロケットの運用許可をお願いします。」


バインダーに挟んだ書類と端末を渡しセリナは後ろの席、ギードリアさんにも同様に渡す。

すでに聞いてはいるが書類を確認する。

光子ロケットの改造計画、運用には試験結果が必要で時間ギリギリだからセリナが現場確認したそうだ。

安全面や耐久性などすべての項目をパスしているので運用許可にサインをする。

こういう確認の仕事も行政官の仕事らしい。

俺とギードリアさん、、両方のサインが端末でも確認され運用許可はすぐに発行された。

情報部と操船部が確認作業などで少し慌ただしくなる。

時間的には十分に間に合うし特に変更手順などは無い。

どうせ時間があるのだからとドリンクサーバーからコーヒーを入れてくる。

管理して指示を出すだけの仕事なので航行計画を確認しながらのんびりと待つ。

宇宙船、ステーションを加速させるのだが時間を掛けて行うから長いスケジュールだ。

ここまでの核パルス推進での加速は順調、今は最大加速中。

まだ限界まではもう少しあるがすでにかなり加速効率は落ちている。

ここからは2度の光子ロケットによる加速で光速の20%、秒速2億kmを目指す。

作戦スケジュールとしては1日遅れだが光子ロケットが無理な場合に備えている。

使用して無理な場合は核パルスによる推進に切り替えて作戦は継続。

それを考慮してのスケジュールで1日遅れは許容範囲。


加速10分前、23:50になると船内放送、通信で警告される。

施設関連は物体の固定をいつもより厳重に昼の間に行われた。

各個室などについてはこうして警告している以上個人の責任。

俺とセリナはガーランドで生活しているからその辺りは問題無し。

ただ指令室内には緊張感が漂っている。

俺としては一度体験しているから気楽なんだがな。


「皆さん、光子ロケットの加速も普通の宇宙船の加速と変わりません。

 安全対策は万全ですし脱出の用意もしてあります。

 普段のように作業をしてください。」


そう言ってコーヒーのお替りを入れに行く。


「ギードリアさんも要りますか?」


自然とギードリアさんのスペースを通るので空のコップが見えた。

ギードリアさんは端末で書類仕事中のようだからついでにと聞いて見る。


「イスト司令官は落ち着いているのだな。さすがに宇宙船乗り。」


「加速数値など知っているからですよ。まだ本当に普通の宇宙船とほとんど変わりません。

 2度目の加速は注意が必要ですが今回は問題ないですよ。」


「慣れているのは大きいな。うむ。ましてリラ軌道戦を戦い抜いたのだからな。

 イスト司令官がそう言うのなら問題はないと安心したい所だな。

 せっかくだ。私もコーヒーを頼む。」


今は誰もが黙っている静かな状態なので大きな声ではないが良く聞こえたようだ。

軌道戦に参加していた者たちが同じ部署の人間に声を掛けている。

話をすればすこしは緊張も紛れるかもな。

前回の核パルスロケットの加速の時とは違って各部署の作業は多い。

部署内での報告が交わされ少し賑やかになる。


5分前になり状況の再確認、問題無しでスケジュール続行。

3分前確認も問題は無し。そうなると指令室の真剣度、緊張度はより上がってくる。


「動力部、推進部への通信を常時接続に変更。問題報告はありません。」


「加速までのカウントダウン開始。」


情報部、操船部からの報告。


「事故に備えた人員待機は完了しています。」


兵装管理部は今回ほとんど仕事が無い。

救急、消防関係者と事故発生時の補修要員の管理が仕事だ。


ガーランドに搭載されているのと同サイズの光子ロケットによる加速が始まる。

ステーションの質量はガーランドの30倍以上。

質量差からガーランドほどの加速はされない。むしろ丁度良い加速になるはずだ。

さてカウントが1分前に近付いた。


「こちらはBN-イスト宇宙軍総司令官。

 これよりステーションの光子ロケット加速を開始します。

 リラ星系で開発され正式採用、運用される初めての光子ロケットによる航行です。

 加速開始後、当ステーションは作戦行動を開始します。

 大変危険な作戦ですが成功と無事な帰還の為に皆さまの力を貸して下さい。

 その大変な作戦の前にリラ初の光子ロケット宇宙船に乗っている事を楽しんでください。」


まずは艦内放送を行ってセリナ監修の士気上昇用演説もどき。


「動力部、推進部のギルド員の皆さん、成功に向けて全力でお願いします。」


通信が常時接続になっているから最後方で今も作業中のギルド員にも声を掛ける。


「我々が成功させてみせるぞ。イスト司令官!」


コルストさんの返事があるがまだ話そうとしていたのに他の人が連れていったみたいだ。

まずは立ち上がり振り向いてギードリアさんに軽く会釈、頷きで返される。

一段高い場所からだが各部署に全員に向けてお辞儀をする。


「皆さん、成功の為に力を貸してください。」


数秒頭を下げて身体を起こす。

こちらを見ている者もいるので各席をぐるりと見渡す。

タイマーカウントは0になっている。


「フリーダム艦迎撃作戦開始します。」


「光子ロケット加速、開始。各部異常無し、光子推進による加速を観測。」


「ステーション各部、観測開始。歪みなどはまだ計測されていません。」


「加速開始1分経過、速度上昇中、予定数値にて推移。

 動力、ロケットなど各部問題無し。

 これより推進力を上昇。加速します。」


ガーランドの時のように大きな加速は感じられない。

コーヒーを飲みながらモニターで確認しているが確実に加速は続いている。

現在の時速速度は182万km、これを2億kmまで加速するのだ。

桁を二つ上げないと行けない。

ここからが長いが一気に加速すればステーションと乗員に被害が出る。

ガーランドの時と同じで小さな加速を続けて速度を蓄積していく段階。

緩衝用の発生重力が大きくなっているのから体感出来る加速が無いだけだ。

ガーランドの時はセリナがすべて制御していた。

とんでもないセリナが制御しているなら大丈夫と安心していられた。

何かあっても物質生成機があるからどうにか出来るんじゃないかというのもある。

今回はそんなセリナという切り札は使えない。

動力炉と推進機に張り付いているギルド員が上手くやってくれるのを願うしかない。


航法コンピューターは大型システムで構築してありリラでは最高性能のものだ。

そのサポートを受けて慎重に操船部が速度を上げていく。

状況を監視している者、操船にミスが無いかサポートする者。

実際に操作を行なう操船担当官は輸送船の操縦担当。

軌道戦にも参加していたからか落ち着いて操作しているようだ。

ブロック船と違って自分の操作で船の傾きとかが感じられる状態では無い。

他の2人にステーションの船体状況を聞きながら問題がなければさらに少し加速を繰り返す。

加速した後はギルド員に動力、推進機の状態を確認するのも忘れていない。

出来るだけ速度は上げたい。

ただ速度指示ではなく人体に対して1G加速まで。

そこまでの速度で加速していくのは短時間、後は少しずつ落とし0.5G加速を維持する。


もちろんそれだと加速が遅いので大きな加速を一定間隔で実行する。

乗員全員が専用の耐Gシートに座り加速するからちゃんと時間が決められていた。

初回は6時間後、06:00。指令室のシートは対G仕様だから移動はしない。

カウントダウンから加速が開始されると身体が押し付けられていく。


「現在2G加速中、推進、動力問題なし。」


「船体、船内に異常無し。」


「操船担当官、1Gずつ上昇してください。

 問題が起きなければ5G加速まで上昇、予定通り3分維持し加速度を落としてください。」


「加速開始します。」


事前に館内放送で警告したのは同じだが今回が本番。

5G加速はかなり大きな負担だ。

シートに押し付けられほとんど動けない状態になる。

身体的に問題が発生した場合は緊急連絡が出来るように耐Gシートは作ってある。

50人程が1部屋に集まっているから問題が起きても誰かが反応するだろう。

身体的な問題は起きず報告もなかった。

各所で固定がゆるい物体が倒れたとかの問題は起きたが想定内。

食堂では朝食の鍋が転んだらしく掃除が大変だったようだ。

加速終了後に問題発生は予想されていたので各部署で対応。

まだ加速は行なうので次に向けて対策も行なう。


18:00にも追加加速は行われこれは毎日同じスケジュールで繰り返される。

朝6時と考えれば時間帯が早いがステーション内の昼夜時間はそれに合わせて調整されている。

朝4時が日の出に設定されているから早朝では無い。

ステーションは加速が続けられ5回の追加加速を終えると時速5800万kmを超えた。

光速換算だと光速5%を超えている。それが現在のステーションの速度だ。

正確には光速は時速10億8000万キロ。

俺は面倒だから細かな計算が必要ないなら光速は時速10億キロと考える。

11億と考えるべきなんだろうがぱっと計算するには不便だ。

細かな数値が必要なら正確に計算すれば良い。

この段階でフリーダム艦の速度、時速350万kmを大きく超えた。


最初の加速が終わった後は大変だった。

あちこちから興奮した報告がギルド員を中心にあったりはするが問題は起きていない。

どちらかといえば光子ロケット加速の成功で浮かれる感じだ。

今このステーションに乗っているのがほとんど宇宙に関係する仕事をしているからだろう。

ステーション勤務で宇宙船に乗った事がほとんど無い人も一部乗っている。

それについては同様の立場なギードリアさんに説明を任せた。

ギードリアさんには事前説明していたがこんなにすごいとはと文句を言われたな。

光子ロケットというものがすごいというのはこの加速Gによって乗員に認識されたのは確かだ。


この加速期間中は12時間毎に司令室待機が入っている。前後4時間が勤務時間。

合間に休息時間、訓練や攻撃作戦の練り直しと日々同じような生活パターンになる。

長い航海だと一定のパターンでの生活は大事だと思っている。

ガーランドに乗っている時と同じような生活で俺は特に困っていない。

行政府が準備、対応してくれたので食事が無料で提供されているのが大きな変化でありがたい。

毎食暖かい食事を自分で準備しないでとれるのは本当にありがたい。

長期航海中は結局面倒で自分で料理はしないからな。

ステーションの改造中、準備期間から船内生活についてはあちこちに通達している。

軌道エレベーターステーションから娯楽施設などいくつかが移設されたのもあって今の所問題はない。

一部の大人たちの不満、酒量制限があるくらいか。

積み込める量に限りがあるから仕方が無い。


順調に航海しているステーションだがまだ加速は続けられる。

これまでは小型光子ロケットを最初は1其、途中から2其使っての加速だった。

いよいよギルドが新造した大型光子ロケットによる加速が始まる。

これが上手く行くかどうかが問題だ。

イストは一度光子ロケットを体験しているので落ち着いています。

ついでに長距離航海にもなれています。

でも他の乗員からすれば初めてのとんでもない事ばかりで違った印象でしょう。

乗員が多くセリナは人として行動しているので大人しい時期です。


加速Gについてはどこかで書いたかもしれません。

F1のコーナリング(曲がるとき)が5G。

アクロバット飛行も同様くらいらしく「訓練した人間が耐えられる限度」らしいです。

車が1Gで加速すれば時速100キロには約3秒で到達するようです。

体がシートに押し付けられるくらいの加速にはなっているはずです。

それでも負担では無くなんとかなっているはずで加速してしまえば問題ありません。

電車で走り出す時に倒れそうになるのが加速Gがあるから。

一定速度で走っている時はなんでもありません。

その速度へと加速するまでが問題です。

3G加速はジェットコースターくらいと考えれば耐えられない訳ではありません。

また繰り返すのはより速度を得る為です。

当然0kmから100kmより100kmから200kmに加速する方が大変です。

光子ロケットの場合最大速度は光速より少し遅いだけ。

まだまだ加速に余裕はあります。


あと光子ロケット関連で設定が違っていたので前話を少し修正しています。

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