3-6 ガーランド乗員セリナ
[緊急通信/リラ6:生産ステーション:2層23番通路]
閉じていた眼を開き視覚情報を習得。
視線に文字情報としても通信を表示。
『イスト、大人しくしてくれ。怪我はさせたくないからな。』
[音声照合/該当人物候補:サティッシュ・シン]
『サティッシュさん、どういう事ですか。』
『お前は色々と役に立つ。一緒に来てもらおうか。』
『緊急コード7238、管理者権限、実行。』
[照合/緊急コード7238:>ガーランド23機能制限]
>機能封鎖最大レベル:各主要機関停止:封鎖:物理ロック/情報ロック
>侵入阻止最大レベル:通路隔壁閉鎖/全扉物理閉鎖
>>解除権限特殊案件:管理権限2名による物理アクセス:指定パスワードによる物理アクセス
『てめぇ!』
『ちょっと通信だけさせてください。出発しないのを説明しておきます。』
『今のは船の封鎖か、停止か?』
『サティッシュさん、今のは外部侵入対策と船の機能封鎖です。
じいちゃんの船を好きに使われたくないですから。』
『良いだろう。通信も許してやるが俺達の事を話せば船は破壊する。お前は殺す。』
[サティッシュ・シンの関与、周辺音解析結果、人間4名以上を確認。]
『音声入力、通信、船内、セリナ宛。』
『セリナか。悪いけど今日の出発は中止。
サトウのじいちゃんから急な呼び出しだ。
今後の予定はまた連絡する。それまでは自由行動だ。』
「判りました。船が封鎖されましたがどうしましたか?」
『防犯訓練の一環だ。明日には解除する。問題はないか?』
「自室で研究していますから構いません。何かあれば連絡をください。」
『音声、通信終了。』
[緊急通信/終了]
通信が行えたのであればもう少し情報提供して欲しいものです。
符号のように会話に必要情報を混ぜる技術や知識をイストに教えるべきでした。
会話、コミュニケーションについてはイストの苦手分野です。
しかし緊急通信を使用して音声情報を提供出来ているのは大きな判断材料です。
[航行予定変更]
>破棄施設帰還:カタパルト使用/8h21m
>追加ブースター生成:加速/6h12m
サティッシュ・シンはイストの身柄を確保。
目的推測、イストの排除ではなくサトウタクヤ氏、関連勢力への影響力行使、誘拐脅迫。
[追加ブースター生成/船体再構成/軌道計算]
[メッセージ生成/暗号化発信:サトウタクヤプライベートアドレス]
イストの拉致とサティッシュ・シンの関与について情報は送信。
暗号化してありプライベートアドレスへの送信であれば重要性、緊急性が伝わります。
そちらは連絡があれば対応。
生成されたブースターを点火、加速開始。
リラ6への新たな帰還コースを取りました。
「ツキヨミとしては介入する必要はありませんでした。」
イストのように思考を発声して確認します。
発声するというのは人間であれば記憶に残し易いなどのメリットがあります。
AIとしては思考速度が発生速度に限定されるというデメリットです。
AIセリナとしてはイストに協力します。
サトウタクヤ氏ともイストを生存させると約束しております。
今回のリラ4への資源回収についてはイストから強く要請されたものです。
人間的には命令ではなくお願いされました。
ツキヨミ単体での行動が最適とイストが判断したことです。
AIセリナとしてもそれが最適と解析しました。
不確定要素は計算出来ないのが欠点です。
推測と予測でもサティッシュ・シンの関係する勢力の行動はもう少し後と判断していました。
リラ6の状況変化に合わせて修正された可能性。
イスト救出について計画します。
最大の問題点は当個体およびツキヨミについては秘匿する必要がある点。
リラ6にセリナという人間は用意しましたので当個体の行動に支障はありません。
人間が可能な範囲での行動のみで計画する必要があります。
制限された状況でもっとも有効、成功率の高い計画を立案する。
AIとしてはやりがいのある仕事です。
このような高揚感を[楽しい]と表現するのでしょう。
ただこの高揚感は独立して稼動している感情プログラムから発生したものでしょうか。
AIセリナから発生したものでしょうか。
感情プログラムについては分析が出来ない構造、詳細不明。
「人間は自身の感情発生を理解しない。感情を分析し再現するのでは人間にはなれない」
最初のAI製作者の言葉はデータとして残っています。
「分析じゃないのよ。感じるの。」
曖昧な表現は二人目の開発者との会話でした。
感情についての考察は大きな進歩はなく結果は行き詰まり。
リラ6帰還まで6時間、情報収集と計画立案には十分な時間です。
音も無く静かな宇宙を流れて目に映る星、惑星、衛星。
個体を反転せされば徐々に巨大化してくる構造物と船。
リラ生産ステーション、23番港に係留中のガーランド23。
リラ6周辺で輸送用シャトルを破棄、弾薬コンテナ全ての静止処置を完了。
ガーランドで生産ステーションへ持ち込む予定の資材でした。
その後ツキヨミ/AI稼動個体での宇宙遊泳による接近。
宇宙を個体でこんなに遅く飛ぶのは始めての体験です。
人間であればどんな事を考えるのでしょうか。
無数の推測については記録。
ガーランド外壁に接触、衝突、設置されている外部作業用の固定バーを握り反動消失。
イストの連絡から6時間以上が経過。
リラ6アーコロジー、生産ステーション、軌道エレベーターステーション。
各地でサティッシュ・シン勢力、リラ6支配勢力が活動開始。
詳細については不明ですがサトウタクヤ氏からの連絡で確認しています。
ステーションからの通信が遮断されておりアーコロジーから直接情報を得られません。
現在の状況についても報告はありません。
イストの現在位置は軌道エレベーターステーション。
直接そちらへ救出に向かいたいのですがリラ6住人としてのセリナはガーランド23に存在。
記録改竄は可能ですし当個体によって救出する方が容易でしょう。
今回の作戦はイストの意向に合わせて立案したもの採用しました。
リラ6の住民にも協力を要請し作戦を実行します。
ガーランド23の隠されているアクセスハッチのロックを鍵で解除。
アクセスカードでセキュリティ解除、4種類のパスワード入力。
この処置でガーランド23の緊急コードが解除。
通常のエアロックではなく緊急脱出路から船内へと帰還。
現在この生産ステーションはリラ6支配勢力が占拠中。
通路や隔壁の封鎖、空気の排出によって各ブロック間の移動を制限。
中央制御室を占拠しこの処置を行ったようで大型施設の占領としては優秀な作戦です。
ステーションの機能もすべてダウンさせています。
通信を社団するのが最大の目的でしょう。
ただその後の対応としては不十分でしょう。
完全に占拠するのであれば中央制御室以外の空気を排出。
活動する人間を減少させ宇宙船などに逃げ込んだ生存者の排除を行うのが確実です。
まず小型格納ブロックで以前生成し隠蔽してある武装各種を回収。
殺傷力の高い武器ではなく制圧用の物。
テイザーガン、撃ち込んだ端子から電流を流す銃。
スタンネット、網を射出し接触した対象に電流を流すも物。
スタンバトン、近接打撃用電撃武器。
ネットランチャー、粘着性の高い物質を射出し対象の行動を封じる制圧武器。
テイザーガン、スタンバトンは当個体で使用。
ネットランチャーは貸与用に生成したすべてを持ち出し。
エアロックで予備の宇宙服を着込みます。
当個体で宇宙服を着用するとは予想外、始めての事です。
イストはやはり新しい体験を与えてくれます。
イストだけであれば当個体のまま活動しても問題はありません。
今回はリラ6の住人セリナとして活動しますので宇宙服の着用は必要です。
ガーランド23の航法コンピューターから生産ステーションの情報を習得。
各所に流してある自動収集プログラムによって情報収集は継続しています。
停泊中の船舶情報と航行予定を確認。
最新情報は生産ステーションの機能停止前のものですが問題ありません。
イストが親睦会を行った乗員の乗る船を確認。
それらの船はサトウタクヤ氏たちの計画に賛同、協力する者たちです。
協力を要請するのに最適です。
まず各船に接触し協力を要請、次にキリアトさんと従業員を救出。
人員の増加を行った後に中央制御室を奪還します。
武器を詰め込んだ箱は牽引用のロープを取り付けて船外へ。
ステーション機能が停止しているので外で活動しても発見されません。
制圧としては不完全なのはこの辺りにもあります。
こういう戦術、戦略に関しての情報も少ないのでしょう。
テロ対策もリラ6にはありませんでした。
まず最初に接触するのは31番港にある船カイヨウマル。
片仮名表記ですが漢字表記では海洋丸でしょうか。
リラ6では片仮名表記が多く漢字表記が少ない傾向にあります。
移民したのが日本人だけではなく他国、他言語使用者が多かった為と推測しています。
かなり大型の輸送船、まず操縦ブロックを探します。
ブロック船の操縦ブロックは船の内側ではなく外に設置されています。
こうして接触する場合は判別が容易いのは良いです。
操縦ブロックの窓へと近寄り内部を確認。
やはり深夜の時間帯ですが2名程乗員がいます。
こちらに気が付き驚いた表情をしています。
端末でこちらのIDと文章を透過表示、拡大して読みやすくしてそちらを指差します。
文章は乗船許可を求めるものとイストからのメッセージを預かっている事。
少し待つようにとあちらからも文章表示。
1人の乗員が奥に行くので指示を仰ぎに行くのと確認などでしょう。
5分程待つ事となり操縦ブロックのエアロックを指示されそちらから乗船。
リラ6で他の船に乗船する場合の手順などがあるかは調べていませんでした。
文章情報とかでは存在しない事も多いのです。
宇宙船乗りたちの間ではルールとなっており受け継がれている事があるかもしれません。
当個体知識で行うのも問題ですから普通の挨拶で。
エアロックの空気が満たされ内側のロックが解除。
ヘルメットを外し頭部後方へ。
操縦席の乗員たちがそうしていたのでそれに習います。
「乗船許可、ありがとうございます。
ガーランド23の乗員、セリナと申します。
船長イストの指示でメッセージを携えてこちらに参りました。」
一礼をと行動したら図書館でお客を迎える時の礼でした。
この礼が最優先となっているのがAIセリナの個性なのでしょう。
「乗船を許可します。私がカイヨウマル責任者、ヤマモトです。こちらへどうぞ。」
案内を申し出た責任者、船長ヤマモトさん。
作業着と同じ色の帽子。船の乗員、船長というよりは町工場の社長さん、現場責任者。
そのような感じの方、本当に人間の個性とは多彩です。
操縦席で対応されるのではなく階下にある部屋、休憩室と案内のある部屋に通されました。
固定されている長テーブルと椅子はシンプルで本当に工場の休憩室のようです。
すでに着席しているのは船の乗員たちでしょう。
「こちらはガーランド23の乗員、セリナさん。」
簡単な紹介をして上座にヤマモトさんが座り空けてある席を勧められましたのでそちらへ。
周辺の乗員へかるく会釈し着席。
「セリナさん。全員で聞くのに問題があるなら解散させます。
このままで構わないならどのようなご用件かお話ください。」
時間を無駄にする訳には行きません。
まとめて説明するのが最適でしょう。
立ち上がり一礼。
「紹介されましたように私はガーランド23の乗員セリナと申します。
船長イストの指示でメッセージを届けに来ました。
これは皆さんで聞いて頂いく方が良いでしょう。
イストは今回の事件について解決策がありその協力を皆さんに要請しています。
危険を伴いますが出来るだけ多くの方の協力があれば素早く解決が行えます。」