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竪琴宇宙のサクシード  作者: MAD-WMR
13/82

1-10 物質生成/協力継続

小惑星での資源採取はセリナだけで行っている。

特に変化はなく俺が行っても意味が無かったからだ。

今回は着いて来たがまだ小惑星が残っているのにセリナが戻って来た。

作業は中止されたのだろうか。


「イスト、採取作業は終了しました。

 これより物質生成器の稼働を行います。」


「この小惑星は採取しなくて良いのか?」


「ある程度は採取しました。

 物質生成器の稼働に都合が良いので残してあります。

 質量は半分ほどになっています。」


通信機として渡してある端末をすでに使いこなしているセリナからデータが送られて来た。

表示されたものを確認すれば確かに大きさが半分程になったようだ。


「始めて構いませんか?」


「ああ。初めてくれ。」


「了解しました。」


採取については何度か見ているが物質生成器の稼働を見るのは初めてだ。

セリナは採取とそれほど変化は無いと言っていたが確認はして起きたい。


離れた位置に置いて来てあった筒の元へとセリナが向かう。

その筒がまず変化を始めた。

中心部から左右に展開し上下にも伸びていく。

細かく分割されているようで筒状であったのに長方形へと変わる。

筒の中が少し見えたがモニターや操作用の端末があるようだ。


「作業に必要ですので中に入り物質生成を開始します。」


そう告げたセリナが立方体の中に入ると入り口部分も閉じられた。

最初の変化は小惑星に赤い立方体が描かれていくこと。

これは予想は出来ていた。採取は緑、分析は青、生成は赤か。

立方体が一つ作られて消えたら、再び作られ始めたら次々に描かれる。

今回はすべての立方体が繋がってはおらず3箇所でそれぞれが大きさの違う塊になっている。

描き終わったようでその赤い立方体が同じ赤の光で満たされていく。

立方体が赤く染まるとすぐに消えず時間が経過していく。


設置してある物質生成器であればこの立方体は必要ないらしい。

生成する場所や分解する場所が決まっているからだ。

毎回こうやって立方体で座標確定するのも無駄が多い要素と言っていた。

その分どこでも使えるのがメリットだがAIの能力がないと難しいとも言っている。

この小惑星も表面にいるから判らないが移動している。

実は移動に合わせて調整しているそうでその辺りの計算が大変なんだと。

惑星であれば自転速度に合わせた調整とかを終わらせてしまえば後は調整は必要ない。


光が消えず待っている間にそんな話を思い出していた。

赤い光は一瞬で消えるのではなくて満たされ始めた場所から少しずつ消えていく。

立方体が消えた場所で見え始めた一か所には採掘機がある。

他の塊はというとひとつはスーツケース。もうひとつは小型のコンテナだ。

完全に立方体が消えて銀の立方体からセリナが出て来た。

立方体は巻き戻るように展開した時とは逆の動きで筒へと戻った。


「イスト、こちらに来て問題ありません。作業は問題なく終了しました。」


確かに見るだけだと物質生成も今までの採取や分析と色が違うだけで変わりは無かった。

呼ばれてから採掘機などが出来たセリナの所まで来てみた。

スーツケースは違うだろうからコンテナが通信機だろうか。


「物質生成器も万能ではありません。

 採掘機ですが物質部分、機械部分しか生成出来ておりません。

 これまでと同じように運用するには制御システムを構築する必要があります。」


「どういう事だ?」


見た所採掘機は問題ないように見える。

違いがあるとしたらまだ金属の輝きがある新しい状態という事だ。


「もし船を物質生成したとしても船のコンピューターは中身が無いということです。

 記録装置などは生成されていますがその中身がありません。

 コンピューター制御の中身、プログラムが物質ではないので生成出来ません。」


なるほど。確かに採掘機の制御は内蔵されたコンピューターで行っている。

手動でも動かせるがそれも機械側が制御したりしていたはずだ。

制御プログラムはバックアップがある。3台の同型機を船で使用しているからな。

宇宙船からデータを呼び出して作業機械へとコピーを指示。

しかしエラー、採掘機側が受け取っていない、反応していない。


「イスト、ゼロからの構築が必要ですので機械へ直接書き込む必要があります。

 準備は出来ているのでお任せください。

 当個体の機能も万全であり、リラ6の環境にも対応しております。」


気分良さげな自慢気なセリナの言葉。

そうかと思ってセリナを見てみるが別に今までと変わった感じはない。

いつもの衣装、いつものセリナだ。

まあ変わったとしても外見じゃなくて中身だろうからな。

と思ったらセリナは手首からケーブルを引き出して採掘機へと接続する。

さらに手元に透過表示のキーボードを表示してタイピングしていく。

今まではやっていなかったからこれも追加したものなんだろう。


「これで基本設定は終了です。

 機械類へとインストールするための設定用のプログラムを船にも保存しておきます。

 この採掘機は一部改変しており物質生成器に対応した仕様にしてあります。

 生成後のシステム構築が容易になっておりますが稼働などに変化はありません。

 ツキヨミで使われていたものを転用しただけですので気にせずご利用ください。」


「それは問題ないのか。」


「リラ6で失われたシステムかもしれませんが見つかって利用されても問題ありません。

 物質生成器の運用において作られたものですからそれに含まれる技術としておきます。

 ここで実行する作業は終了しました。」


「終わったならセリナの通信はどうなったんだ?」


「すでに通信機は稼働させ送信は行っていますが現在まだ反応はありません。

 距離によっては時間が必要ですので返信を待ちましょう。」


距離が遠いと通信が届くまで時間が必要になり返信も同様の時間が必要だ。

それを考慮してセリナの予定は立てられている。

セリナはコンテナを両手で持ち上げると左肩に担ぐとスーツケースを右手で持つ。

コンテナはそんなに軽い訳じゃないだろう。


「この個体機能も問題無いようです。

 宇宙運用に合わせた本来の機能が発揮できます。

 小惑星での作業は終了しました。船に帰還しましょう。」


外見だとセリナが機械なのは判らないからな。

中身は機械なのでどうやら人間より身体機能が高くしてあるのだろう。

セリナが指示をしたのか採掘機も船に向かって移動を始めたから俺も歩き出す。

こちらが移動しないとセリナも動かないからだ。


船に戻り採掘機とセリナの銀の筒をいつもの位置へと収納。

それからセリナが持って来たコンテナを開いて驚かせてくれた。


「なんでこんなものが作ってあるんだ。」


開かれた1メートルほどのコンテナの中にはずらっと並んだ何種類かの銃と弾薬。


「護身用と海賊対策です。コンテナを隠す場所も船にはありますから問題ありません。

 これは当個体が破壊される状況などで抵抗する為に必要なものです。

 イストが必要とすれば紛失しますし、この星系を離れる場合は忘れて行きます。

 リラ6の状況で必要になればお使いください。

 製造についてもリラ6で入手し易い素材を使用しております。」


海賊に対抗、反抗する為の武器という事だろう。

ここに来るまでも海賊対策は色々と話しをしていた。

それはセリナの機能を使ったものだけでなく過去に成功した反乱についての話もあった。

その知識、情報もちゃんと使えれば役立つはずだ。


「じゃあそのスーツケースが通信機なのか?」


「こちらは当個体の衣装です。長期滞在に必要かもしれませんので生成しました。

 通信施設は大型で隠蔽の必要がありますので小惑星内に作りました。

 こちらが座標と使用方法になります。

 存在を知るイストのみ使用出来ますが通信先は当個体限定となっております。

 必要であればご使用ください。自立稼働図書館セリナをご利用ください。

 これらはここまでの協力、情報提供への対価です。ご自由にお使いください。」


対人武器、連絡手段、生成器で機械を作る時のシステムもか。

セリナがここを離れた後の事を考えているとは思わなかった。

むしろ俺の方が何も考えていなかったな。

良く考えればもっと有効な物を作ってもらえたりしたのだろうか。




物質生成を行ってからの待機予定時間がさっき過ぎた。

セリナが行った通信の届く範囲は時間で約10時間。

詳細な返信に時間がかかる場合でも通信が届いた段階で受信したと即座に返信があるらしい。

余裕を見て24時間待機というのがセリナの予定だった。


「セリナ、どうなった?」


いつもの端末で作業していて特に変化の無いセリナに問いかける。


「通信可能範囲では反応はなく返信もありませんでした。

 当個体AIセリナはこれよりツキヨミの運用を継続しながら自己判断による行動を行います。

 ツキヨミの現在状況は不明の為、現在時点では所有権については譲渡出来ません。

 ツキヨミは運用計画に従って稼働させますがすでに余剰計画である宇宙探査の実行中です。

 探査については現在はリラ星系を調査中という事になります。

 以後、AIセリナの自由裁量権が大きくなりこちらから協力可能な範囲も大きくなります。

 当個体AIセリナ及びツキヨミが必要ないのであれば今後は宇宙探査を再開します。

 協力を望み継続されるのであれば代価の支払いが終了していないと考え現状を維持します。

 イストはどうされますか?」


セリナの連絡は出来ず所有権は変わらずか。

ツキヨミという船を自由には出来ないという事だ。

セリナはこのまま協力を継続してもいいと言う。


採掘機は戻って来た。

船のコンピューターが少し効率よく船を稼働出来るようになった。

対人用の兵器を提供してもらった。

今のリラ6と似たような状況で反乱を成功させた事例を教えて貰った。

こちらから提供したのはリラ6やこの船の情報とここまで連れて来た事くらい。

16日間セリナと過ごしたがそれほど問題はなかった。

物質生成器を使えて多数の情報を持っているセリナが有用なのは判ってる。


「セリナは俺の協力が必要なければ他の人に協力するとかは無いのか?」


「イストとは情報の秘匿などで協力関係を結びました。

 休眠状態から再稼働する状況を作られ当個体が人間では無い事を知っております。

 それらの状況から協力関係にあり特に他の人間と協力する必要はありません。」


「情報提供先として協力していただけじゃなかったのか。」


掘り出した事も関係していたのは聞いた事がなかった。


「文化にもよりますが当AIセリナが知る文化では義理人情は美徳とされています。

 いずれ別の要因で再稼動したかもしれませんがイストが要因で再稼動したのは確かです。

 早期の再稼動、未知情報を得られた事に感謝しています。」


義理人情で動くAIはおかしくないか。ただ今回はいつものような大げさな仕草が無い。

だから本当にそう思っているとは素直に信じないがそれで行動しているなら構わない。


「セリナはどうしたいんだ?」


こちらから聞き返すのは卑怯だろうか。


「イストが協力を望むなら現状を維持し今後も協力をします。

 必要なければツキヨミの任務に戻るだけです。

 イストが判断に迷っているのであればもう少し情報を提供しましょう。

 今後イストがどんな判断をするのかどんな行動をするのかどんな成長をするのか。

 これはイストを観察対象として考えた場合のAIセリナとして興味がある部分です。

 ツキヨミやAIセリナの持つ技術とリラ6の技術ではさほど差がありません。

 もう少し精査の必要はありますがかなりの情報や技術は提供出来ます。

 物質生成器を利用し自立稼働図書館セリナを活用すれば様々な事が可能でしょう。

 リラ6では失われた技術を提供すれば色々な利益を得られます。

 単純に売買を行うだけで大きな利益になるでしょう。

 綿密な調査、計画は必要ですがイスト単独でフリーダム艦を撃破するのも可能かもしれません。

 今後上手く人脈を作ればリラ6の支配者となる事も可能でしょう。

 どれも可能性というだけですがイストはどうしますか?

 何を目指し何を望みますか?」


なんだよそれは。

セリナの協力があってうまくやれば何でも望むままって事か。

何でも出来るなら何がしたい。


何がしたいか?


そう言われると意外と何も出て来ない。

ちょっとした事は沢山ある。

採掘屋として成功したいとか海賊はどうにかしたいとかもっと稼ぎたいとか。

セリナの言った事は余り興味が出ない、でかく稼げれば良いなというのはあるけどな。

でもじいちゃんの話を沢山聞いていたからかもしれないが自分で何かをして成し遂げたい。

セリナの協力を得て成し遂げるのも自分で何かをしたという事かもしれないけどな。


「悪いがすぐに何かをするという事はまだ考えてない。

 何かをするとしても自分でやるよ。

 セリナの協力が悪い訳じゃないと思うけどな。

 今何かしたいというなら海賊をどうにか出来れば良いという事だ。

 このままならリラ6の状況は悪くなるだけだ。

 リラ6だけでそれをするなら多分時間が足りない。

 それにはセリナに協力して欲しい。

 海賊をどうにかして何かしたくなったらそれから考える。」


セリナは頷いて最初にしたように両手をお腹の前で組み綺麗な一礼をする。


「海賊、フリーダム勢力に対抗しリラ星系の状況が改善されるまで協力を継続させて頂きます。

 この応答でイストという人間の人間性を再確認しました。

 欲望のままに当個体を利用するという事はあまり無いようです。

 人間は堕落しますので今後そうなるのであればそれも観察しましょう。」


「堕落するとかやめてくれ。そうならないようには気をつける。

 セリナ、改めてこれからもよろしく頼む。」


俺も立ち上がりセリナに習って一礼した。

今まで俺からした事は無かったからな。

握手も考えたがそれは少し気恥しい。


まずは海賊をどう出来るかを考えてやっていく。星に戻って他の人にも相談したい。

それとちょっとは自分の将来を真面目に考えたい。

漠然とした将来じゃなくてちゃんとした予定、考えられたらそれを目指そう。

ふとセリナに以前船長と呼ばれたのを思い出しそう呼ばれるようになりたいとは思った。


「セリナ、出発するぞ。船を発進させる。」


まずはじいちゃんがいつも言っていた事を真似てみた。



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