温泉街での再会
しばらくは依頼を受けずにのんびりしようという方針なので、あたしは単独行動をすることにした。
さすがに温泉街で危険はないだろうし、よっぽどのことがない限りあたしに危害を加えられる奴もいないだろうということでルクスも了承してくれた。
というわけでレッツお出かけ。
「るんるんたった♪」
温泉温泉。
温泉街に来たらやっぱり温泉巡りだよね♪
あたしはユーステリオの名物であるという、海と温泉が繋がっている場所へ行くのだった。
温泉と海の境目あたりが温くなったり冷たくなったりして面白い、ということらしい。
完全混浴なのでちょっと恥ずかしいけど、まあタオルを巻いておけば大丈夫だよね。
「ごゆっくり~」
番台の人にお金を払って、あたしはさっそく海温泉に突入。
脱ぎやすい服をぱぱっと脱いでしまって速攻で裸になる。
髪を結い上げてから、胸元にタオルを巻く。
さあ、いざ海温泉へっ!
「う、わあ……!」
綺麗なコバルトブルーが広がる海に、境界のように置かれた岩たちがあった。
水平線の向こうまで見渡せる景色は圧巻の一言だった。
空も海も蒼く澄んでいて、あたしは久し振りに景色に感動するという気持ちを味わっていた。
「気持ちいい~」
幸い、今の時間帯はあたし一人だった。
のんびりまったり海温泉を堪能できる。
岩の向こうにある海水に手を触れていると、やっぱ少し冷たかった。
「極楽だにゃ~」
素晴らしきかな温泉巡り。
あと三十分ぐらいのんびりしていようかな~。
ぼーっとしていると、新しいお客さんが入ってきたようだ。
男の人だとちょっとびくつくけど、幸い女の人のようだ。
ぼいんぼいんなおっぱいが遠目からでも揺れているのが分かる。
「おお、巨乳なり」
しかしこれが全ての間違いだった。
顔ではなく胸に視線が釘付けになっていた為、大事な部分から目を逸らしてしまっていたのだ。
「お久しぶりだね、ルティちゃん」
「………………」
ありゃ?
おかしいなあ。
なんか聞き覚えのある声がすぐ傍で聞こえたんですけど?
いやいや、まさかそんな筈は。
この世界におけるあたしの知り合いなんてほとんどいないし、まともに話しかけてくれる相手なんてそれこそルクスぐらいのものでして……
「こんなところで会えるなんて奇遇だよね」
「………………」
と、現実逃避したいのにギギギギ、と首を動かしてしまうあたしの怖い者見たさな性格が少し嫌になる。
「ああ、やっぱり……」
がっくりと肩を落とすあたし。
そこにいたのは間違いなくエレメントさんだった。
白い髪がタオルに隠れて、首元がすごく色っぽい感じになっている。
「どうも、久し振りです。エレメントさん」
「意外だね。てっきり認識した瞬間に逃げ出すかと思ったのに」
「……そうしたいのは山々なんですが、ここで形振り構わず逃げると、とんでもない醜態を晒すことになりますので」
温泉。
つまり、裸。
必死で逃げ出すという時に着替える暇なんてない。
全裸逃亡。
いやいや、無理。
有り得ない。
絶対無理っ!
「それはそれで面白そうだけどねぇ」
にやにや笑うエレメントさん。
とても意地悪っぽい。
「偶然、ということにしておきます。出来れば最後まで穏便にしてもらえるととても嬉しいですね」
「もちろん。私はこれでも温泉好きなんだ。そこを台無しにするような無粋な真似はしないと誓うよ」
「それは何よりです」
どこまで信用できるかは分からないけど、まあ安全保障条約っぽいものが成立した。
「いい湯だねぇ」
「そうですねぇ」
「景色も素晴らしいねぇ」
「同感ですねぇ」
「………………」
「………………」
ちょっぴり気まずい沈黙。
「どうしたのかな? じろじろ見られると落ち着かないんだが」
「あ、すみません。立派なお胸だなぁと思いまして」
「………………」
正直すぎる返答だった。
他に物言いがあったような気がするけれど、まあ正直な気持ちなんだから仕方がない。
この人は敵。
天敵だけど。
でもおっぱいだけは拝みたい。
というか崇めたいかも。
「………………」
やや呆れた視線を向けられてしまう。
「揉んでみる?」
「ぶはっ!」
タオルをほどいて両方のおっぱいを手で捧げ持ってそんな事を言われた日には、あたしの理性なんて飛びまくりますよエレメントさんっ!
いや、エレメントさまっ!
今だけは様付きで呼ばせていただきます!
もみもみもみもみ。
す、すごい!
両手に収まりきらないよこのおっぱいっ!
すごい!
あたしは今この世界の奇跡に触れているっ!
「はふぅ……」
「……ちょっと、人のおっぱい揉みながらうっとりなるのは止めてくれないかな……」
「あ、すみません。あまりに見事なおっぱいだったのでつい……で、あと五分ぐらい揉んでてもいいですか?」
「……面白いから許すけどね」
キワモノを見るような視線で観察されている。
いやもう、キワモノでいい!
これを揉み続けられるなら敢えてキワモノの汚名を被りましょう!
五分後……
「ごちそうさまでした」
ぺこり。
深々と頭を下げた。
「……食べさせたつもりはないけどね」
「いやあ、見事なおっぱいでありました」
「……それ、本来は男の台詞だと思うなあ」
タオルを巻き直しながら溜め息をつくエレメントさん。
「いや、だってあそこまで見事だと揉みたくなるじゃないですか。あたしもママのおっぱいをよく揉んでたんですけど、それはもう見事なもので。時々パパとの争奪戦になってたんですよね~」
「……どんな親子なんだか」
溜め息が更に大きくなった。
「今は幻術を使ってるみたいだけど、そっちがルティちゃんの本当の姿って訳かな。魂の姿とも言うか」
「あ、そういえば何で分かったんですか? この姿では初対面ですよね?」
以前は骨の状態で対面したのだ。
それなのに一発でバレるとは。
「姿が変わっても気配が変わる訳じゃないからね。私は死者の気配を間違えたりしないよ」
「……なるほど」
嫌な覚えられ方してるなぁと思いながらも納得するのだった。
「ルー坊は元気かい?」
「元気ですよ。昨日は一緒に温泉入りました」
「仲がいいじゃないか。そういう関係かい?」
「んー。どうなんでしょう。まだ違うような気がするんですけど、そのうちそうなるかもしれません」
「ルー坊のことが好きかい?」
「顔が好きですっ!」
「顔か……」
「だって美形じゃないですかっ! あ、エレメントさんもめちゃ美形ですよっ! おっぱいだけじゃなくて顔も素晴らしいです!」
「……いや、おっぱいの話はもういいから」
「うー……」
「何故そこで不満そうに唸る?」
「何となく?」
「………………」
ああ、すごくアホな子だと思われてそう。
アホじゃなくて美形が好きなだけなんだよ~。
あと巨乳も好きです。
「えっと、エレメントさんも温泉が目的でここに来たんですか?」
「……エレで構わないよ」
「じゃあエレさんで」
「うん。久し振りに温泉に浸かりたくてね。私はこれでも温泉好きなんだ」
「あ、奇遇ですね。あたしも温泉好きですよ」
「そうか」
「うん」
「ルー坊から私の話は聞いている?」
「まあ、大体のところは。師匠、なんですよね?」
「まあね。あの子は凄く見込みのある弟子だから」
「だからいつか仲間にしたかったんですか?」
「ほう……そこまで教えたのか、ルー坊は。よほどルティちゃんを信頼しているらしいな」
エレさんが少し驚いている。
「あたしは『死者』ですから。ルクスは生者を信頼しないけど、死者なら信頼するんでしょうね、きっと」
「なるほど。あの子らしいな。死者だって君のように自分の意志を持つものだったら裏切られることもあるだろうに」
「あたしはルクスを裏切るつもりなんてないですよ」
「改めてスカウトしようと思うんだけど、どうかな?」
「……言った先から裏切らせようとしないでください」
「駄目かい?」
「駄目です」
「ルティちゃんがそこまでルー坊に拘る理由は何だい?」
エレさんが核心に迫る質問を投げ掛けてくる。
あたしはどう答えるべきか少し悩んだ。
「うーん。何なんでしょう。美形だからっていうのが一番大きくて……」
「一番大きいんだ……」
やや呆れ気味のエレさん。
「だったら私でもよくない? 美形じゃない?」
「美形ですけど、でも性格悪そうですし」
ぴしっ。
エレさんの額に青筋が立った。
こ、怖い……。
「性格の悪さならルー坊だってかなりのものだと思うけど?」
「う……まあそうですけど……」
声が、声が震えてますエレさんっ!
怒ってますよね!?
ごめんなさいごめんなさい!
「実際のところ、何でかっていうのはよく分からないです。でもルクスと一緒にいるのは楽しいし、からかうと面白いし。だからこれからも一緒にいたいって思うんです」
「なんともまあ、不安定な理由だね」
「自分でもそう思いますけどね。ただこの世界にやってきて初めて深く関わった存在なんで、離れがたくなっているっていうのが一番大きな理由だと思います」
「この世界?」
エレさんが首を傾げた。
まあ普通驚くよね。
「あたしは異世界からやってきました。いえ、あたしにとってはここが異世界そのものなんですけどね。ちょっとロクでもない理由で殺されて、気が付いたらルディークの骨に宿っちゃてて……で、今に至る訳です」
「へえ。そうか。ルディークの骨は異世界人の魂を惹き寄せたのか。興味深いね」
「……うぅ。そのマッドサイエンティストっぽい視線はやめてもらえませんか? 怖いんですけど」
「まっどさいえんてぃすとって、何?」
「ああ、向こうの世界の言葉です。ええと、こっちで言い直すなら何になるのかな。とにかく好奇心の塊で道徳心を捨て去った人間、みたいな感じです」
「ああ、それなら確かに当たってるね」
「……少しは否定して下さい」
「ふふ。私は性格が悪いからね」
「うわ……根に持ってるし。マジで性格悪いですよね……」
「何か言った?」
「いえ! 何もっ!」
怖い怖い!
にっこり美女スマイルがこの上なく怖いよぅっ!
「まあ、いいか。それよりもルティちゃんの世界のお話を聞かせてくれるかな? ちょっと興味があるんだ」
「いいですけど……」
話が逸れるのに成功したところで、あたしはエレさんに元の世界のお話を聞かせてあげることにした。
魔法が存在しないことや、代わりに科学技術が発達していることなど、この世界との違いについて質問される度に、あたしは答えを返すのだった。
うまく説明できないあたしの言葉をよく理解してくれたエレさんは、納得するようにふむ、ふむ、と頷いている。
やっぱり頭のいい人なんだろうなあ。
「魔法が全く存在しない代わりに、機械技術が発達した世界、か」
と、エレさんは簡潔にまとめた。
「まあそんなところです」
「異世界から転生してくる魂というのも珍しいが、そういうこともあるのかな」
「かもしれませんね。当事者なのによくわかってなくて申し訳ないですけど」
「いや。参考になるよ」
「そうですか?」
「ああ。特に核兵器という、一切の魔力を使わずに一刻を滅ぼすものは面白い」
「物騒なものを面白がらないでください。エレさんは国を滅ぼしたいんですか?」
「まあ、退屈しのぎにはいいかもしれない」
「退屈しのぎに滅ぼされる国はたまったものじゃないでしょうけどね」
「使うかどうかは別として、牽制としては有効だろう? 私だって一国を滅ぼすほどの攻撃魔法は保有していないし、使わなくとも持っているというだけで脅迫材料としては十分だ」
「一回は使わないと威力を示せないじゃないですか」
「それもそうか。じゃあどこか適当な国を」
「やめてください」
基本の思考回路が物騒すぎる。
それからも楽しい話や物騒な話を続けた。
一時間ぐらいは話していたかもしれない。
「……さすがにのぼせてきたねぇ」
エレさんが真っ赤になりながら言った。
「そうですか? あたしはそうでもないですけど」
「そりゃあルティちゃんと私では身体の作りが違う。こっちは一応生身で、そっちは幻術だろう?」
「あ、そっか」
実質は骨だからのぼせることもないわけだ。
意外と便利かも。
「ノーライフキングでものぼせちゃうんですね」
「そりゃあね。不死身で強力な力を持ってはいるけど、弱点がないわけじゃないし。特にルティちゃんの零魔法なんて天敵だね」
「じゃあもっと鍛えます」
「喧嘩売ってる?」
「いえいえ。ただの自己防衛意識の強化です」
「可愛くないなあ」
「そんなことを言われたのは初めてですね」
「……たしかに見た目は美少女だけどね」
「それほどでもあります」
「……………」
謙遜しろ、という視線を向けられた。
ルクスと似た者同士だなあ、と思ってしまう。
まあ師弟なんだから当然なのかな。
「さて、じゃあ私はそろそろ行くよ」
「まだ温泉めぐりをするつもりならルクスと鉢合わせないように気をつけたほうがいいですよ」
きっとルクスはまだ警戒していると思うから、一応そんな風に言っておいた。
「ふむ。ルー坊か。久しぶりに一緒に入るのも悪くないな」
にんまりとするエレさん。
うわ、悪女の笑みだ。
「もしかして、ルクスの小さい頃に一緒に入ったりしてたんですか?」
「していたね。あの子は早くに母親を亡くしていたから、私にその代わりを求めていたようなところがあった」
「へえ~」
それはちょっと面白いエピソードだった。
エレさんに甘えるルクス少年。
ちょっと見てみたかったなあ。
「ちなみにルー坊のさくらんぼも私が頂いた♪」
「なっ!」
思わず立ち上がってしまう。
丸見えになってしまったけど、まあ女同士なので気にしないことにする。
がしっとエレさんの肩を掴んで、そして……
「ま、まじっすか!? そのあたりの話を詳しく! 是非とも詳細に!」
と、ちょっぴり鼻息荒く食いつくのだった。
いやもう、恥じらいとか全くありませんよ。
あのルクスの初めて……げふんげふん、もとい男になったエピソードなんていう面白いものを聞き逃す手はない。
たとえその相手が天敵であったとしても、是非ともお聞かせ願いたい!
「……とりあえず上がってからにしない?」
とエレさんが言うので、あたしたちは上がることにした。
お楽しみはこれからこれから♪




