家族の思い出と乙女心らしきもの
ヤンデレお姫さまから逃げ出して、第二十層ユーステリオにやってきた。
「わっ! 硫黄の匂いがする!」
「温泉地だからな」
「うん。別府とか思い出す」
「ベップ?」
「あたしの世界の温泉地」
「ああ、なるほど」
もっとも、あたしは別府よりも湯布院が好みなんだけどね。
家族旅行で高い隠れ家的宿に泊まったときの温泉は最高だったな~。
お値段も最高級だったけど……
「どこに泊まりたい?」
「そうだね~。近くに温泉が沢山あるところがいいな~」
「……どこに行っても沢山あるぞ」
「さいですか……」
どこに行っても沢山あるとはいえ、やっぱり選り好みはしたいなぁ。
となると……
「じゃあ、海の近くがいい。海を眺めながら温泉に入るって言うのもおつじゃない?」
「おお、それは名案だな」
「でしょ?」
「じゃあさっそく行くか」
「おーっ!」
こうしてあたし達は海岸沿い付近の温泉宿を目指すのだった。
温泉街といっても純和風の建物ではなかった。
どちらかというとヨーロッパ建築風の街並みと建物があり、実に壮観だった。
ルクスが予約したのはその中でも一際高級そうな、内装がぴかぴかとした宿だった。
ぴかぴかといっても宝石とかが沢山あるという意味ではなく、大理石がぴっかぴかに磨き上げられていてすっごく綺麗だという意味だ。
白と緑色の大理石で作られた宿は、まるでそこだけが違う世界のように輝いていた。
お値段も大変よろしい感じで、一泊が八千セルだった。
安い。
これで温泉と朝夜食事付きっていうのは破格だと思う。
部屋にたどり着くとこれまた素晴らしいものがあった。
「すごっ! ベランダに温泉がある!」
緑色の大理石で作られた浴槽は、とても綺麗だった。
陽の光に反射して、お湯が幻想的な色合いになっている。
「うわー! うわー! 早く入りたい!」
「一緒に入るか?」
「そうだね。じゃあ幻術解くね」
「解くな! そのまま入れ!」
「えー……」
「いいだろ。たまにはサービスしてくれたって」
「むう」
ルクスのむくれた表情が少し面白かったので、仕方なく一緒に入ってあげることにした。
もちろんエロ展開じゃないからね。
ちゃんとタオル巻きますからね。
ちゃぽん、と湯舟に入る。
「うあ~。気持ちいい~……」
極楽極楽。
「久し振りに入ったが、温泉はやはり素晴らしいな」
あたしは胸元からタオル一枚、ルクスは腰にタオルを巻いた状態である。
円形の湯舟に向かい合って、あたし達は温泉を堪能していた。
「そうだよね~。日本人ならやっぱり温泉だよね~」
「……俺はニホンジンとやらではないがな」
「細かいことは気にしなーい」
「………………」
湯舟によりかかってごろごろしていると、本当に極楽気分だった。
下に広がる温泉都市は、いたるところから湯煙が上がっていて、ちょっとした風情がある。
「……ちょっと懐かしいな」
思い出したのはパパとママと一緒に行った湯布院の温泉だった。
親子三人でのんびりまったりしていたあの時間が、今はとても懐かしい。
「今頃どうしてるかなー……」
親不孝にも先に死んでしまった……っていうか殺されてしまったあたしのことを、ちょっとは悲しんでくれたかな。
寂しがってくれてるかな。
もう二度と会えないけど、それでも大好きだったよって言いたかったな……。
温泉と共に家族の思い出に浸っていると、少しだけうとうとしてしまった。
あたしはその衝動にまかせて目を閉じた。
今だけは、家族のことを思い出したい。
目を閉じて、あの頃の記憶に少しだけ触れていたい。
「んにゅ……」
気が付くとあたしはベッドの上にいた。
「お、目が醒めたか」
「んみゅ?」
すぐ傍にはルクスがいる。
どうやらルクスに腕枕をして貰っている状態らしい。
「………………」
ルクスはガウンを着ている。
そしてあたしも同じものを着ている。
あたしはさっきまで一緒にお風呂だったわけで……つまり……
「っ!!」
あたしはすぐに起き上がってルクスを突き飛ばした。
「おわあっ!?」
ごろごろとベッドから落ちるルクス。
「な、何しやがる!?」
「み、見た……?」
あたしは胸元を両手で隠してルクスを睨みつける。
あたしがお風呂で眠ってしまったということは分かった。
そのあと眠ってしまったあたしをルクスが運んでくれてガウンを着せてくれて、そのままついていてくれたということも分かった。
本来ならば感謝するべき筋合いだということも理屈では分かっている。
だけど感情ではどうしても納得できない部分があるのだ。
女の子の恥じらい的な意味で。
着替えまで済ませられているということは、つまりあたしの……ぜ……全裸を……ルクスに……うぎゃーっ!!
暴れそうになるのを必死で堪えながら、あたしはルクスに問いかける。
返答如何では……
「うむ。なかなか立派なものだったぞ!」
達成感に満ちた表情でぐっと親指を立ててくるルクス。
「いやあああああっっっっ!!」
気が狂いそうになりながらもあたしはルクスに襲いかかった。
「ぎゃあああああっっっっっ!!??」
飛びついてくるあたしにマジビビりするルクス。
あたしはそのままルクスのガウンを剥ぎ取って、そして隅から隅まで拝んだ。
とくに下半身を。
具体的には長さとか太さとか●●とかそういうものを。
「………………」
「………………」
じー……
ガン見するあたし。
戸惑うルクス。
「よし。大体覚醒時の大きさは予測できた」
「何の話をしているっ!」
何の覚醒を意味しているかはご想像にお任せします。
全裸を見られて親指立てられたんだからそれぐらいはする権利があるということで。
……それにしても、あれはかなり……いや、何でもありません。
何でもありませんよ(汗)。




