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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第二十二話 お気楽な三男坊


 お気楽な三男坊。


 俺は、その立場を心から望んでいる。


 長男でもない。次男でもない。家を継ぐ重圧を背負う必要はなく、迷宮や国境のような巨大な役目を最初から任されているわけでもない。兄たちは優秀で、父上は健在で、マバール家は辺境伯家として十分に強い。


 なら、三男坊の俺は少しぐらい気楽に生きても許されるのではないか。


 そう思っていた。


 今でも思っている。


 いや、願っていると言った方が正しい。


 しかし最近、その気楽な立場こそが面倒事を呼び込んでいるような気がしてならない。


 当主ではないからこそ出せる。


 後継ではないからこそ前に置ける。


 まだ半人前だからこそ、断言を避けられる。


 若様だから軽く扱われず、三男だから重くなりすぎない。


 なんだそれは。


 便利すぎるだろう、俺の立場。


 自室の椅子に腰を下ろし、ギルは机の上に置かれた書類をぼんやり眺めていた。目は文字を追っているが、頭にはほとんど入ってこない。アバルディア家の使者、エレオノーラとの対面を終え、父上への報告も済ませた。大きな失言はなかった。少なくとも、同席していた文官はそう言った。


 だが、それで終わりではない。


 むしろ始まってしまった。


 使者の話を聞いた。


 アバルディア家の危機感も分かった。


 メガレア家がかなり強引に動いていることも分かった。


 ザザント家がこちらの動きを見ている可能性も濃くなった。


 つまり、面倒が増えた。


 そして俺は、その面倒の入口に立たされている。


「……やめたい」


 ぽつりと呟く。


 部屋の中にはレティシアがいた。


 彼女は俺の少し後ろ、窓に近い位置で布を畳んでいる。俺の呟きを聞いたはずだが、すぐには反応しなかった。たぶん、独り言として流すべきか、声をかけるべきか判断しているのだろう。


 そういうところも出来る女だ。


 俺ならすぐに反応して余計なことを言う。


 ギルは椅子の背にもたれ、天井を見た。


 天井は高い。


 貴族の部屋らしく、梁には細かな彫りがあり、燭台の飾りも凝っている。何度も見慣れたはずのそれが、今日は妙に遠く見えた。


 もういっそのこと、使者の前で盛大に馬鹿をやってしまうか。


 そんな考えが頭をよぎる。


 たとえば、エレオノーラの前でどうしようもない阿呆のように振る舞う。礼儀を少し外し、話の筋を理解できないふりをし、若様はまだ使えないと思わせる。そうすれば、俺は外交の場から外されるかもしれない。


 公式な立場は失うだろう。


 父上には失望されるかもしれない。


 上層部にも見限られる。


 だが、貴族男子である俺が殺されることはない、はずだ。


 たぶん。


 いや、マバール家の体面を大きく傷つけたら、かなり厳しい処分はあるかもしれないが、それでも命までは取られないだろう。俺は魔力も強い。血統も悪くない。貴族男子としての価値は残る。


 マバール家は兄たちがいれば安泰だ。


 ダル兄さんは国境砦を任されている。アル兄さんは魔力こそ弱めだが、迷宮をしっかり管理している。二人とも優秀だ。俺一人が表舞台から消えても、家が傾くことはない。


 なら、俺はどうなるだろうか。


 公的な役割から外される。


 会議にも呼ばれなくなる。


 使者の相手もしなくていい。


 帝国の皇位争いにも巻き込まれない。


 だが、貴族男子としての価値は残る。


 そうなると、裏でお家のために子作りだろうか。


 魔力持ちの子を増やすための役割。


 外には出さず、面倒な政治から遠ざけ、ただ家の血を増やす。俺の魔力量と魔力強度を考えれば、そういう扱いは十分あり得る気がする。貴族男性と子を成せば魔力持ちの子が生まれる確率は上がる。父親の魔力が強ければ、その上昇率も高いと考えられている。


 つまり、俺は家にとってかなり有用な種馬になる。


 ……ん?


 ギルは少し考え込んだ。


 お家のために、連日連夜、せっせと子作りして魔力持ちを増やしていく。


 政治はしない。


 会議にも出ない。


 帝国の使者とも話さない。


 面倒な書類も読まない。


 ただ、与えられた女性たちと子を成す。


 なんか、かなり希望に近い立場のような気がする。


 部屋でゆっくりして、飯を食い、風呂に入り、夜は女と過ごす。外の面倒は兄たちが処理する。俺は魔力持ちの子を増やすための存在として、大事に扱われる。


 悪くない。


 いや、かなり悪くない。


 もしかして、これは理想の一つなのではないか。


 そう思いかけた瞬間、胸の奥が冷えた。


 駄目だ。


 絶対に駄目だ。


 そんな立場になったら、まず間違いなくレティシアとは引き離される。


 ギルは天井から視線を下ろし、窓辺にいるレティシアを見た。


 レティシアは布を畳み終え、次の作業へ移ろうとしているところだった。いつものメイド服。落ち着いた所作。横顔は相変わらず美しい。俺の視線に気づいたのか、少しだけ顔を上げる。


「若様?」


「いや」


 ギルはすぐに首を振った。


 レティシアと引き離される。


 その想像だけで、さっきまで少し魅力的に見えた妄想が一瞬で腐った。


 俺が政治的に使えない貴族男子として奥へ下げられた場合、相手を選ぶ権利など残るはずがない。家にとって有益な相手をあてがわれる。母方の血筋も重視される。貴族、騎士、場合によっては有力な家との関係を考えた女性たちだ。


 その中にレティシアがいる保証はない。


 いや、レティシアは騎士家の娘で、俺の紋章も刻まれている。完全に無関係にはならないかもしれない。だが、優先されるとは限らない。家の方針として、もっと血統の良い女、政治的に意味のある女を先に置かれる可能性は高い。


 俺は、そんなの耐えられない。


 俺は基本的に、ラブラブイチャイチャが好きなのだ。


 ただ女と寝たいだけではない。


 いや、もちろんそういう欲もある。かなりある。そこは否定できない。だが、それだけではない。好きな相手と、互いに求め合って、甘やかし甘えながら過ごしたい。レティシアの反応を見て、声を聞いて、肌だけではなく心の距離まで近づいている感覚が好きなのだ。


 義務的に、次はこの女、次はあの女、今日はこの血筋、明日はあの家、などと並べられるのは違う。


 貴族としては正しいのかもしれない。


 魔力持ちの子を増やすなら合理的なのかもしれない。


 だが、俺の望むものとは違う。


 そして何より。


 引き離されたレティシアはどうなる。


 俺の側から離され、俺の部屋に来ることもできなくなり、別の役割を与えられる。


 最悪、別の男をあてがわれるかもしれない。


 騎士家の娘で、上級メイドとして有能で、美しい。


 そんなレティシアを放っておく理由がない。俺が使えない男として奥へ下げられれば、レティシアの扱いも変わる。彼女は家のために別の男の側へ送られ、その男に抱かれ、子を産むことになるかもしれない。


 その瞬間、ギルの腹の奥がぐっと熱くなった。


 絶対に許したくない。


 想像だけで嫌だ。


 胸の奥がざらつく。


 自分でも少し驚くほど強い拒絶感だった。


 レティシアは俺のものだ。


 下腹部に紋章を刻んだ時の感覚が、不意に蘇る。


 この世界の貴族として、その意味は重い。所有を示す風習。子を成す場所の上に刻む絶対的な印。前世の感覚ならとんでもない話だが、俺はもうそれを完全に否定できない。あれを刻んだ時、俺は確かに満たされた。


 レティシアを他の男に渡す。


 そんなことはあり得ない。


 いや、あってはならない。


 ギルは無意識に机の端を指で叩いていた。


 乾いた音が二度鳴る。


 レティシアが今度ははっきりこちらを見た。


「若様、何かございましたか」


「いや、少し嫌な想像をしただけだ」


「嫌な想像、でございますか」


「ああ」


 ギルは椅子から立ち上がり、少し歩いた。


 部屋の中を無意味に歩く。


 考えを振り払うように。


 窓辺へ行き、外を見る。中庭では騎士たちが動いていた。遠くで鎧の音がする。もしかしたら、セバスチャンがまた誰かをしごいているのかもしれない。


 そうだ。


 俺が馬鹿をやって立場を失えば、俺だけの問題ではない。


 筆頭騎士や直属騎士たちの出世ルートも閉ざされる。


 オルド、ジノ、クレイン、トール、他の騎士たち。彼らは俺の直属として選ばれた。俺が評価されれば、彼らにも道が開ける。俺が失脚すれば、彼らの立場も悪くなる。


 俺一人が面倒から逃げるために、彼らまで巻き込むことになる。


 それはさすがに悪い。


 セバスチャンはどうでもいい。


 いや、どうでもいいと言い切るのは少し違うか。


 あのクソじじいは強いし、どこにいても勝手に生きていきそうだ。俺が失脚しても、セバスチャン自身はあまり困らない気もする。下級騎士に戻るだけかもしれないし、父上が別の役目を与えるかもしれない。


 だが、筆頭騎士として選んだのは俺だ。


 俺が勝手に道を潰せば、一応なんとなく悪いような気がしないでもない。


 ほんの少し。


 いや、それなりに。


 ギルは窓枠に手を置き、息を吐いた。


「結局、地道にやるしかないのか」


「若様?」


「いや、こっちの話だ」


 お気楽な三男坊でいたい。


 だが、お気楽でいるためには、それなりに役目を果たさなくてはいけないらしい。


 完全に役立たずになれば、気楽になるどころか、レティシアを失うかもしれない。直属騎士たちも巻き込む。父上や兄上たちからの信頼も消える。そうなれば、俺が望む生活からむしろ遠ざかる。


 つまり、俺が今の生活を守るには、ある程度有能でいなければならない。


 最悪だ。


 面倒を避けるために、面倒をこなさなければならない。


 人生というのは、どうしてこう面倒なのか。


 前世でもそうだった。


 仕事を早く終わらせて楽をしたいから効率化する。すると、効率化できる奴だと思われて仕事が増える。適当にやればいいのに、適当にやりすぎると評価が下がって余計な損をする。だから最低限ちゃんとやる。すると、また別の仕事が来る。


 なんだ。


 異世界転生しても同じじゃないか。


 しかも今回は、資料作成や会議ではなく、帝国四帝家だの皇帝位だのが相手だ。


 規模が大きくなりすぎだろう。


 ギルはもう一度ため息をついた。


「レティシア」


「はい」


「俺は、気楽な三男坊でいたい」


「はい」


「だが、気楽でいるためには、どうやら最低限ちゃんとしなければならないらしい」


「左様でございますね」


 即答だった。


 もう少し慰めてくれてもいいんじゃないか。


 いや、レティシアは正しい。


 正しいから余計に困る。


「そこは、若様なら大丈夫です、とか言ってくれてもいいんだぞ」


「若様なら大丈夫でございます」


「今言われると少し雑だな」


「申し訳ございません」


 レティシアは小さく頭を下げる。


 その口元がほんの少しだけ緩んでいる気がした。


 からかわれたか。


 ギルは窓から離れ、レティシアの前へ行った。


 彼女は逃げない。


 ただ、俺を見上げる。


 その目が柔らかい。


 こういう目を見ると、さっきまで考えていた帝国だの使者だのザザント家だのが、どうでもよくなりそうになる。


 いや、どうでもよくはならない。


 ならないが、少し遠くなる。


「レティシア」


「はい」


「俺が馬鹿をやって立場を失ったら、お前はどうなると思う」


 レティシアは一瞬、目を瞬かせた。


 少し予想外の質問だったのだろう。


 だが、すぐに考える顔になる。


「若様が、どの程度の失態をなさるかによります」


「かなり現実的だな」


「はい」


「使者の前で、とんでもない阿呆を演じた場合は?」


「そのようなことはなさらないと思いますが」


「仮にだ」


 レティシアは少しだけ視線を下げた。


「若様の公的な役割はしばらく制限されるかもしれません」


「だよな」


「ですが、若様はマバール家の男子であり、魔力も非常に強くていらっしゃいます。完全に軽んじられることはないかと」


「裏で子作り要員か」


 言うと、レティシアの頬がわずかに赤くなった。


「若様」


「いや、そうなる可能性はあるだろ」


「否定は、できません」


「その場合、俺とレティシアは引き離されると思うか」


 レティシアの顔から、少しだけ赤みが引いた。


 彼女はすぐには答えなかった。


 その沈黙だけで、答えは分かった。


「やっぱりな」


「若様の立場が大きく変われば、わたくしの役割も変わる可能性はございます」


「別の男をあてがわれるか」


「……命じられれば、騎士家の娘として拒むことは難しいかと」


 その言葉を聞いた瞬間、分かっていたはずなのに腹が立った。


 レティシアにではない。


 この世界の仕組みにでもない。


 ただ、想像に腹が立った。


「嫌だな」


 ギルは低く言った。


「絶対に嫌だ」


 レティシアが俺を見る。


 その目が少し揺れた。


「若様」


「俺は、お前が他の男に触れられるのが嫌だ」


 言ってから、少し直接的すぎたかと思った。


 だが、もう言ってしまった。


「お前が別の男の側へ行くのも嫌だし、そいつの子を産むのも嫌だ。想像だけでかなり腹が立つ」


 レティシアの頬が再び赤くなった。


 だが、今度は恥じらいだけではないように見えた。


 嬉しさ。


 そういうものが混じっているように見える。


 もちろん、他人の感情を断定してはいけない。


 だが、少なくとも嫌がってはいなさそうだった。


「わたくしは、若様のものです」


 レティシアは静かに言った。


 その言葉は、軽くなかった。


「若様に紋章をいただいた時より、そのつもりでおります」


 ギルは息を呑みかけた。


 胸の奥が熱くなる。


 紋章。


 下腹部に刻んだ所有の印。


 レティシアがそれをどう受け止めているのか、完全には分からない。だが、今の言葉は俺にとってかなり強かった。


「なら、俺もお前を手放さないように頑張るしかないな」


「はい」


「面倒だが」


「はい」


「本当に面倒だが」


「はい」


「そこは否定してくれないのか」


「若様が面倒だと思われていることは事実かと」


「正しい」


 ギルは苦笑した。


 レティシアは本当に容赦ないところがある。


 だが、それがいい。


 甘やかすだけではない。


 必要な時に、ちゃんと現実を見せてくれる。


「では、とりあえず」


 ギルはレティシアの手を取った。


「ラブラブイチャイチャするか」


 レティシアの表情が一気に崩れた。


 驚きと羞恥が混じり、頬が赤くなる。


「若様、今はまだ昼でございます」


「昼だから何だ」


「この後、報告書の確認が」


「後でやる」


「使者への次回対応についての確認も」


「後でやる」


「セバスチャン様より、訓練予定の確認も」


「それは忘れたことにする」


「若様」


 レティシアの声が少し強くなる。


 ギルは握った手を軽く引いた。


「分かっている。全部放り出すつもりはない」


「本当でございますか」


「本当だ。俺は気楽な三男坊でいるために、最低限ちゃんとする男だからな」


「それは、先ほどご自身でお決めになったばかりでは」


「そうだ。だからまず、俺の精神を安定させる」


「精神を、でございますか」


「非常に重要だ。俺の魔力量と魔力強度を考えれば、精神的安定は家のためにも必要だろう」


 これは、かなりもっともらしい理由ではないだろうか。


 セバスチャンも以前、レティシアに俺の安定を期待していたようなことを言っていたらしい。なら、俺がレティシアで精神を安定させるのは、マバール家にとっても有益なはずだ。


 たぶん。


 いや、絶対そうだ。


 レティシアは少し困ったように目を伏せた。


「若様は、時々もっともらしい理由をお作りになりますね」


「貴族だからな」


「そういう問題でしょうか」


「たぶん」


 ギルはレティシアの手を引き、近くの長椅子へ座らせた。


 無理に寝台へ連れていくわけではない。


 さすがに昼だ。


 それに、今日は完全に堕ちると後が大変になる。


 だから、まずは膝の上に座らせるだけにした。


 レティシアは一瞬戸惑ったが、抵抗はしなかった。


 軽い重みが膝に乗る。


 柔らかな香りが近づく。


 ギルは背中から抱くように腕を回した。


 これだけで、かなり落ち着く。


 帝国のことが少し遠くなる。


 エレオノーラの金髪も、メガレア家も、ザザント家も、父上の執務室も、全部少しだけ薄くなる。


 目の前にはレティシアがいる。


 それでいい。


「若様」


「何だ」


「本当に、このまま少しだけでございますよ」


「分かっている」


「本当に?」


「たぶん」


「若様」


「努力する」


 レティシアは小さく息を吐いた。


 呆れているのか、諦めているのか、少し笑っているのか。


 たぶん全部だ。


 ギルは彼女の肩に額を寄せた。


「レティシア」


「はい」


「俺は、馬鹿をやって逃げるのはやめる」


「はい」


「ちゃんと最低限は頑張る」


「はい」


「だから、お前も俺の側にいろ」


 レティシアの体が、ほんの少しだけ静かになった。


 その後、彼女は俺の腕に手を重ねた。


「はい。若様のお側におります」


 それだけで、十分だった。


 いや、本当はもっといろいろしたい。


 かなりしたい。


 だが、この言葉だけでも十分に満たされるものがあった。


 俺はやはり、ラブラブイチャイチャが好きなのだ。


 ただの欲だけではない。


 相手が自分を選んでくれていると感じること。


 自分も相手を選んでいると伝えること。


 そういうものがたまらなく良い。


 これを失うくらいなら、外交の一つや二つ、頑張るしかない。


 できればやりたくないが。


 かなりやりたくないが。


 でもやる。


 お気楽な三男坊でいるために。


 レティシアを手放さないために。


 直属騎士たちの道を潰さないために。


 そして、父上や兄上たちの期待を完全に裏切らないために。


 なんだかんだで、俺はマバール家の人間なのだ。


「若様」


「何だ」


「そろそろ書類に戻られませんと」


「もう少し」


「先ほど、最低限は頑張るとおっしゃいました」


「最低限の前に精神安定が必要だ」


「十分安定なさったように見えます」


「まだ少し不安定だ」


「若様」


「あと少しだけ」


 レティシアは黙った。


 その沈黙を許可と受け取り、ギルはもう少しだけ彼女を抱きしめた。


 窓の外では、城の一日が続いている。


 使者は客室にいる。


 父上は執務室で判断を重ねている。


 上層部は情報を整理し、諜報機関はザザント家を見ている。


 セバスチャンは、どこかで俺の直属騎士たちを地獄に叩き落としているかもしれない。


 世界は面倒に動いている。


 だが、今だけはレティシアの温もりがあった。


 ギルは小さく息を吐いた。


 お気楽な三男坊への道は、思ったより遠い。


 だが、完全に諦めるつもりはない。


 面倒を避けるために、面倒を片付ける。


 矛盾しているが、それしかない。


 なら、やるしかない。


 そしてやった後は、こうしてレティシアと過ごす。


 それなら、まあ。


 なんとか頑張れる気がした。

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