レイナ、カフェのメニューを考える
その翌日。
私は、深層に潜りながら配信を立ち上げた。
カメラを自分の周囲に旋回させながら、視聴者さんたちに報告を行う。
「食材の皆さん、こんレイナ~! 昨日の今日ですが、カフェの企画が正式に決まりました。スポンサーは、いつものエリクシアさんです!」
"またいつもの犠牲者が・・・"
"もうこれ、実質ギルドメンバーでしょw"
"深層にカフェ作るとか、エリクシアって探索者集団だっけ?"
"《エリクシア株式会社》捕食者の夢、叶えさせていただきますよ!"
"公式さんまで捕食者呼びは草w"
「あ、エリクシアさん! ハコベール、とても便利です!」
私は、ダンジョン深層を練り歩きながらコメント欄を目で追いかける。
ときどき美味しそうなモンスターを見つけたら、ポイッとハコベールに放り込んでいく。
モンスターにとどめを刺さないでも良いので、ラクラクハコベールを使った生け捕り作戦は、癒やしのイメージを保つためにとても便利なのだ。
「というわけで、今日はメニューを決めたいと思います! やっぱりまず外せないのはこれですよね──ブルーマスカット!」
"上層から深層まで通用する劇物を、当たり前のように食べさせようとしないで!?"
"メニューこの子に決めさせたらダメでしょwww"
"メニューはアンカで決めようか"
"↑↑おいバカやめろ"
「あ、カフェには毒耐性はカンストさせてから来てくださいね。下層の美味しいものにはだいたい毒が含まれてるので、できれば完全耐性が好ましいです」
"無茶言うなwwww"
"ここはレイナちゃん基準だった、忘れてた"
"深層までたどり着けて、かつ完全毒耐性持ち……客が絶滅してるんだが"
"人間やめてるなら大丈夫かあ……って、捕食者と一緒にされるのはちょっと……"
私がそんなことを話していると、おもちくんが顔を見せる。
おもちくんというのは、深層のボスモンスター──デュラハンの中に入っていたおもちのような見た目のモンスターだ。美味しそう……、じゃなくて可愛い姿が大人気で、今ではダンジョンイーターズのマスコットキャラクターのように扱われている。
そんなおもちくんは、
「ドクガ、オイシイ……?」
ガーン、とショックを受けたような反応でそんなことを問うてくる。
「はい! 新宿ダンジョンの毒は最高です。これが本当に病みつきになって──新宿ダンジョン、本当に最高です!」
「ソ、ソンナ……」
ぷるんぷるんと震えているおもちくん。
美味しそう……、じゃなくてやっぱり可愛い。
"おもちくん今日も生存確認!"
"きもち小さくなった気がする。大丈夫、かじられてない?"
「おもちくんも毒こそが最高のスパイスって、そう思いますよね?」
「エェ…………」
おもちくんにも食材さんにも理解してもらえないけど、私はめげないのだ。
せっかくやるのなら全力で。やっぱり最高の料理を味わってこそ、癒やしのカフェを名乗れると思うわけだ。
「どうしてそこで諦めるんですか! 全力で毒耐性を身に着けて、美味しいもの食べて、全力で癒やされましょうよ……!」
"俺たちの知ってる癒やしと違う"
"癒やし(致死量)"
"そこまでの覚悟を求めないでwww"
面白がる食材さんたちだったが、どうにも評判は良くなさそうだった。
ブルーマスカット、本当に食べてみたら美味しいんだけどな。
"《千佳》それなら、イチドク、ニドクみたいにランクを設けるのはどうや? ほら、ココ◯チみたいに辛さを選ぶノリで"
"ココ◯チ「!?」"
"このカフェ、命の扱いが軽すぎるww"
「いいですねそれ、色とりどりの毒料理、用意しておきますね!」
"普通の料理でいいから!"
そんなことを話していると、ふと昔配信でやった企画を思い出す。
「そうだ! せっかくですし、アンカでメニュー追加しましょう。やっぱりリスナーの皆さんと決めてこそのカフェですよね!」
"ここでまさかのアンカww"
"ウッソだろおまえwww"
"これは美味しいメニューが追加されるんだろうなあ(すっとぼけ)"
大きな期待とともに、不安も漂うコメント欄。
(信じてますよ、食材さん……!)
私がアンカのスタートを唱えると、コメントに次々と料理──と料理化すら怪しい代物までもが書き込まれていく。
"フェニックスの焼き鳥!"
"おもちくん!"
"深層きのこのクリームパスタ"
"《彩音レイナ》はい!"
"おもちくん!"
"デュラハンまるかじり"
"ん~、毒フグのフルコースとくらげさんで"
"っぱ、おもちくんよ"
"おもちくん!!!!"
「おもちくん!」
「ヤメテッ!?」
私が声をあげると、ぷるんぷるんと震えながらおもちくんがハコベールに逃げ込んだ。
"奇跡的に回避w"
"おもちくんの人気に嫉妬"
「深層きのこのクリームパスタ……、ですね! なるほど、確かに美味しそうですね!」
響きだけで美味しそうで、思わずよだれが出てきそうだ。
「あ、それとフェニックスの焼き鳥もいいですね! 貴重な美味しい深層ボスです!」
"フェニックスくん、逃げてw"
"さすがは食材を求めて深層を彷徨ってた捕食者だ、面構えが違う・・・"
"攻略最前線のボスがメニューに並ぶカフェ、狂いすぎでしょw"
「他にも美味しそうなの思いついたらコメントくださいね! 私はもうちょっとダンジョンで美味しいものを探してみます!」
そんなこんなで私は、メニューについて食材さんたちと話しながらダンジョンを探索する。
下層から深層のあたりをぐるぐると徘徊しているが、なかなかピンとくる食材には出会えないのだ。
というより深層のボスモンスターは、どうにもクラゲさんとフェニックス以外は、あまり美味しくなさそうな見た目をしている気がする。
(いや、そもそも論でいくと……)
「このへんのモンスターも、マンネリ化してきましたねえ。うん、新宿ダンジョンだけだとカフェを開いてもすぐに飽きられちゃうかもしれませんね」
"いや、それはレイナちゃんだけだと思うw"
"ダンジョンモンスターをマンネリ化って考えたことなかった"
"むしろ見慣れたモンスターばかりの方が、安全に戦えてありがたいしなあ"
"でも食べること考えるなら、たしかに新しいやつもいたほうがいいのかな?"
コメント欄は、相変わらずすごい速度で流れていく。
「実は最近、フェニックス倒した後に三階層ぐらい潜ってみたんですよ。でも全然美味しそうなモンスターはいなくて……、やっぱりおもちくんが一番美味しそうなんですよね、じゅるり」
「ヒ、ヒエッっ……」
ハコベールの中から、おもちくんの悲鳴が聞こえてきた気がした。
(冗談なのに……)
というかハコベールの中には生きたモンスターも放り込まれてるけど、おもちくんは大丈夫かな? 他のモンスターと比べても、あまり強そうには見えないけれど。
"ん? 今、なんて言った?"
"散歩するようなノリで攻略最前線広げないでwww"
"息をするように深層ボス倒されてるじゃん"
"え? その時の動画は!?"
"なんだ。美味しそうなモンスターが居ないなら報告する意味はないな!"
"ヨシ、通れ!"
コメント欄は大盛りあがりだったが、特筆するべきような出来事はなかったと思うのだ。
少なくともフェニックスのような派手で美味しいモンスターはいなかったし。
「う~ん、いっそのこと新宿ダンジョン以外でも食材を調達しますか」
ポンと手を打ち、そう思いつきを喋る私。
「せっかくカフェを開くんですし、日本全国、いえ、世界中の美味しいものが食べたいですよね!」
"おお、ついにレイナちゃん全国に羽ばたく!?"
"なんかまた唐突にすごい告知来たww"
"まあレイナちゃんの実力なら、このダンジョンにこだわる必要もないだろうしね"
"レイナちゃん、どこ行くんだろう"
「そんな訳で、おすすめのダンジョン教えて下さい! 次の雑談配信で決めたいと思います!」
私は、そう締めくくり配信を締めるのであった。
その後、こっそりとフェニックスをつまみ食い──狩ったのは内緒である。
※新作はじめました!
【タイトル】捨てられた解呪師。呪われた廃都で、囚われた英雄たちを解放して大陸最強国家を築く
https://kakuyomu.jp/works/2912051607205969130
「それで、いつ王都を攻め落とすの相棒?」「攻め落としませんけど!?」





