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FREEDOM  作者: ホーリン・ホーク
last season
70/83

70.ベルザと海の息吹 ※

 温かく湿った深い闇の空間に、ベルザは横たわっていた。

 遠くから静かに、途切れ途切れに聞こえる波の音。

 打ち寄せる海の息吹が、やがて鮮明に記憶を呼び戻した。


 手の感覚……胸に手を置くと、傷はほとんど塞がっていた。

 起き上がるにはまだ痛むが、そこには生きている実感があった……。



 呼びかけはその胸に、ベルザに光をもたらした。


《聞こえるだろうベルザ。傷は癒えたな》


「……あなたは……俺を救けてくれたのか?」


《そう。私は鯨。君が慕ったキャプテン・キーティングの友達だった。君はよく仕えていたな。彼が最も信頼していた》


「あ、ありがとう……。……何て礼を言えばいいのか……あなたはいったい……」


《私は神の使い。神に仕える生き物。ただ今は君と一つになり、君と動こうとしている。邪悪を滅するために》


「……カイザ! そう、あいつを! 許せない」


《渦巻く邪心に悪魔が宿ったのだ。あの男は悪魔に仕え、魔物になり生き残った。その野望を挫かねば》



 ベルザの傍らに置かれたキーティング・チェスト。

 その周りには他にも無数の宝箱が散らばっている。

《ヘヴンズパールをキーティングの血族に委ねるのだ。その時まで、それはここに》

「俺一人で……できるのか」

《持てるものは持ってゆけ。動くために人は金が要るだろう》



 ****



 ベルザは蘇った。

 そして陸に上がり、カイザを捜した。

 時代は変わっていた。

 およそ百年の間に王室は衰退していた。

 国王エルドランド十四世は聡明でも人格者でもなく、子供にも恵まれなかった。

 政党与党の圧力で彼は隅に追いやられ、やがて王政は消滅した。


 カイザは〝リガル・ナピス〟と名を変え、強大な組織を築いていた。

 武器を造り売り捌き、私腹を肥やしていた。

 諸大国を手玉に取り、戦争をけしかけた。

 ナピスの拠点は無論エルドランドであり、ナピスと政府との密約をベルザは嗅ぎつけた。

 王室失脚の裏にはいたのはナピス。

 共明党党首と手を握り、〝希望と夢の国を作る〟と言わしめた。

 キーティングの言葉を流用した、カイザ。

 

 

 白鯨は嘆いた。

《悪魔は人間の心の隙に入り込む。弱肉強食は自然の摂理だが人は国家の正義のもとに捻じ曲げた。殺し合って何が生まれる。違う形を想像できないものか》

 その内なる声は促した。

《カイザ=リガル・ナピスはキーティングの血を怖れている。キーティングには三つの港に三人の妻がいた。その子息がどうなっているか。救わねば……》



 ベルザは各地を渡り調べ歩いた。

 ナピスはキーティングの末裔をことごとく殺していた。

 結果一九三五年、残る子孫はビル・ウィリアムズとその娘クリスティーン、のみだった。

 


 ベルザは地下組織〝ソサエティ〟を掲げ、そのメンバーとしてかつてキーティングに仕えた家系の者や、ナピスの暗躍に家族を奪われた者たちを集めた。

 やがてビルは癌を患い、クリスティーンは娘を残し白血病で逝ってしまった。



 一九五六年、リッチー・ヘイワースにたどり着くまで、ベルザはキーティング・チェストを守り続けた。



 ****



挿絵(By みてみん)

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