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FREEDOM  作者: ホーリン・ホーク
fourth season
60/83

60.友の死とヴォーンの正体

 ソウルズの一人、ホウリンのとった行動にリッチーたちは言葉を失っていた。

 ホウリンは言っていた。

『人間てのは不確かなもんだ。だから自分の死に場所ぐらいは自分で決めてえんだ』

『輪廻転生信じてんだぜ。こう見えてもロマンチストだからな俺は』

 そう言って白い歯を見せ煙草を咥えてニカッと笑う。そんなホウリンが好きだった。

 リッチーたちは彼の覚悟に敬意を払い、その意志を胸の奥に焼き付けた。



 目的地に着く直前のラジオ放送が一同を揺るがした。

 イーストリートの爆発事故。

 二箇所の馴染みの地区の惨状が手短かに伝えられた。

 やがてベルフィールドの地へ。

 そこにはソサエティの隠れ家のログハウスがある。


 待っていたソサエティの指導者ベルザは言った。

「……それは事故ではなく、ナピスの手によるものだ。潜伏させているメンバーからの情報で我々も早く動いた。アパートの方はマルコ君家族もクリシアもブリウスも避難が間に合った。無事だ。ここに居る。だがポール・ロッソ君の方はまだ確認がとれていない」


 ちょうど時を同じくしてメンバー、セリーナ・サーカシアンが駆けつけた。

 彼女はジープから降り、暗い面持ちで首を横に振った。


「何もかも木っ端微塵で……跡形もない」

 セリーナから親友ポールの訃報を聞き、茫然と立ち尽くすルカ。

 彼の顔は引きつり、出迎えていたブリウスを抱きしめた。

「……う、嘘だろ……信じられねえよブリウス……あ、あのポールが」

「おじさん……」

「俺は信じねえ!」と、ルカは膝をつき叫び散らした。



 ベルザは手をかざし、ジミーの傷を癒した。

 ヘヴンズパールの光がジミーの体を包み込む。

 ベルザが見透す、ナピスの息差。

 右腕の注射痕は自白剤と血清のものだが、リバ族の精霊に守られたその身体をヘヴンズパールが浄化していった。

 やがて震えがおさまったジミーはリッチーの手を強く握り返した。



 ****



 一夜明け、ルカがテラスの椅子に腰掛ける。

 冷たい朝、ただ遠くを見つめて。

 ブリウスが近づいても、しばらくは黙っていた。

「……おじさん。大丈夫?」

「……おお、ブリウス。……すまん。もうしばらく、独りにしてくれ」

 涙目で後ずさるブリウスに、ルカは小さな声で言った。

「……お前がマルコさんのとこにいてラッキーだった。もしポールといて、お前まで失うことになってたら……さすがに俺も立ち直れん」



 マルコはあらためてベルザとセリーナに感謝を伝えた。

 ベルザはその肩を叩いた。

「マルコ君。そもそも巻き込んだこちらが悪いんだ。アパートの住人たちも強引に避難させたが、酷く迷惑をかけた。面目ない」

 ベルザの顔はひどくやつれていた。

 マルコもつらかったが、話を進めた。

「ベルザ。どうしても聞きたいことが。アパートに現れたヴァル・ヴォーンという捜査官のこと。ジャックの部屋に押し入ったそいつは俺を見るなり顔色を変えた。何かを思い出すように態度を変えた。風貌はかなり違っていて普通誰も気づかないだろうが、あの目つき、あれはクリスティーンの付き添い人だった〝ブライアン・ヒル〟ではないかと」

 ベルザの表情は重く沈んでいた。

「当時クリスティーンが結婚した後、ブライアンは死んだと、あなたから聞かされたが」

「……うむ。死んだ、はずだった」

「はず?」

「そう。ナピス討伐に出向き、殺された。だが我々も窮地に陥り、彼の亡骸は回収できていない」

「……ん? それは……」

「信じられないかもしれないが、リガル・ナピスは死人をも蘇らせる。開発した悪魔の血清は憎悪や怨念につけ入る。邪気を増幅させ、脅威の力を与える。ブライアンはあの時捕らえられ、おそらく、蘇生した……」


 顔をふさぐベルザの肩をさすりながらセリーナが横から事実を認めた。

「そうよ。マルコさんあなたの推察通り。録音テープの声紋をハリー・イーグルが調べた結果、ナピスの斥候ヴァル・ヴォーンはソサエティの元メンバー、ブライアン・ヒルだと断定した。彼はナピスの怪物となって蘇った」

「やはり……」

「リガル・ナピスはブライアンの記憶をあてにソサエティのアジトを、ベルザを見つけ出そうとしている」


 そこでリビングのドアが開き、話を聞いていたリッチーと、彼に支えられたジミーが入ってきた。

「だいぶ良くなりました」とジミーは頭を下げ、見た事を話した。

「あの収容所で、俺の目の前でピンブルは『ヴォーンはブライアンだ』と言い、そいつに殺された。そのヴォーンの狂気を操るかのように、隣りに車椅子のリガル・ナピスがいた」


 次にリッチーが語る。

「警官のウィップスも怪物と化した。ジャックの友達だったコーチーズも憎悪と怨恨で生きてきたという。ではそのブライアンの憎悪とは? 組織に見捨てられたことへの恨みか? 彼の中にあったものとは……」

 眉間を押さえながらベルザは答えた。

「ブライアンはクリスティーンを愛していた。それをジョージに奪われたと妬んだ。彼は心の底でジョージを憎んでいたんだ」

 ベルザは手で顔を塞ぎ、嗚咽した。

「……いや、憎むべきは私だ。そもそもがブライアンをソサエティに引き入れた、私なんだ」

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