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FREEDOM  作者: ホーリン・ホーク
fourth season
59/83

59.キャプテン・キーティングと白鯨 ※

 デッド・ポエッツ・ソサエティ号から見下ろす夜の海原に、一頭の鯨が寄り添うように泳いでいた。


「白鯨だ……」

 そう言って目を凝らしていたダニエル・ヘイワースの視線はキーティングに移る。

「うむ。俺の友達だ」

 隣りに立ったキーティングはそう答えてリンゴをかじりながらヘイワースに語り始めた。


「……あれは猛吹雪の北極海を遭難しかけた時だった。俺を呼ぶ声が聞こえた。その声の主はあの鯨で、俺に救けを求めていた。俺は海に飛び込み、腹に刺さった銛を抜いてやった。その礼にと我々を極寒から海路を導いてくれたんだ……」

「……声が聞こえたと?」

「そう。あいつは神の使いだ」

 キーティングは嬉しそうに語る。

「デカいからな。そして美しい」

「ああ。心を奪われる」

「だが人間なんて、悲しいほどに小っぽけだ」



 不思議だな……とヘイワースはまた白鯨を見つめた。

 キーティングは頷いた。

「以来、俺たちの周りを彷徨(うろつ)いてる。……よく話をするんだ。あいつは嘆いている。この星は荒れつつある。邪気が渦巻いていると」

「大海賊と呼ばれるあんたが言うと変だな。皆あんたを恐れ、悪と見做してきた」

「俺は強権王政に抗うまでだった。これまで手荒なことはしたが、女子供、弱き者を殺しちゃいない。実はな。血を吐くようになって怖くなったんだよ」

 ヘイワースは顔を向け目を見開く。

「どこか悪いのか?」

「はは。顔はいいんだがな。己の死期なぞ俺のみぞ知る。まぁ、宿命には逆らえん。しかしチェスト奪還の目的は果たす。疲れたら、ベルザとお前に譲るつもりさ」

 そう言ってヘイワースの肩を叩いた。

「お前たちのことを教えてくれたのもあの白鯨だ。かつて我々は仲間だったと」

「俺たちと……」

「ああ。上も下もない。未来を拓くには俺たち隣人種族が手を取って理解し合い、共に歩むことだ」



 ****



 一七五二年。海賊船デッド・ポエッツ・ソサエティ号の上。

 王宮の蔵から奪還した宝箱(チェスト)を感慨深く眺めるキャプテン・キーティング。


「これぞ我が祖キーティング王の遺産、キーティング・チェストだ」


 側近のカイザが顎をさする。

「金銀財宝。『世界を我が手に!』ですな」

「それだけではない。中には万物創世の結晶〝天界の真珠(ヘヴンズパール)〟が入っている」

「……ヘヴンズパール?」

 キーティングはヘイワースを呼んだ。

「このチェストを開けられるのはお前たちの神器〝レプタイルズ・キー〟だけだ」

 ヘイワースは胸に手を当て、密かに携えているキーを確かめた。



 カイザは隣りに立つベルザに訊いた。

「何なんだ? ヘヴンズパールって」

「この世界を創造した爆発のエネルギー、それを内包した、光の球体。……だとキャプテンに聞かされた。はるか昔、この国を統治していたキーティング王は神の啓示を受けた。ヘヴンズパールは建国と統治に光明をもたらす宝珠。また、蔓延(はびこ)る邪悪を滅する力を持っていると。ある種のお伽話……伝説らしいが」

「しかしそこで謀反を起こしたのが、一人の宰相……」

「そう。かのエルドランド一世。今の圧政時代の礎を作った男だ。キャプテンは永年の宿願を果たした。ヘイワースたちの力を借り、ヘヴンズパールを奪還した」


 ベルザはそう言って皆を抱きしめるキーティングに微笑む。

 カイザは左頬をさすりながら白い歯を光らせる。

「これでいよいよ我らがキーティングが王に返り咲き、この国を支配するわけだな」

「……いやカイザ。それは少し違う」

「はあ?」

「うむ。キャプテンの願いはもっと違う次元にある」

「意味がわからねえ。権力と掌握。俺たちが担ぐんだろが」

「希望と夢の国を作ると。キャプテンは未来を()ているんだ」



 カイザはベルザから離れ、キーティングへ酒を注ぎに。

「おぅ。カイザ。軍師カイザよ。お前も飲め」

「はは。キャプテン。……ベルザから聞きました。王座奪還の鍵を握るヘヴンズパールの話を。私にも詳しく……」

 ()()()()、年中フードを被ってやや左の頬を隠しているカイザ。

 キーティングは腰を屈めてその目を覗き込んだ。

「カイザ。あの時はすまなかった」

「……い、いえ」

「俺はお前を買っている。わかるか? 軍師カイザがいなければ生き残れなかった」

「は、はい。それはキーティング家に仕える者の使命」

「……なあ、カイザ。どうしたら争いはなくなると思う?」

「へ?」

「次はそれを考えてくれ。お前のその秀でた頭脳で」

 カイザは固まった。

 肩を叩き、落ち着いたらなと言い寝室へ戻ろうとするキーティングの後を追う。

「キャプテン!」

 ほろ酔いで上機嫌のキーティングは振り向き、人差し指を立て言った。

「そうだ。先ずは食い物だ。皆に等しく食料が行き渡るように」

 リンゴを手に、笑顔で言った。

「お前が調達してくるリンゴ。いつもめっちゃ旨いぞ」





 ギターとバンジョー、コンガが鳴り響く。

 その夜、開かれる洋上のダンスパーティ。

 ヘイワースの妹トレイシーは美しく踊る。

 キーティングは彼女の目に誘われる。

 手拍子に合わせ二人は踊った。

 ヘイワースは温かく見守った。

 平和への願いを込めて。


 このリズムに憂いが解き放たれ、永遠(とわ)に自由でありますように。

 そしてレプタイルズの戦士デュークはそれを静かに見つめていた……。



挿絵(By みてみん)

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